誰からも愛されないオレが『神の許嫁』だった話

野良猫のらん

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番外編:新婚旅行と水の落とし子編

第二十九話*

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 ハオハトとウエルは、食事後泊まる部屋に案内された。
 部屋には既に二組の布団が敷かれている。

「まさか泊まらせてもらえるなんてな」

 部屋の隅に、ウエルは荷物を下ろした。
 ハオハトが虚空から何でも取り出せるから荷物を持ち歩く必要はないが、旅人が荷物の一つも持っていないのは不自然だということで持っていた。
 山跳び時代に運んでいたものに比べれば、荷は羽のように軽かった。

「ナオシジという人の子は善良な性質を持つようだ」

 ハオハトもこくりと頷く。

「……ハオハト」

 身軽になったウエルは、ぎゅっと彼の身体を抱き締めた。

「ウエル?」
「改めて、さっきは守ってくれてありがとうな。あと、無茶してごめん」

 ふたりっきりになったら、抱き締めようとずっと思っていた。
 こうして部屋に入れて、我慢していた想いが溢れ出す。
 彼に口づけしとうと、顎を上げる。つま先立ちをし、懸命に背伸びして……それでも届かなかった。

「ああ、ウエルから口づけを求めてくれるなんて……! 口づけしたいんだね、わかったよ!」

 彼は感激したように目を潤めると、背を屈めてくれた。
 ちゅ、と唇と唇が軽く触れ合う。
 だが唇が離れると、ウエルは頬を膨らませた。

「違う、これじゃあオレがハオハトに口づけされてるだけじゃないか! オレがハオハトに口づけしたいのに!」
「そのふたつは違うことなのかい?」
「大違いだ! ハオハト、そこの布団に横になれ! 動くなよ!」
「わかったよ」

 彼は大人しく布団に横になってくれた。
 彼の上に跨ると、ウエルは屈み込んだ。
 頬に口づけを落とす。

「ハオハト……好きだ、好き」

 ちゅ、ちゅと幾度も口づけを落とす。
 彼が自分を愛してくれて、守ってくれていることへの感謝の念。そんな彼への愛しい想い。彼が伴侶であることが信じられない奇跡に思えて……愛おしい想いを表現しなければ収まりそうにない。

「大好き」

 両手で彼の顔を包み込む。
 それから唇と唇を触れ合わせ、舌を挿し入れた。
 自ら舌を動かし、彼の舌を絡め取る。

 熱く、蕩ける。
 舌と舌が溶け合って、ひとつになってしまいそう。
 熱を持った中心が彼の腹に当たっているのがわかる。

 舌を引き抜くと、銀の糸が引いてプツリと切れた。

「たしかに私が口づけをするのと、ウエルのが口づけしてくれるのは大違いだね。この上なく可愛らしかったよ。ウエルに求められているのを肌で感じられる」

 彼は微笑むと、ウエルの下肢を軽く撫でた。
 膨らんだそこを。

「……ウエル、する?」

 彼の静かな問いかけに、頬が熱くなるのを感じる。
 だが我慢しなければならない事情がある。

「泊めてもらった部屋だし。布団を汚してしまったりしたら、迷惑になる」
「汚れなんて、私が一撫ですれば消えるよ」

 たしかに、それはそうだ。
 衣服についた墨も、食べ物の染みも彼は瞬時に消してしまった。

「それはそうだけど、でも心理的に抵抗があるというか……」

 汚れが消えるからといって、他人の物を遠慮なく汚してしまっていいものか。布団は綿がたっぷりと入っていて、新品のように真っ白だ。こんないい布団を汚してしまうなんて。

「じゃあ、あまり布団が汚れなさそうな体勢でシてみる?」
「あまり汚れない体勢?」

 首を傾げると、彼の手がウエルの腰に添えられる。

「ウエルがこのまま腰を下ろして、繋がればいい。そうしたらあまり布団に汚れが付着しないだろう?」

 彼は、ウエルが上になって跨ったまま繋がればいいと言った。

「たしかに……」

 自分が下になるより、汚れづらそうだ。

「わかった、そうする」
「ふふ。じゃあ、脱がすよ」

 腰に添えられていた手が、ウエルの下衣を下にズリ下げていく。
 下着ごとズリ下げられ、ウエルの下肢が露わになる。
 頭を擡げているウエルの中心を、蒼い瞳が愛おしげに見つめている。頬から火が出そうだ。

「ウエル、舐めて」

 彼がウエルの目の前に人差し指を差し出す。
 ウエルは羞恥を覚えながら、ぱくりと人差し指を咥えた。
 彼の細長い指を粘液まみれにしていく。
 単に指を舐めているだけなのに、無性に恥ずかしい。それはきっと、その指を何に使うつもりなのか知っているからだろう。

