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第十五話 告白してしまおう
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「先生、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
二日目。
授業後にそう聞いてくる生徒がいた。
綺麗なアヤメ色の髪に、髪と同じ色の瞳。垂れた前髪が片目を隠している。
こんな生徒がいただろうか。
何しろゲームでは攻略対象以外に立ち絵がなかったものだから分からない。
年は息子と同じかちょっと下くらいだろうか。
「ああ、何だい」
でもまあこうやって声をかけられるくらいなのだから、オレの生徒で間違いないだろう。
オレはにこやかに返事したのだった。
「これから昼休みなので、昼食でも一緒に摂りながら話しませんか」
にこり。
向けられた愛らしい笑みに、オレは無警戒に頷いたのだった。
「それで、話って?」
学園の食堂。
それぞれのトレーに昼食を乗せてオレたちは向かい合わせに席に着いたのだった。
紫髪の少年のランチはハンバーグ定食なようだ。
「別に大した話じゃないんですけどね」
彼はハンバーグにフォークを突き刺しながら言った。
「――――先生って、この世界の人間じゃないよね?」
瞬間、時間が止まったかのように感じられた。
この少年は今、何を言った?
「え……?」
「ふふ、驚いた顔面白い。バレないと思ってた?」
少年が紫色の瞳を細めてにかりと笑う。
どく、どく、と心臓が早鐘のように打つ。
オレが異世界人であることがバレた?
オレがケンジ―・ランドルフではないことが?
オレはこれからどうなる? この世界から追い出されるのか?
独身で童貞のおっさんの癖にケンジ―の振りをしやがってと罵倒されるのか?
今更ながらに、オレはこの世界にとって異邦人なんだということを自覚した。
「ごめんごめん、怯えさせちゃったかな」
生徒のものとは思えぬ気軽な口調で彼は謝る。
少年はハンバーグを口に運び、咀嚼する。
オレはというと、もう昼食どころの気分ではなくなっていた。
「安心してよ、ボク自身はキミをどうこうするつもりはないから」
少年の皿の中の料理が見る見る内に減っていく。
この少年、結構早食いだな。
そんなどうでもいいことを脳の片隅が認識する。
「ああでも――――少し面白くなっちゃったな」
少年がそう言ってフォークを置く頃には、少年はランチを完食していた。
「もし君のことを大切に想ってる人に、君がケンジ―・ランドルフではないことを伝えたらどうなるのかな?」
「なっ……!?」
オレが最も恐れていることを少年は口にした。
ガタリと席を立とうとするが、金縛りにあったかのように身体が動かない。
そうしている間に少年は空になった皿の乗っているトレーを持って食堂の人込みの中に消えていく。
「じゃあね、また会おうか」
「待て……っ!」
身体が動くようになった時には、とっくのとうに少年の姿は消えていた。
息子やエルたちにオレの正体がバラされるっていうのか?
そしたらオレはどうすればいいんだ……。
*
昼休み後の授業は、ずっと戦々恐々としていた。
今にも生徒らが「この偽物め」とブーイングしてくるんじゃないかと。
幸いにもそんなことは起こらなかった。
あの少年はいつどのようにしてコトを起こす気なのだろうか。
オレの生活を滅茶苦茶に壊していくならいっそ早くしてくれ、と思ったりもした。
いや、オレの生活ではない。
蘭堂健治がケンジ―・ランドルフから横取りした生活だ。
本物のケンジ―・ランドルフの精神は一体何処へ行ってしまったのだろう。
もしかすればオレの魂的なものがこの身体から出ていけば、元のケンジ―・ランドルフが戻ってくるのでは? オレは所詮この身体に憑りついた悪霊のような存在でしかないのかもしれない。
オレはこのまま退治される方が正しい存在なのかもしれなかった。
そうだ。
いっそ自分からこのことを息子たちに告白しよう。
そんな風に気持ちが傾くのに時間はかからなかった。
警察に自首する凶悪犯の気持ちだ……。
茫洋と学園内を彷徨っていると、見覚えのある金髪を視界の隅に捕らえた。
アベルだ。もしも彼に時間があるなら、彼に告白してしまおう。
そう決心しながら、オレは彼に近づいていったのだった。
二日目。
授業後にそう聞いてくる生徒がいた。
綺麗なアヤメ色の髪に、髪と同じ色の瞳。垂れた前髪が片目を隠している。
こんな生徒がいただろうか。
何しろゲームでは攻略対象以外に立ち絵がなかったものだから分からない。
年は息子と同じかちょっと下くらいだろうか。
「ああ、何だい」
でもまあこうやって声をかけられるくらいなのだから、オレの生徒で間違いないだろう。
オレはにこやかに返事したのだった。
「これから昼休みなので、昼食でも一緒に摂りながら話しませんか」
にこり。
向けられた愛らしい笑みに、オレは無警戒に頷いたのだった。
「それで、話って?」
学園の食堂。
それぞれのトレーに昼食を乗せてオレたちは向かい合わせに席に着いたのだった。
紫髪の少年のランチはハンバーグ定食なようだ。
「別に大した話じゃないんですけどね」
彼はハンバーグにフォークを突き刺しながら言った。
「――――先生って、この世界の人間じゃないよね?」
瞬間、時間が止まったかのように感じられた。
この少年は今、何を言った?
