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第二部 セルフィニエ辺境伯領編
第百六十三話 休日特別授業
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「テルディナント先生、すみません。休みの日に特別授業を付けてもらって……」
晩餐の後、テルディナント先生に特別授業を頼んだら快く引き受けてくれた。
だからこうして今日は朝早くからこうして僕はチェンバロの前に座っている。
お兄ちゃんが作ってくれた高さを調節できる椅子に座っている。
早速使ってみるとテルディナント先生はいたく感動して目を輝かせていた。
それにしてもテルディナント先生はとてもいい人なのかもしれない。
いきなり特別授業を頼んだのに、嫌な顔一つせず即答してくれた。
前世の僕だったらいきなり休日出勤することになったら憂鬱で仕方なかった。
タソトキのプレイ時間が減るからね。
「『その3』は先日の授業で一応一通りやったな。まずは覚えているかどうか弾いてみなさい」
「はい」
僕はキリッと眉根に力を入れて鍵盤に手を添える。
心なしかいつもよりも姿勢がしっくりとくる気がする。
僕の背に椅子の高さが調節されているからだろうか。
僕は鍵盤に指を沈め、演奏を開始した。
まずは左手で複数の鍵盤を同時に押す。
低い音色が響く。
それから右手でメロディを奏でていく。
テルディナント先生が見せてくれた超絶技巧のような素早いテンポの曲ではなく、ゆっくりとしたテンポで落ち着いて鍵盤を弾いていく。
ゆっくりとはしているが、決してつまらないシンプルな曲という訳ではない。メロディの一つ一つが胸を打つような優しい響きを有している。
初心者にも弾けるような音の少なさでこんなにも綺麗な響きを作り出せるテルディナント先生は、本人の言う通りきっと天才なんだと思う。
「……ふう。どうですか?」
一応曲の最後まで弾き終え、テルディナント先生を見上げた。
「エクセレント、よく出来ていた! 後は何度も練習してこなれさせれば充分だ」
本当に大丈夫なんだろうか。
テルディナント先生はいつもポジティブなことしか言わないから不安になる。
いや、テルディナント先生が仮にポジティブなことしか言わないというポリシーを持っているのだとすれば、今の言葉はこう翻訳できる。「正確に弾けてはいるが練度が足りない。今は何度も練習を重ねる段階だ」
そう考えると結構鬼だ……!
いやそう考えるとも何も、テルディナント先生はポジティブな言葉で「君ならできる」とか何とかおだてて無茶ぶりしてくる鬼だった。優しいけど厳しい先生だ。
初めての音楽の授業の時に「相手が皇子だからといって加減はせん」とか何とか言っていたけど、本当に加減しないな。
僕は何度も何度も『その3』を練習し、最後には『その2』と『その3』を本番のつもりで弾いた。
テルディナント先生は「きっとウィルとやらも感心するだろう」と言ってくれた。
その言葉に勇気を持てた。
晩餐の後、テルディナント先生に特別授業を頼んだら快く引き受けてくれた。
だからこうして今日は朝早くからこうして僕はチェンバロの前に座っている。
お兄ちゃんが作ってくれた高さを調節できる椅子に座っている。
早速使ってみるとテルディナント先生はいたく感動して目を輝かせていた。
それにしてもテルディナント先生はとてもいい人なのかもしれない。
いきなり特別授業を頼んだのに、嫌な顔一つせず即答してくれた。
前世の僕だったらいきなり休日出勤することになったら憂鬱で仕方なかった。
タソトキのプレイ時間が減るからね。
「『その3』は先日の授業で一応一通りやったな。まずは覚えているかどうか弾いてみなさい」
「はい」
僕はキリッと眉根に力を入れて鍵盤に手を添える。
心なしかいつもよりも姿勢がしっくりとくる気がする。
僕の背に椅子の高さが調節されているからだろうか。
僕は鍵盤に指を沈め、演奏を開始した。
まずは左手で複数の鍵盤を同時に押す。
低い音色が響く。
それから右手でメロディを奏でていく。
テルディナント先生が見せてくれた超絶技巧のような素早いテンポの曲ではなく、ゆっくりとしたテンポで落ち着いて鍵盤を弾いていく。
ゆっくりとはしているが、決してつまらないシンプルな曲という訳ではない。メロディの一つ一つが胸を打つような優しい響きを有している。
初心者にも弾けるような音の少なさでこんなにも綺麗な響きを作り出せるテルディナント先生は、本人の言う通りきっと天才なんだと思う。
「……ふう。どうですか?」
一応曲の最後まで弾き終え、テルディナント先生を見上げた。
「エクセレント、よく出来ていた! 後は何度も練習してこなれさせれば充分だ」
本当に大丈夫なんだろうか。
テルディナント先生はいつもポジティブなことしか言わないから不安になる。
いや、テルディナント先生が仮にポジティブなことしか言わないというポリシーを持っているのだとすれば、今の言葉はこう翻訳できる。「正確に弾けてはいるが練度が足りない。今は何度も練習を重ねる段階だ」
そう考えると結構鬼だ……!
いやそう考えるとも何も、テルディナント先生はポジティブな言葉で「君ならできる」とか何とかおだてて無茶ぶりしてくる鬼だった。優しいけど厳しい先生だ。
初めての音楽の授業の時に「相手が皇子だからといって加減はせん」とか何とか言っていたけど、本当に加減しないな。
僕は何度も何度も『その3』を練習し、最後には『その2』と『その3』を本番のつもりで弾いた。
テルディナント先生は「きっとウィルとやらも感心するだろう」と言ってくれた。
その言葉に勇気を持てた。
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