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第二話 渋イケおっさんケンジ―
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鏡を見た。
そこに写っていたのは紛れもなくまどアリィの主人公の姿だった。
その名もケンジ―・ランドルフ。
本名の「蘭堂賢治」をファンタジー世界に合わせてもじったものだ。
主人公ケンジ―はゲーム開始当初は三十代後半という設定。
今ケインが十八歳ぐらいということは、ケンジ―は四十代。
ちょうどリアルなオレと同年代だ。
鏡には栗色の髪を後ろで一纏めに結った渋イケなおっさんが写っている。
生えている顎髭を剃れば若作りすることもできるだろう。
というか顔立ちが良すぎて何をしても様になるに違いなかった。
まどアリィの主人公の立ち絵そのものの姿だ。
まったく違う人間としてまったく違う世界の中にいる……。
もしかしてオレはいわゆる異世界転生とやらをしてしまったのか?
そんな、じゃあオレは死んだのか?
まだまだ生きてプレイしたいソフトがたくさんあったのに。
「父さん、体調はどう?」
洗面所で顔を洗ったオレにケインが声をかけてくる。
「ああ、ええと……」
これほど体調が良かったことなどないというくらいに身体は軽かった。
だがここで「アイム・ファイン!」と淀みなく答えるのは憚られる。
オレには時間が必要だ。この世界を把握する為の時間が。
「そんなにすぐに元気になる訳ないよな、ごめん父さん。明日は一応休みを取って医者に診てもらおう。オレも学校を休むから」
「な、お前はちゃんと学校に行って授業を受けておきなさい!」
「休講」コマンドを一回選ぶだけでどれだけパラメーターが下がるか分かっているのか。思わずゲームの中でのことを思い出して言った。
「そういう訳にはいかないよ。大事な父さんのことなんだから」
ケインは真剣な眼差しでオレを見据える。
息子はよくできた子だった。
そうだよな、肉親がいきなり倒れたなんていったら普通学校なんか行ってる場合じゃないよな。ゲーム脳の自分が情けなくなってしまった。
こんなに人間が出来ててイケメンなのだから、息子はさぞやモテることだろう。
「じゃあその、オレは調べ物があるからちょっと書斎に行く」
「こんな時に仕事か?」
息子の目が吊り上がる。ちょっと怖い。
「いや、ちょっとだけだから! ベッドで読書する本を取ってくるだけだから!」
オレは逃げるように寝室を後にしたのだった。
さて、ところでオレにはこの屋敷の間取りが分からない。
ゲームの設定資料には主人公と息子の住んでいる家の間取りまであったが、もちろんそんなの数秒見てふーんと思ってそれで終わり。暗記などしていない。
まあ幸いにそこまで馬鹿でかい屋敷じゃないはずだ。住み込みのメイドなどはおらず、週に一回お手伝いさんが来てくれるだけという設定だから。これから屋敷を見て回って覚えていけばいい。
「ああ……ここか」
何部屋か扉を開けてやっと書斎を発見した。
この様子がケインに見られなくてよかった。
そしたらいよいよ記憶喪失になったとか言い訳しなければならない所だった。
いや、いっそそう言った方が都合がいいのか?
でもあの息子にそんなこと言ったら大袈裟に心配されそうで事だ。
オレは書斎に入ると、本棚から適当に本を一冊引き抜いた。
まずは言語がどうなっているか調べたかったのだ。
ケンジ―は教師なのだから、文字も読めないでは大変なことになる。
ケインとの会話は普通に日本語同士で通じていた……訳ではない。
聞こえてくる言葉と脳内で変換される意味がまるで合っていなかった。
まるでハリウッド映画を字幕で見ているような感覚だ。
そしてオレの口の動きも喋ろうと思った日本語とはまったく違っていた。
よくよく考えると空恐ろしいことだ。言葉の細かなニュアンスなどちゃんと相手に伝わっているのだろうか。もしオレが日本語特有のジョークを言った場合どうなるんだ?
ドキドキしながら本のページを繰る……。
「ああ、なるほど」
本に書かれたオレには読めない言語の上に日本語の文字が浮かんで見えた。
「目次、第一章……」
浮かんでいる言葉は書いてある文字の翻訳と見て構わなさそうだ。
この世界にはこの世界独自の言語が存在することが判明した。
そしてオレがこの世界で不自由なく暮らしていけるように誰かが手助けしてくれていることも。
「これは少し慣れが必要そうだな」
文字が二重に見えるのだから読むのは一苦労だ。
下に書かれている謎の言語を無視してすんなり日本語の方だけ読めるようになっておくべきだろう。
魔導学園の教師の本棚だけあって、魔術の専門書っぽいものが多い。
特にそういうものをチョイスして本棚から引き抜いた。
この世界の魔術の常識というものを少しでも知っておきたかった。
ケインに言った通りベッドで読もう。
さて言語の確認は終わった。
もう一つ確認するべきことはある。ある意味これが最も重要かもしれない。
それは――――好感度の確認だ。
そこに写っていたのは紛れもなくまどアリィの主人公の姿だった。
その名もケンジ―・ランドルフ。
本名の「蘭堂賢治」をファンタジー世界に合わせてもじったものだ。
主人公ケンジ―はゲーム開始当初は三十代後半という設定。
今ケインが十八歳ぐらいということは、ケンジ―は四十代。
ちょうどリアルなオレと同年代だ。
鏡には栗色の髪を後ろで一纏めに結った渋イケなおっさんが写っている。
生えている顎髭を剃れば若作りすることもできるだろう。
というか顔立ちが良すぎて何をしても様になるに違いなかった。
まどアリィの主人公の立ち絵そのものの姿だ。
まったく違う人間としてまったく違う世界の中にいる……。
もしかしてオレはいわゆる異世界転生とやらをしてしまったのか?
