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第三十一話 これがラム酒漬けならぬナム酒漬けだ!

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 あの後、利益の四割を献上するでカミーユは即決し、ぼくらは契約を取り交わすこととなった。
 やった、これでお金持ちになった上にスイーツを食べまくりになれる!
 
 数日後。ナム酒漬けの方法を教えるために、カミーユにションバーの実とナム酒と瓶を持って来させた。

 もちろん、室内にはシルヴェストルお兄様もオディロン先生もいて、ぼくらを見守っている。

「ビンはしゃふつしょーどくしてきた?」
「はい」

 カミーユが瓶をテーブルの上に置く。

「ションバーの実は煮てきた?」
「はい、すべてご指示通りに」

 テーブルの上に、袋が置かれた。袋の中に、煮て水気を切ったションバーの実が入っている。

「じゃあ、ビンの中にションバーの実をいれて」
「かしこまりました」

 袋の中から瓶の中へと、ションバーの実が移し替えられる。

「それから、ションバーの実がぜんぶ浸かるまで、ナム酒をいれて」
「全部浸かるまで、ですか?」
「うん。浸かってない実はくさっちゃうからね」
「かしこまりました……!」

 ボトルから瓶の中へと、透明なナム酒が注がれていく。ラム酒とは違って透明なんだな、とぼくは興味津々で見つめる。

「入れました。あとはどうすればよろしいですか?」
「あとはふたをして、すずしくてくらいところでほぞんするだけ! ほぞんしているとちゅうでビンをさかさまにすると、ションバーの実のすきまにナム酒がしんとーするよ。いっしゅーかんもすれば、おいしくたべられるようになるよ」
「こ、これだけで何ヶ月も保存が効くのですか?」
「はじめてやるからわかんないけど、たぶん半年から一年くらいもつかな」

 代表的な果物の保存法と言えば、砂糖漬けだ。
 砂糖漬けにすることで果物内の水分を減らし、殺菌して腐敗を防ぐのだ。
 
 ただこの世界には砂糖は存在しない。ハチミツも存在しないから、ハチミツ漬けもできない。
 だが、ナミニの実で作られたナム酒ならば存在する。ぼくは子供だから飲んだことはないが、オディロン先生が甘いお酒だと教えてくれた。
 だから、砂糖漬けの理論と同じ理論で、ナム酒漬けにすることで果物が保存できるようになるのだ。

 ラムレーズンならば半年から一年は保つ。
 ただ、ラム酒じゃなくてナム酒を使っているし、ぶどうじゃなくてションバーの実を使っているから、この世界ではどうなるかわからない。
 
「初めて……? やったことがないのに、どうしてリュカ殿下は方法をご存知なのですか? いえ、そもそもどうしてそれほど年若いのに、誰も知らないナム酒の利用法をご存知なのですか?」

 ぼくはシルヴェストルお兄様や、オディロン先生と顔を見合わせた。
 どうしよう、至極まっとうな質問を投げかけられてしまった。

「そんなの決まっている」

 シルヴェストルお兄様がぼくの肩に手を置き、そっと抱き寄せる。

「オレの弟だからだ。オレの愛する弟なんだから、人より優れているのは当然のことだ」

 うわぁ、お兄様ったらぼくのことそんな風に思ってたんだ。弟馬鹿だなぁ。
 道理で今まで細かいことを聞いてこなかったわけだ、と納得した。

「王族の方は下々の者にはない、特別な能力を持っておられるものです」

 オディロン先生もまた、にこにこと頷く。
 まあ占い師の人って、俗世のこととかあんまり気にしなさそうだもんね。

「単純に優れているというだけでは、説明がつかないと思われるのですが」

 この中では唯一俗世に足をつけて生活しているカミーユは、二人の説明では納得しなかった。

「ねえ、カミーユ」

 ぼくはとてとてと、カミーユに近寄った。

「しょーにんさんって、あくまにたましいを売ってでもおかねもうけしたい生き物なんでしょ? じゃあ、ぼくのしょーたいなんて、かんけーなくない?」

 ぼくは小悪魔スマイルでウィンクした。
 カミーユはぼくの言葉を聞いて目をまん丸にし……からからと笑い出した。

「アハ、アハハハハ、たしかにその通りでございます! 私は一体、何を気にしていたのでしょうね? ええ、ええ、金儲けができるのならば、リュカ殿下の知識の出所など些事でございます!」

 今まで爽やかな笑顔ばかりだったのに、初めて見る野心を剥き出しにした、ギラギラとした笑顔だった。

 こうして、カミーユもまたぼくの協力者となったのだった。

「ふふ、せっかくナム酒づけがゲットできるんだから、あたらしいレシピをかいちゃおっかな」
「ほう、今度は何のレシピを書く気なんだ?」

 シルヴェストルお兄様が、興味津々に聞いてくる。

 今度作ってもらいたいスイーツは決まっている。
 ラムレーズンを使ったスイーツの中で、もっとも美味しいスイーツの一つだと前世の自分が思っていたやつを作るのだ。

 そう、六〇亭のバターサンドを!
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