1 / 27
第一話 女神は耽美を嗜む
しおりを挟む
「父さん、目が覚めたのか!」
拝啓、父さん母さん。目が覚めたら童貞独身歴四十年超のオレに銀髪褐色肌イケメンの立派な息子が出来ていました。これは一体何の冗談でしょうか。
「良かった。急に倒れたから、一体どうしたのかと……」
オレの息子を名乗る青年にベッドで介抱されながら、オレはこれまでの記憶を思い起こして事態の整理を試みる。
オレはどうしてこんなところにいるのか。
ここはオレの部屋ではない。オレの部屋はごく普通の狭苦しい単身者向けアパートの一室だ。オレの部屋には間違っても天蓋付きベッドを置くスペースなどない。
直前の記憶を思い起こしてみる。
確かオレは……高熱を出して部屋で寝込んでいたのだった。
ベッドで寝込んでいる中、携帯がひっきりなしに鳴っていた。
多分会社からの連絡だろう。
だが全身を襲う気持ち悪さに指一本たりとも動かせなかった。
そして……
オレは今、何故かここにいる。
経緯を思い起こした結果まず思ったのが『よく生きてるなオレ』という感想だった。だって死んでもおかしくないくらい苦しかったのに。
最後に体温を測った時には四十度を超えていた。
なのに今は熱も怠さも頭痛もすべてが綺麗さっぱり治っている。
それどころかいつもより活力が漲っている気さえする。
オレは病院にでも運ばれて一命を取り留めたのだろうか。
とすればここは病院か? とてもそんなようには見えない。
むしろ西洋の金持ちの屋敷といったところだ。
息子を名乗る不審な青年に尋ねてみる。
「なあ、ここは病院なのか?」
「父さん!? ここは僕たちの家だよ!?」
オレの言葉に青ざめる青年。
その青年の顔を改めてまじまじと見て、くらくら来てしまった。
その青年に見覚えが無かったからではない、その逆だ。
彼に嫌と言うほど見覚えがあったからだ。
「倒れた拍子に頭を打ったのか父さん? まさか記憶に障害が……」
と言っても彼は知り合いなどでは決してない。
オレの知る彼は子育てゲーム『魔導学園教師の子育てダイアリィ』、略して"まどアリィ"の主人公である魔導学園教師の息子――――ケイン・ランドルフだ。
「ケイン……なのか?」
「何で疑わしげなんだ、父さん。僕はケインだよ」
間違いない。ゲームの中の登場人物が目の前にいた。
そもそも『魔導学園教師の子育てダイアリィ』、略して"まどアリィ"とは。
オレが最近ハマってやり込んでいたフリーゲームのことだ。
オレはフリーゲームマニアで、面白そうなソフトを見つけては休日にプレイするのが趣味だった。その一つがまどアリィだという訳だ。
まどアリィは子育てダイアリィという名の通り、子供を育てるのがゲーム内容だ。
「勉強を教える」、「一緒に遊ぶ」等のコマンドを実行すれば息子のパラメーターが上下し、それによりイベント時に取れる選択肢の数が増えたりする。
例えば息子の知識パラメータが一定以上なら、同僚との会話イベントで息子の成績を自慢する選択肢が現れたりとか。
そんな感じで息子の学校生活が万事上手くいくように、同僚らの好感度も稼いでいきつつ息子を育てていくのがまどアリィだ。
そして十歳の時に主人公の養子になり、主人公に育てられることになる息子が目の前にいる銀髪褐色肌のイケメン、ケインだ。
このケインは見たところ……十八歳になった時の立ち絵にそっくりだ。それくらいの年齢だと判断して構わないだろう。
ケイン十八歳というとゲームでは後半パートに突入する頃なのだが……まあそれは置いといて。
何故ゲームの中の登場人物が目の前にいて、オレを「父さん」と呼ぶ?
そういえばこの部屋、よくよく見ればまどアリィの自宅背景とそっくりだ。
まさか……オレがゲームの中にいるのか!?
