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第一話 女神は耽美を嗜む
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「父さん、目が覚めたのか!」
拝啓、父さん母さん。目が覚めたら童貞独身歴四十年超のオレに銀髪褐色肌イケメンの立派な息子が出来ていました。これは一体何の冗談でしょうか。
「良かった。急に倒れたから、一体どうしたのかと……」
オレの息子を名乗る青年にベッドで介抱されながら、オレはこれまでの記憶を思い起こして事態の整理を試みる。
オレはどうしてこんなところにいるのか。
ここはオレの部屋ではない。オレの部屋はごく普通の狭苦しい単身者向けアパートの一室だ。オレの部屋には間違っても天蓋付きベッドを置くスペースなどない。
直前の記憶を思い起こしてみる。
確かオレは……高熱を出して部屋で寝込んでいたのだった。
ベッドで寝込んでいる中、携帯がひっきりなしに鳴っていた。
多分会社からの連絡だろう。
だが全身を襲う気持ち悪さに指一本たりとも動かせなかった。
そして……
オレは今、何故かここにいる。
経緯を思い起こした結果まず思ったのが『よく生きてるなオレ』という感想だった。だって死んでもおかしくないくらい苦しかったのに。
最後に体温を測った時には四十度を超えていた。
なのに今は熱も怠さも頭痛もすべてが綺麗さっぱり治っている。
それどころかいつもより活力が漲っている気さえする。
オレは病院にでも運ばれて一命を取り留めたのだろうか。
とすればここは病院か? とてもそんなようには見えない。
むしろ西洋の金持ちの屋敷といったところだ。
息子を名乗る不審な青年に尋ねてみる。
「なあ、ここは病院なのか?」
「父さん!? ここは僕たちの家だよ!?」
オレの言葉に青ざめる青年。
その青年の顔を改めてまじまじと見て、くらくら来てしまった。
その青年に見覚えが無かったからではない、その逆だ。
彼に嫌と言うほど見覚えがあったからだ。
「倒れた拍子に頭を打ったのか父さん? まさか記憶に障害が……」
と言っても彼は知り合いなどでは決してない。
オレの知る彼は子育てゲーム『魔導学園教師の子育てダイアリィ』、略して"まどアリィ"の主人公である魔導学園教師の息子――――ケイン・ランドルフだ。
「ケイン……なのか?」
「何で疑わしげなんだ、父さん。僕はケインだよ」
間違いない。ゲームの中の登場人物が目の前にいた。
そもそも『魔導学園教師の子育てダイアリィ』、略して"まどアリィ"とは。
オレが最近ハマってやり込んでいたフリーゲームのことだ。
オレはフリーゲームマニアで、面白そうなソフトを見つけては休日にプレイするのが趣味だった。その一つがまどアリィだという訳だ。
まどアリィは子育てダイアリィという名の通り、子供を育てるのがゲーム内容だ。
「勉強を教える」、「一緒に遊ぶ」等のコマンドを実行すれば息子のパラメーターが上下し、それによりイベント時に取れる選択肢の数が増えたりする。
例えば息子の知識パラメータが一定以上なら、同僚との会話イベントで息子の成績を自慢する選択肢が現れたりとか。
そんな感じで息子の学校生活が万事上手くいくように、同僚らの好感度も稼いでいきつつ息子を育てていくのがまどアリィだ。
そして十歳の時に主人公の養子になり、主人公に育てられることになる息子が目の前にいる銀髪褐色肌のイケメン、ケインだ。
このケインは見たところ……十八歳になった時の立ち絵にそっくりだ。それくらいの年齢だと判断して構わないだろう。
ケイン十八歳というとゲームでは後半パートに突入する頃なのだが……まあそれは置いといて。
何故ゲームの中の登場人物が目の前にいて、オレを「父さん」と呼ぶ?
そういえばこの部屋、よくよく見ればまどアリィの自宅背景とそっくりだ。
まさか……オレがゲームの中にいるのか!?
