上 下
4 / 10

第四話 カッコいいギルマスに拾われる

しおりを挟む
「最近、この辺りでガラの悪い連中に被害を受けたという報告が多くてな。パトロールしていたのだ」

 パトリックと名乗った男は、剣を鞘に納めながら説明した。

「君、怪我は? 家まで送ろう」
「家はないです、旅人なので……」

 彼は安心させるように微笑みを向けてくれる。
 俺が男に襲われていたことに彼が触れないでいてくれるので、助かったという心地になる。

「ならば宿まで送ろう」
「宿もまだ取ってないんです。町に着いたばかりで」

 町について早々、怪しい男たちについていって襲われた事実が情けない。
 俺はぼそぼそと答えた。

「そうか……ならば、とりあえず私のギルドに来るかい?」
「は、はい!」
 
 彼の親切な提案に、俺は一にも二にもなく頷いた。
 どこだろうとこの寂れた裏路地よりはずっと良い場所に違いなかった。

 ◆

 冒険者ギルド、シルバークロウ。
 その一室に俺は通され、身体を清めるための清潔な布とお湯を用意してもらい、一人にしてもらった。
 男たちに素肌を触られた感触を忘れたかった俺は、ありがたく身体を拭かせてもらった。

 ソファに埋もれるように座ってぼうっとしていると、ノック音。
 ドアを開けると、パトリックの顔がそこにあった。

「お腹は減っているかな? パンとスープを持ってきたのだが」

 スープの温かそうな匂いが香る。
 途端に、ぐううと腹が鳴ったように感じられた。

「お腹、減ってます。ありがたいです」

 俺の返答に彼はくすりと微笑み、室内に入ってきた。
 テーブルの上にパンとスープの載った盆を置いてくれる。

「いただきます!」

 手を合わせ、俺はパンとスープにありがたく手をつけた。

「君はこれからどうするつもりなんだ?」

 あらかた食べ終わった頃、パトリックが優しく尋ねてきた。

「あの、ここって冒険者ギルドなんですよね?」
「ああ、そうだとも」
「……俺、ここで働きたいです!」

 彼が冒険者ギルドのマスターだと名乗った時から、これは幸運だと思っていた。
 冒険者ギルドというからには、冒険者の働く場所のはずだ。
 職を得て、冒険者のイロハをいろいろと知るチャンスだ。

「それはあまりおすすめできないな」

 だが、彼は首を横に振った。

「なぜですか!?」
「冒険者というのは憧れるような職業ではない。憧れや一攫千金狙いだけで冒険者を目指そうと思っているのならば、やめた方がいい。冒険者というのは、家も家族も故郷もない流れ者が日銭を稼ぐために残された最後の手段だ」

 パトリックは、穏やかな声で諭す。

「だから、です。この世界には、家も家族も故郷もないので……」

 俺は俯きながら自嘲めいた笑みを浮かべる。
 異世界転生だなんだと浮かれていたけれど、頼れる人が誰もいない状況でスタートってよくよく考えると結構なハードモードだなと。
 今さら現実が見えてきた。

「それは……すまない。そうだな、冒険者を目指す者にはみな事情がある。私が愚かだった」

 俺の言葉を聞いて、彼が申し訳なさそうに眉を下げた。

「そんな、謝らないでください!」
「『シルバークロウ』は出自や人種その他の事情に関わらず、実力のある冒険者ならば採用してきた。なのに君には門前払いするような言動を取ってしまった。謝らせてほしい」

 彼は頭を下げた。
 真面目な人だ。彼の態度を見て、異世界転生さえすればバラ色人生スタートだと浮かれていた少し前の自分が恥ずかしくなった。
 今の俺に頼れる人がいないのは事実だが、俺は彼の思っていたような『憧れだけで冒険者を志望するおのぼりさん』そのものだった。

「だから、君が本気ならばギルドの入団試験を受けてもらいたい。君がうちでやっていけるだけの実力があると分かれば、是非とも歓迎したい」
「是非とも受けさせて下さい!」