*
「ククク……計画は順調なようだな」
天界にて、一人の女神がほくそ笑んでいる。
「はい、対象は無事BLゲーム『魔導学園教師の子育てダイアリィ』の舞台……にとてもよく似た世界で、その主人公にとてもよく似た人物として転生を果たしました」
女神の補佐を務める天使が報告する。
「それにしても、何故こんな面倒な真似を? 人間界のゲェムとやらの設定を模倣して世界を作るなんて、もう二度としたくないです!」
女神に無茶を押し付けられたのだろう、天使の顔には隈ができていた。
「フッ……転生した人間はハーレムを楽しむ。我々はそれを傍から眺めて愉しむ。まさにウィンウィンという奴だよ」
そう、何を隠そうこの女神。
男同士が愛し合う姿を肴に酒を嗜むタイプの女であった。
「え、でもそれって転生した人間が異性愛者だったら地獄じゃないですか?」
「そこはぬかりはない。転生者にはこのゲームを200時間以上プレイした人間を選んでおいた。流石にそこまで遊んでおいてまどアリィの攻略対象たちに1ミリも興味が持てないなどということはあるまい」
女神は自信満々だ。
「でもこれ一見普通の子育てげーっぽいタイトルだし、もし勘違いしてプレイしてたら?」
「フッ、クク……ハーハッハッハッ!」
天使の問いに女神は哄笑を漏らす。
「二度も言わせるな。対象はゲームを200時間以上プレイしているのだ。もし勘違いしていたとしても、プレイしている途中で気づくであろうよ。子育てゲーだと勘違いしたままの輩がいるワケがないッ!」
「あ、確かにそうですよねー。ごめんなさい、余計な心配をしちゃいましたー」
「ハハハハハッ! よいよい、次があればそなたに自由に世界を選ばせてやるとしよう」
「え、いいんですかー? えへえへ、どんな世界にしよっかなー」
そうして女神の高笑いと天使の照れ笑いが天界に木霊したのだった……。
転生者がそのまさかまさかの子育てゲーだと勘違いしたままゲームを200時間以上やりこんだイレギュラーだと気づかぬまま。
拝啓、父さん母さん。目が覚めたら童貞独身歴四十年超のオレに銀髪褐色肌イケメンの立派な息子が出来ていました。これは一体何の冗談でしょうか。
「良かった。急に倒れたから、一体どうしたのかと……」
オレの息子を名乗る青年にベッドで介抱されながら、オレはこれまでの記憶を思い起こして事態の整理を試みる。
オレはどうしてこんなところにいるのか。
ここはオレの部屋ではない。オレの部屋はごく普通の狭苦しい単身者向けアパートの一室だ。オレの部屋には間違っても天蓋付きベッドを置くスペースなどない。
直前の記憶を思い起こしてみる。
確かオレは……高熱を出して部屋で寝込んでいたのだった。
ベッドで寝込んでいる中、携帯がひっきりなしに鳴っていた。
多分会社からの連絡だろう。
だが全身を襲う気持ち悪さに指一本たりとも動かせなかった。
そして……
オレは今、何故かここにいる。
経緯を思い起こした結果まず思ったのが『よく生きてるなオレ』という感想だった。だって死んでもおかしくないくらい苦しかったのに。
最後に体温を測った時には四十度を超えていた。
なのに今は熱も怠さも頭痛もすべてが綺麗さっぱり治っている。
それどころかいつもより活力が漲っている気さえする。
オレは病院にでも運ばれて一命を取り留めたのだろうか。
とすればここは病院か? とてもそんなようには見えない。
むしろ西洋の金持ちの屋敷といったところだ。
息子を名乗る不審な青年に尋ねてみる。
「なあ、ここは病院なのか?」
「父さん!? ここは僕たちの家だよ!?」
オレの言葉に青ざめる青年。
その青年の顔を改めてまじまじと見て、くらくら来てしまった。
その青年に見覚えが無かったからではない、その逆だ。
彼に嫌と言うほど見覚えがあったからだ。
「倒れた拍子に頭を打ったのか父さん? まさか記憶に障害が……」
と言っても彼は知り合いなどでは決してない。
オレの知る彼は子育てゲーム『魔導学園教師の子育てダイアリィ』、略して"まどアリィ"の主人公である魔導学園教師の息子――――ケイン・ランドルフだ。
「ケイン……なのか?」