「え……?」
「ふふ、驚いた顔面白い。バレないと思ってた?」
少年が紫色の瞳を細めてにかりと笑う。
どく、どく、と心臓が早鐘のように打つ。
オレが異世界人であることがバレた?
オレがケンジ―・ランドルフではないことが?
オレはこれからどうなる? この世界から追い出されるのか?
独身で童貞のおっさんの癖にケンジ―の振りをしやがってと罵倒されるのか?
今更ながらに、オレはこの世界にとって異邦人なんだということを自覚した。
「ごめんごめん、怯えさせちゃったかな」
生徒のものとは思えぬ気軽な口調で彼は謝る。
少年はハンバーグを口に運び、咀嚼する。
オレはというと、もう昼食どころの気分ではなくなっていた。
「安心してよ、ボク自身はキミをどうこうするつもりはないから」
少年の皿の中の料理が見る見る内に減っていく。
この少年、結構早食いだな。
そんなどうでもいいことを脳の片隅が認識する。
「ああでも――――少し面白くなっちゃったな」
少年がそう言ってフォークを置く頃には、少年はランチを完食していた。
「もし君のことを大切に想ってる人に、君がケンジ―・ランドルフではないことを伝えたらどうなるのかな?」
「なっ……!?」
オレが最も恐れていることを少年は口にした。
ガタリと席を立とうとするが、金縛りにあったかのように身体が動かない。
そうしている間に少年は空になった皿の乗っているトレーを持って食堂の人込みの中に消えていく。
「じゃあね、また会おうか」
「待て……っ!」
身体が動くようになった時には、とっくのとうに少年の姿は消えていた。
息子やエルたちにオレの正体がバラされるっていうのか?
そしたらオレはどうすればいいんだ……。
*
昼休み後の授業は、ずっと戦々恐々としていた。
今にも生徒らが「この偽物め」とブーイングしてくるんじゃないかと。
幸いにもそんなことは起こらなかった。
あの少年はいつどのようにしてコトを起こす気なのだろうか。
オレの生活を滅茶苦茶に壊していくならいっそ早くしてくれ、と思ったりもした。
いや、オレの生活ではない。
蘭堂健治がケンジ―・ランドルフから横取りした生活だ。
本物のケンジ―・ランドルフの精神は一体何処へ行ってしまったのだろう。
もしかすればオレの魂的なものがこの身体から出ていけば、元のケンジ―・ランドルフが戻ってくるのでは? オレは所詮この身体に憑りついた悪霊のような存在でしかないのかもしれない。
オレはこのまま退治される方が正しい存在なのかもしれなかった。
そうだ。
いっそ自分からこのことを息子たちに告白しよう。
そんな風に気持ちが傾くのに時間はかからなかった。
警察に自首する凶悪犯の気持ちだ……。
茫洋と学園内を彷徨っていると、見覚えのある金髪を視界の隅に捕らえた。
アベルだ。もしも彼に時間があるなら、彼に告白してしまおう。
そう決心しながら、オレは彼に近づいていったのだった。
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