 唾液でたっぷり濡れた指を口から引き抜くと、彼はその手でウエルの尻を揉んだ。尻たぶを広げ、濡れた指が奥に差し込まれる。

「あっ!」

 後ろの入口に触れた感触に、びくりと震えた。
 くちゅりと音を立てて、指先が侵入した。

「んっ、ハオハト……っ!」

 彼に跨った体勢のまま、尻を鷲掴まれて中を拡げられている。
 入口は彼からは見えないが、自分の表情と前はしっかりと見られてしまっている。

 くちゅ……くちゅ……。

 卑猥な水音を立てて、指が出し入れされている。

「んっ、ぁ……っ」

 甘い声が漏れる。
 じんわりとした快感が身体を溶かす。
 中を拡げられるだけで、襞がきゅっと彼の指を咥える。

「あ……っ」

 控えめな嬌声を上げながら、指の動きに身を委ねた。

「ん……」

 しばらくして、指が引き抜かれた。
 指が抜かれた孔は、はくはくと口を開け閉めして、「早く欲しい」と主張している。
 早く、ハオハトのを挿入れたい。
 ウエルは欲望のままにハオハトの下衣に手をかけた。脱がせて、下肢を剥き出させる。

 姿を現した自分よりもずっと大きなモノに、ごくりと唾を呑む。
 自分の心臓の鼓動が大きくなるのを感じながら、ゆっくりと腰を下ろした。
 モノが入口に触れたところで、ウエルはピタリと動きを止めた。

「ウエル、怖がらないで。そのままゆっくり腰を下ろして」

 卑猥なことを要求しているとは思えない、優しい囁き声。
 実際、彼の中にはこれが卑猥なことだという意識はないのだろう。これは彼にとって、愛しい人と喜びを交わすための行為なのだ。
 それでもこちらは恥ずかしい、とウエルは赤面する。まさか自分から動いて繋がることになるなんて。

 けれどもこれ以上我慢はできない。
 ウエルは腰を下ろした。

「あぁ……っ!」

 剛直が肉を押し割る。
 自分の意志で、彼の体温を持ったモノを飲み込んでいってしまっている。
 そのことに不思議な高揚感を覚えながら、少しずつ腰を下ろしていった。

「んっ、ぁ……っ」
「がんばってえらいね、すごく可愛いよ」

 彼の呟きに、頭の中がとろりと溶けてしまいそう。
 
「ほんと……? オレ、かわいい……?」
「うん、かわいいよ」
 
 甘い言葉が擽るままに、腰を進める。
 どんどん腰を沈めていった末に、すべて飲み込んでしまった。

「ウエル、いい子だね」

 まるで子供を褒めるような口調。
 腹を立てるべきなのに、身体がじんじんしてきゅっと後ろが締まったのを感じた。
 すっと彼の手がウエルの腰に添えられる。

「じゃあ、動くからね」

 彼に腰を支えられ、そして下から突き上げられた。

「あぁ……ッ!」

 最奥を突かれた衝撃と快感。
 間髪入れず幾度も突き上げられる。

「あぁッ、ぁ、ハオハト、ハオハト……っ!」
「まるで踊っているみたいだね、ウエル。綺麗だよ」

 彼は甘く囁いた。
 揶揄する口調ではない。彼は本気でウエルのことを綺麗だと思っている。
 綺麗な訳がないのに。蒼い瞳が愛おしそうに見つめるから、本当のことに思えてしまう。

「ウエル、好きだよ……!」
「あぁッ、ハオハト、ハオハトっ、好き、好きっ、だいすき……ッ!」

 下から突き上げられる度、奥まで剛直が強かに打ち付けられる。
 強く繋がる快感が全身を震わせる。

 快楽の奔流の中、頭の中に思い浮かんだ言葉をひたすらに叫んだ。
 愛しい。
 こんな自分を愛してくれて、甘い言葉をかけてくれて、守ってくれて、一緒にいたいと思ってくれる。
 そんな彼が好きでたまらない。愛している。ただそう強く感じる。

「ハオハトっ、すき――――」

 激しい快楽に頭の中が真っ白になったかと思うと、白濁が彼のお腹に散った。
 ウエルが達するのと同時に、精がウエルの内側に注ぎ込まれた。
 熱い精がウエルの内側を満たし、腹の奥へと遡る。

「はぁ、ぁ……ん。だいすき」

 達したウエルは、ハオハトの身体の上にくたりと倒れ込んだ。
 ウエルのその身体を、彼がそっと抱き締める。

「今日のウエルは、特別素直で可愛かったね」

 彼が全力で抱き締めれば、ウエルはぷちりと潰れてしまうのだろう。
 大事に大事に抱き締める力に、愛を感じた。

「ウエル、愛している」
「うん、すき……」

 蕩けた顔で愛の言葉を口にするなんて、まるで自分じゃないみたいだ。
 倦怠感の中で、ウエルは非現実感を覚えていた。

 それとも、こういうやり取りが少しずつ当たり前になっていくのだろうか……。

 自分じゃないみたいだけれど、でも心地はよかった。
 眠気を覚えながら、彼を抱き締め返した。
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