「何で疑わしげなんだ、父さん。僕はケインだよ」
間違いない。ゲームの中の登場人物が目の前にいた。
そもそも『魔導学園教師の子育てダイアリィ』、略して"まどアリィ"とは。
オレが最近ハマってやり込んでいたフリーゲームのことだ。
オレはフリーゲームマニアで、面白そうなソフトを見つけては休日にプレイするのが趣味だった。その一つがまどアリィだという訳だ。
まどアリィは子育てダイアリィという名の通り、子供を育てるのがゲーム内容だ。
「勉強を教える」、「一緒に遊ぶ」等のコマンドを実行すれば息子のパラメーターが上下し、それによりイベント時に取れる選択肢の数が増えたりする。
例えば息子の知識パラメータが一定以上なら、同僚との会話イベントで息子の成績を自慢する選択肢が現れたりとか。
そんな感じで息子の学校生活が万事上手くいくように、同僚らの好感度も稼いでいきつつ息子を育てていくのがまどアリィだ。
そして十歳の時に主人公の養子になり、主人公に育てられることになる息子が目の前にいる銀髪褐色肌のイケメン、ケインだ。
このケインは見たところ……十八歳になった時の立ち絵にそっくりだ。それくらいの年齢だと判断して構わないだろう。
ケイン十八歳というとゲームでは後半パートに突入する頃なのだが……まあそれは置いといて。
何故ゲームの中の登場人物が目の前にいて、オレを「父さん」と呼ぶ?
そういえばこの部屋、よくよく見ればまどアリィの自宅背景とそっくりだ。
まさか……オレがゲームの中にいるのか!?
*
「ククク……計画は順調なようだな」
天界にて、一人の女神がほくそ笑んでいる。
「はい、対象は無事BLゲーム『魔導学園教師の子育てダイアリィ』の舞台……にとてもよく似た世界で、その主人公にとてもよく似た人物として転生を果たしました」
女神の補佐を務める天使が報告する。
「それにしても、何故こんな面倒な真似を? 人間界のゲェムとやらの設定を模倣して世界を作るなんて、もう二度としたくないです!」
女神に無茶を押し付けられたのだろう、天使の顔には隈ができていた。
「フッ……転生した人間はハーレムを楽しむ。我々はそれを傍から眺めて愉しむ。まさにウィンウィンという奴だよ」
そう、何を隠そうこの女神。
男同士が愛し合う姿を肴に酒を嗜むタイプの女であった。
「え、でもそれって転生した人間が異性愛者だったら地獄じゃないですか?」
「そこはぬかりはない。転生者にはこのゲームを200時間以上プレイした人間を選んでおいた。流石にそこまで遊んでおいてまどアリィの攻略対象たちに1ミリも興味が持てないなどということはあるまい」
女神は自信満々だ。
「でもこれ一見普通の子育てげーっぽいタイトルだし、もし勘違いしてプレイしてたら?」
「フッ、クク……ハーハッハッハッ!」
天使の問いに女神は哄笑を漏らす。
「二度も言わせるな。対象はゲームを200時間以上プレイしているのだ。もし勘違いしていたとしても、プレイしている途中で気づくであろうよ。子育てゲーだと勘違いしたままの輩がいるワケがないッ!」
「あ、確かにそうですよねー。ごめんなさい、余計な心配をしちゃいましたー」
「ハハハハハッ! よいよい、次があればそなたに自由に世界を選ばせてやるとしよう」
「え、いいんですかー? えへえへ、どんな世界にしよっかなー」
そうして女神の高笑いと天使の照れ笑いが天界に木霊したのだった……。
転生者がそのまさかまさかの子育てゲーだと勘違いしたままゲームを200時間以上やりこんだイレギュラーだと気づかぬまま。
107
お気に入りに追加
1,966
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界転生して美形になれたんだから全力で好きな事するけど
福の島
BL
もうバンドマンは嫌だ…顔だけで選ぶのやめよう…友達に諭されて戻れるうちに戻った寺内陸はその日のうちに車にひかれて死んだ。
生まれ変わったのは多分どこかの悪役令息
悪役になったのはちょっとガッカリだけど、金も権力もあって、その上、顔…髪…身長…せっかく美形に産まれたなら俺は全力で好きな事をしたい!!!!