*
「ククク……計画は順調なようだな」
天界にて、一人の女神がほくそ笑んでいる。
「はい、対象は無事BLゲーム『魔導学園教師の子育てダイアリィ』の舞台……にとてもよく似た世界で、その主人公にとてもよく似た人物として転生を果たしました」
女神の補佐を務める天使が報告する。
「それにしても、何故こんな面倒な真似を? 人間界のゲェムとやらの設定を模倣して世界を作るなんて、もう二度としたくないです!」
女神に無茶を押し付けられたのだろう、天使の顔には隈ができていた。
「フッ……転生した人間はハーレムを楽しむ。我々はそれを傍から眺めて愉しむ。まさにウィンウィンという奴だよ」
そう、何を隠そうこの女神。
男同士が愛し合う姿を肴に酒を嗜むタイプの女であった。
「え、でもそれって転生した人間が異性愛者だったら地獄じゃないですか?」
「そこはぬかりはない。転生者にはこのゲームを200時間以上プレイした人間を選んでおいた。流石にそこまで遊んでおいてまどアリィの攻略対象たちに1ミリも興味が持てないなどということはあるまい」
女神は自信満々だ。
「でもこれ一見普通の子育てげーっぽいタイトルだし、もし勘違いしてプレイしてたら?」
「フッ、クク……ハーハッハッハッ!」
天使の問いに女神は哄笑を漏らす。
「二度も言わせるな。対象はゲームを200時間以上プレイしているのだ。もし勘違いしていたとしても、プレイしている途中で気づくであろうよ。子育てゲーだと勘違いしたままの輩がいるワケがないッ!」
「あ、確かにそうですよねー。ごめんなさい、余計な心配をしちゃいましたー」
「ハハハハハッ! よいよい、次があればそなたに自由に世界を選ばせてやるとしよう」
「え、いいんですかー? えへえへ、どんな世界にしよっかなー」
そうして女神の高笑いと天使の照れ笑いが天界に木霊したのだった……。
転生者がそのまさかまさかの子育てゲーだと勘違いしたままゲームを200時間以上やりこんだイレギュラーだと気づかぬまま。
拝啓、父さん母さん。目が覚めたら童貞独身歴四十年超のオレに銀髪褐色肌イケメンの立派な息子が出来ていました。これは一体何の冗談でしょうか。
「良かった。急に倒れたから、一体どうしたのかと……」
オレの息子を名乗る青年にベッドで介抱されながら、オレはこれまでの記憶を思い起こして事態の整理を試みる。
オレはどうしてこんなところにいるのか。
ここはオレの部屋ではない。オレの部屋はごく普通の狭苦しい単身者向けアパートの一室だ。オレの部屋には間違っても天蓋付きベッドを置くスペースなどない。
直前の記憶を思い起こしてみる。
確かオレは……高熱を出して部屋で寝込んでいたのだった。
ベッドで寝込んでいる中、携帯がひっきりなしに鳴っていた。
多分会社からの連絡だろう。
だが全身を襲う気持ち悪さに指一本たりとも動かせなかった。
そして……
オレは今、何故かここにいる。
経緯を思い起こした結果まず思ったのが『よく生きてるなオレ』という感想だった。だって死んでもおかしくないくらい苦しかったのに。
最後に体温を測った時には四十度を超えていた。
なのに今は熱も怠さも頭痛もすべてが綺麗さっぱり治っている。
それどころかいつもより活力が漲っている気さえする。
オレは病院にでも運ばれて一命を取り留めたのだろうか。
とすればここは病院か? とてもそんなようには見えない。
むしろ西洋の金持ちの屋敷といったところだ。
息子を名乗る不審な青年に尋ねてみる。
「なあ、ここは病院なのか?」
「父さん!? ここは僕たちの家だよ!?」
オレの言葉に青ざめる青年。
その青年の顔を改めてまじまじと見て、くらくら来てしまった。
その青年に見覚えが無かったからではない、その逆だ。
彼に嫌と言うほど見覚えがあったからだ。
「倒れた拍子に頭を打ったのか父さん? まさか記憶に障害が……」
と言っても彼は知り合いなどでは決してない。