そんな、じゃあオレは死んだのか?
まだまだ生きてプレイしたいソフトがたくさんあったのに。
「父さん、体調はどう?」
洗面所で顔を洗ったオレにケインが声をかけてくる。
「ああ、ええと……」
これほど体調が良かったことなどないというくらいに身体は軽かった。
だがここで「アイム・ファイン!」と淀みなく答えるのは憚られる。
オレには時間が必要だ。この世界を把握する為の時間が。
「そんなにすぐに元気になる訳ないよな、ごめん父さん。明日は一応休みを取って医者に診てもらおう。オレも学校を休むから」
「な、お前はちゃんと学校に行って授業を受けておきなさい!」
「休講」コマンドを一回選ぶだけでどれだけパラメーターが下がるか分かっているのか。思わずゲームの中でのことを思い出して言った。
「そういう訳にはいかないよ。大事な父さんのことなんだから」
ケインは真剣な眼差しでオレを見据える。
息子はよくできた子だった。
そうだよな、肉親がいきなり倒れたなんていったら普通学校なんか行ってる場合じゃないよな。ゲーム脳の自分が情けなくなってしまった。
こんなに人間が出来ててイケメンなのだから、息子はさぞやモテることだろう。
「じゃあその、オレは調べ物があるからちょっと書斎に行く」
「こんな時に仕事か?」
息子の目が吊り上がる。ちょっと怖い。
「いや、ちょっとだけだから! ベッドで読書する本を取ってくるだけだから!」
オレは逃げるように寝室を後にしたのだった。
さて、ところでオレにはこの屋敷の間取りが分からない。
ゲームの設定資料には主人公と息子の住んでいる家の間取りまであったが、もちろんそんなの数秒見てふーんと思ってそれで終わり。暗記などしていない。
まあ幸いにそこまで馬鹿でかい屋敷じゃないはずだ。住み込みのメイドなどはおらず、週に一回お手伝いさんが来てくれるだけという設定だから。これから屋敷を見て回って覚えていけばいい。
「ああ……ここか」
何部屋か扉を開けてやっと書斎を発見した。
この様子がケインに見られなくてよかった。
そしたらいよいよ記憶喪失になったとか言い訳しなければならない所だった。
いや、いっそそう言った方が都合がいいのか?
でもあの息子にそんなこと言ったら大袈裟に心配されそうで事だ。
オレは書斎に入ると、本棚から適当に本を一冊引き抜いた。
まずは言語がどうなっているか調べたかったのだ。
ケンジ―は教師なのだから、文字も読めないでは大変なことになる。
ケインとの会話は普通に日本語同士で通じていた……訳ではない。
聞こえてくる言葉と脳内で変換される意味がまるで合っていなかった。
まるでハリウッド映画を字幕で見ているような感覚だ。
そしてオレの口の動きも喋ろうと思った日本語とはまったく違っていた。
よくよく考えると空恐ろしいことだ。言葉の細かなニュアンスなどちゃんと相手に伝わっているのだろうか。もしオレが日本語特有のジョークを言った場合どうなるんだ?
ドキドキしながら本のページを繰る……。
「ああ、なるほど」
本に書かれたオレには読めない言語の上に日本語の文字が浮かんで見えた。
「目次、第一章……」
浮かんでいる言葉は書いてある文字の翻訳と見て構わなさそうだ。
この世界にはこの世界独自の言語が存在することが判明した。
そしてオレがこの世界で不自由なく暮らしていけるように誰かが手助けしてくれていることも。
「これは少し慣れが必要そうだな」
文字が二重に見えるのだから読むのは一苦労だ。
下に書かれている謎の言語を無視してすんなり日本語の方だけ読めるようになっておくべきだろう。
魔導学園の教師の本棚だけあって、魔術の専門書っぽいものが多い。
特にそういうものをチョイスして本棚から引き抜いた。
この世界の魔術の常識というものを少しでも知っておきたかった。
ケインに言った通りベッドで読もう。
さて言語の確認は終わった。
もう一つ確認するべきことはある。ある意味これが最も重要かもしれない。
それは――――好感度の確認だ。
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