とりあえず目指すはクソ婚約者との婚約破棄!!そしてとっとと学園卒業して冒険者になる!!!
平民だけど色々強いクーデレ✖️メンタル強のこの世で1番の美人
強い主人公が友達とかと頑張るお話です
短編なのでパッパと進みます
勢いで書いてるので誤字脱字等ありましたら申し訳ないです…
実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…
彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜??
ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。
みんなから嫌われるはずの悪役。
そ・れ・な・の・に…
どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?!
もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣)
そんなオレの物語が今始まる___。
ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️
第12回BL小説大賞に参加中!
よろしくお願いします🙇♀️
推しを擁護したくて何が悪い!
人生1919回血迷った人
BL
所謂王道学園と呼ばれる東雲学園で風紀委員副委員長として活動している彩凪知晴には学園内に推しがいる。
その推しである鈴谷凛は我儘でぶりっ子な性格の悪いお坊ちゃんだという噂が流れており、実際の性格はともかく学園中の嫌われ者だ。
理不尽な悪意を受ける凛を知晴は陰ながら支えたいと思っており、バレないように後をつけたり知らない所で凛への悪意を排除していたりしてした。
そんな中、学園の人気者たちに何故か好かれる転校生が転入してきて学園は荒れに荒れる。ある日、転校生に嫉妬した生徒会長親衛隊員である生徒が転校生を呼び出して──────────。
「凛に危害を加えるやつは許さない。」
※王道学園モノですがBLかと言われるとL要素が少なすぎます。BLよりも王道学園の設定が好きなだけの腐った奴による小説です。
※簡潔にこの話を書くと嫌われからの総愛され系親衛隊隊長のことが推しとして大好きなクールビューティで寡黙な主人公が制裁現場を上手く推しを擁護して解決する話です。
ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目
カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。
風紀委員長様は王道転校生がお嫌い
八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。
11/21 登場人物まとめを追加しました。
【第7回BL小説大賞エントリー中】
山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。
この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。
東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。
風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。
しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。
ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。
おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!?
そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。
何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから!
※11/12に10話加筆しています。
転生して勇者を倒すために育てられた俺が、いつの間にか勇者の恋人になっている話
ぶんぐ
BL
俺は、平凡なサラリーマンだったはずだ…しかしある日突然、自分が前世プレイしていたゲームの世界の悪役に転生していることに気が付いた!
勇者を裏切り倒される悪役のカイ…俺は、そんな最期は嫌だった。
俺はシナリオを変えるべく、勇者を助けることを決意するが──勇者のアランがなぜか俺に話しかけてくるんだが……
溺愛美形勇者×ツンデレ裏切り者剣士(元平凡リーマン)
※現時点でR-18シーンの予定はありませんが、今後追加する可能性があります。
※拙い文章ですが、お付き合い頂ければ幸いです。
ヒロインの兄は悪役令嬢推し
西楓
BL
異世界転生し、ここは前世でやっていたゲームの世界だと知る。ヒロインの兄の俺は悪役令嬢推し。妹も可愛いが悪役令嬢と王子が幸せになるようにそっと見守ろうと思っていたのに…どうして?
イケメンに惚れられた俺の話
モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。
こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。
そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。
どんなやつかと思い、会ってみると……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる