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第十六話 絶対にショートケーキを食べてみせる

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「ふっふん」

 ぼくはついにクッキー作りに成功し、クッキーを食べることに成功した。
 この調子で、次々と他のスイーツも作って食べてやる。ぼくは野望に燃えていた。

 クッキーを食べた日に熱を出して倒れたということで、ぼくはいまだにベッドに寝かされている。でも元気になってきているし、部屋の外へ出る許可が下りる日はそう遠くはないだろう。

「ん~」

 次は何のスイーツにしようかな。
 ベッドの上に板を乗せ、紙をその上に広げた。羽ペンを握りながら、書くべきレシピは何かと思いを馳せる。

「そんなところで書き物をして、寝台を汚すんじゃないか?」
「おにいちゃま! きょうもおみまいにきてくれたの?」

 シルヴェストルお兄様の声に、ぼくは顔を上げた。
 気づかない間に、室内に彼がいた。

「ああ、そうだとも」

 シルヴェストルお兄様はぼくに柔らかく微笑んだ。彼がぼくに見せる表情は、甘々な表情ばかりだ。
 なんだか思っていた以上に、シルヴェストルお兄様はぼくのことが大好きなようだ。一体、どうしてだろう。

「それ一体、何を書こうとしていたんだ?」

 優しく微笑む彼は、まるで物語の中の王子様のようだ。ぼくに対してだけ見せる、爽やかな顔だ。

「つぎのスイーツのレシピ、なににしようかなって」
「スイーツとやらは、クッキーだけではないのか? 他にもレシピを知っているのか?」
「うん、そだよ。う~ん、やっぱりショートケーキが食べたいなぁ」

 ぼくは呟きながら、イチゴのショートケーキを思い浮かべた。
 赤いイチゴが上に乗っていて、切ってみると中にもぎっしりクリームとイチゴが詰まっているのだ。
 ショートケーキこそ、スイーツの女王様だ。

「しょーとけーき? それがどんなスイーツのなのか、オレも知りたいな」
「あのね白くてね、イチゴっていう赤い果物が乗っててね、クリームたっぷりなの!」
「よくわからないが、美味しそうだな」
「まってね、いまレシピかくから!」

 ぼくは羽ペンを走らせ始めた。
 少しして、羽ペンは動きを鈍らせた。

 生クリームが必要だけれど、この世界にクリームなんてあるわけない。クリームが牛乳から脂肪分以外を取り除いたものだとは知っているけれど、どうやって作るんだろう。
 遠心分離器がどうの……みたいな記憶はおぼろげにあるけれど、遠心分離器なんてこの世界にあるわけがない。

 そもそも野菜も果物も常識も何もかも前世とは違うこの世界には、イチゴは存在しない。

 クリームもイチゴもないならば、ショートケーキにはならない。

「うぅー……」

 どうやらショートケーキが作れなさそうだと悟り、悲しさと悔しさのあまり視界が滲んだ。

「ひぐっ、ひぐっ、えうー、ショートケーキぃ……」

 毛布の上に、ぼたぼたと大粒の涙が落ちた。
 
「どうしたんだリュカ、大丈夫か⁉」

 シルヴェストルお兄様が、ぼくの涙に動揺を見せる。

「ショートケーキのねっ、ひぐっ、材料がないのぉ……っ」
「材料がない? そんなのオレが買ってやる」

 シルヴェストルお兄様の言葉に、ぼくは大きく首を横に振った。

「このせかいに、そんざいしないのぉ……! うえーん!」
「こ、この世界に存在しないだと……⁉」

 ぼくの言葉を聞いて、彼は狼狽えた。

「じゃ、じゃあ……なんとかして誰かに作らせればいい。そうだろう?」
「だれかに?」
「ああ、リュカのためならオレはなんだってする! どんなに時間がかかったって、リュカの望みを叶えてやる!」

 赤い瞳が、熱く輝いている。
 気がつけば、涙が止まっていた。

「ほんとう?」
「もちろんだ!」

 力強く肯定した彼は、ぼくの手を握ってくれた。
 彼の真剣な眼差しに、いつかはクリームもイチゴも手に入るのではないかと思えた。

「だから泣き止め、な?」
「うん、わかった」

 ぐしぐしと手で顔を拭った。

「ぼく、ショートケーキをつくれるまであきらめない」

 すぐにはショートケーキを作れないだろう。
 だが、絶対に諦めないとシルヴェストルお兄様のおかげで決心できた。もしかすればショートケーキを食べれるようになるころには、大人になってしまっているくらいの時間が必要かもしれない。
 
 それでも、絶対にこの世界でショートケーキをいつの日か食べてみせる。
 ぼくは心に決めた。
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