 いずれにせよ、巡ってきたチャンスは物にしなければ。

「そういえば君、名前は?」
「俺はレイヤ。上倉レイヤです」
「レイヤくんか。君にこのシルバークロウの入団試験を課そう!」

 パトリックさんはにこりと笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

少年院の成人式

風早 るう
BL
非行を繰り返し少年院に入った秋月 奏多(あきづき かなた)は、院内で18歳の誕生日を迎えることになった。 誕生日なんかどうでもいい…。 そう思っていたら、看守から告げられた。 『院内で18歳を迎えた少年の、成人式を行う。』 その成人式とは、奉仕の精神を学ぶための矯正教育で、少年院の運営費用を援助してくれるスポンサー達へ、非行少年達が性的に奉仕するという内容だった…。 秋月 奏多(あきづき かなた)18歳 子育てに無関心な母親に育てられた。 度重なる非行により母親が養育を拒否したため、少年院送りとなる。 四菱 亜蓮(よつびし あれん)  スポンサー。日本を代表する財閥の有力者で、近寄り難い程の美貌の持ち主。立場上、少年院や刑務所のスポンサー行事に顔は出すもののサービスを受けたことはなかったが、奏多のことを気に入る。 阿久津 馨(あくつ かおる) スポンサー。中性的な美貌の高名な精神科医。日頃から非行少年の更生に尽力しており、根が純情で更生の可能性が高い奏多のことを気に入る。 *おちゃらけ&とんでも設定なので、心の広い方向けです。

浮気性で流され体質の俺は異世界に召喚されてコロニーの母になる

いちみやりょう
BL
▲ただのエロ▲ 「あーあ、誰か1人に絞らなくてもいい世界に行きてーなー」 そう願った俺は雷に打たれて死んでなかば無理やり転生させられた。 その世界はイケメンな男しかいない。 「今、この国にいる子を孕むことができる種族はあなた一人なのです」 そう言って聞かない男に疲弊して俺は結局流された。 でも俺が願った『1人に絞らなくてもいい世界』ってのは絶対こう言うことじゃねぇ

生贄として捧げられたら人外にぐちゃぐちゃにされた

キルキ
BL
生贄になった主人公が、正体不明の何かにめちゃくちゃにされ挙げ句、いっぱい愛してもらう話。こんなタイトルですがハピエンです。 人外✕人間 ♡喘ぎな分、いつもより過激です。 以下注意 ♡喘ぎ/淫語/直腸責め/快楽墜ち/輪姦/異種姦/複数プレイ/フェラ/二輪挿し/無理矢理要素あり 2024/01/31追記  本作品はキルキのオリジナル小説です。

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

至る所であほえろイベントが起こる学校。

あたか
BL
高校一年生の遠野は男が大好きである。 下品な表現あり。アホエロBL注意。

魔術師は敵国の騎士団長に民衆の前で公開プレイされてしまう!

ミクリ21
BL
騎士団長×魔術師で公開プレイ!

浮気をしたら、わんこ系彼氏に腹の中を散々洗われた話。

丹砂 (あかさ)
BL
ストーリーなしです! エロ特化の短編としてお読み下さい…。 大切な事なのでもう一度。 エロ特化です! **************************************** 『腸内洗浄』『玩具責め』『お仕置き』 性欲に忠実でモラルが低い恋人に、浮気のお仕置きをするお話しです。 キャプションで危ないな、と思った方はそっと見なかった事にして下さい…。

検証、 エロい奴とエロい奴がSEXをすれば滅茶苦茶エロいSEXが出来るんじゃないか説

朝井染両
BL
リクエストでアホなの!!と頂きましたのでそこそこアホなのをご用意させて頂きました!!!! 連載はわたしに向かないことがわかりました!!!! ベストof阿呆です!! リバですのでお気をつけ!!

処理中です...