オレの知る彼は子育てゲーム『魔導学園教師の子育てダイアリィ』、略して"まどアリィ"の主人公である魔導学園教師の息子――――ケイン・ランドルフだ。
「ケイン……なのか?」
「何で疑わしげなんだ、父さん。僕はケインだよ」
間違いない。ゲームの中の登場人物が目の前にいた。
そもそも『魔導学園教師の子育てダイアリィ』、略して"まどアリィ"とは。
オレが最近ハマってやり込んでいたフリーゲームのことだ。
オレはフリーゲームマニアで、面白そうなソフトを見つけては休日にプレイするのが趣味だった。その一つがまどアリィだという訳だ。
まどアリィは子育てダイアリィという名の通り、子供を育てるのがゲーム内容だ。
「勉強を教える」、「一緒に遊ぶ」等のコマンドを実行すれば息子のパラメーターが上下し、それによりイベント時に取れる選択肢の数が増えたりする。
例えば息子の知識パラメータが一定以上なら、同僚との会話イベントで息子の成績を自慢する選択肢が現れたりとか。
そんな感じで息子の学校生活が万事上手くいくように、同僚らの好感度も稼いでいきつつ息子を育てていくのがまどアリィだ。
そして十歳の時に主人公の養子になり、主人公に育てられることになる息子が目の前にいる銀髪褐色肌のイケメン、ケインだ。
このケインは見たところ……十八歳になった時の立ち絵にそっくりだ。それくらいの年齢だと判断して構わないだろう。
ケイン十八歳というとゲームでは後半パートに突入する頃なのだが……まあそれは置いといて。
何故ゲームの中の登場人物が目の前にいて、オレを「父さん」と呼ぶ?
そういえばこの部屋、よくよく見ればまどアリィの自宅背景とそっくりだ。
まさか……オレがゲームの中にいるのか!?
*
「ククク……計画は順調なようだな」
天界にて、一人の女神がほくそ笑んでいる。
「はい、対象は無事BLゲーム『魔導学園教師の子育てダイアリィ』の舞台……にとてもよく似た世界で、その主人公にとてもよく似た人物として転生を果たしました」
女神の補佐を務める天使が報告する。
「それにしても、何故こんな面倒な真似を? 人間界のゲェムとやらの設定を模倣して世界を作るなんて、もう二度としたくないです!」
女神に無茶を押し付けられたのだろう、天使の顔には隈ができていた。
「フッ……転生した人間はハーレムを楽しむ。我々はそれを傍から眺めて愉しむ。まさにウィンウィンという奴だよ」
そう、何を隠そうこの女神。
男同士が愛し合う姿を肴に酒を嗜むタイプの女であった。
「え、でもそれって転生した人間が異性愛者だったら地獄じゃないですか?」
「そこはぬかりはない。転生者にはこのゲームを200時間以上プレイした人間を選んでおいた。流石にそこまで遊んでおいてまどアリィの攻略対象たちに1ミリも興味が持てないなどということはあるまい」
女神は自信満々だ。
「でもこれ一見普通の子育てげーっぽいタイトルだし、もし勘違いしてプレイしてたら?」
「フッ、クク……ハーハッハッハッ!」
天使の問いに女神は哄笑を漏らす。
「二度も言わせるな。対象はゲームを200時間以上プレイしているのだ。もし勘違いしていたとしても、プレイしている途中で気づくであろうよ。子育てゲーだと勘違いしたままの輩がいるワケがないッ!」
「あ、確かにそうですよねー。ごめんなさい、余計な心配をしちゃいましたー」
「ハハハハハッ! よいよい、次があればそなたに自由に世界を選ばせてやるとしよう」
「え、いいんですかー? えへえへ、どんな世界にしよっかなー」
そうして女神の高笑いと天使の照れ笑いが天界に木霊したのだった……。
転生者がそのまさかまさかの子育てゲーだと勘違いしたままゲームを200時間以上やりこんだイレギュラーだと気づかぬまま。
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