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第二部 セルフィニエ辺境伯領編
第百三十三話 お兄ちゃんの楽しいことは僕の楽しいこと
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その後お兄ちゃんに「そういえば"楽しいこと"って何?」って聞いたけど「まあ今日はとりあえず寝なさい」と言われて、自分の部屋に帰らされてしまった。
「準備しておくから」とお兄ちゃんは言っていたので、はぐらかされた訳ではないのだと思う。何を準備してくれるのか楽しみだ。
翌日からまた勉強を頑張り、週末までには古代語二十六文字の大体を僕は覚えていた。
休日の間に忘れてしまわないようによく復習しておかなければ。
この一週間でチェンバロもだいぶ上達したのだ。
僕は『テルディナント特別練習曲その1』をマスターし、次の曲を練習することになった。……ちなみに次の曲のタイトルは『テルディナント特別練習曲その2』である。
テルディナント先生曰く特別練習曲はその10まであり、それらすべてをマスターするとチェンバロ初級者卒業なのだそうだ。
そして休日になってお兄ちゃんが僕の部屋に持ってきたものは、カタクラズムのボードと幾枚かの木札、そして丸めた羊皮紙だった。
「では、カレンに部屋で一人でできる楽しみというものを教えてやろう……詰めカタクラズムだ!」
「詰めカタクラズム」
お兄ちゃんの顔は生き生きとしていた。
「まずは初心者用に三手で詰められるものを書いてきた。試しに一つ解いてみろ」
お兄ちゃんに手渡された木札には駒とマナの配置が描かれていた。
使うのはボード全体ではなく中央の十九マスだけらしい。
僕は指定の通りに味方の駒と敵の駒、そして白黒を間違えないようにマナ石も置いた。
「本当ならば魔力がある貴族は杖を振るだけで一瞬で配置できるんだがな」
「そうなの? 便利だね」
ともかく、これで配置が完了した。
そして木札には目標が書かれている。
"三手でマナを一個取得した上で敵の愚者の駒を取れ"
マナの取得数まで指定されている。
これはどの駒をどのマスに動かすかよくよく考えねばならなさそうだ。
僕はとりあえず魔術師の駒を一マス動かした。
左の方にいる自分の騎士の駒の方へ愚者の駒を追いやるつもりで。
「はい、お兄ちゃんの番」
「ふふ、カレン。敵の駒もカレンが動かすのだ。これは一人用のカタクラズムだからな」
「えっ、そうなの?」
驚きに目を見開く。
「ああ。オレが忙しい時にもカレンがオレと対戦している気分になれるように考案したんだ。オレになったつもりで敵の駒も最良の手順で動かしてみろ」
どうやらこの詰めカタクラズムは一般的な遊び方ではないらしく、お兄ちゃんが考え出したものらしい。
どうりで得意げな様子だった訳だ。
これまで度々お兄ちゃんにカタクラズムに誘われてきたけど、その度に僕が楽しくカタクラズムをプレイしていたのは対戦相手がお兄ちゃんだったからだ。
カタクラズム自体が好きな訳じゃないんだけど、とちょっとズレてる兄の気遣いにくすりと笑う。
まあ勉強の合間の気分転換にはちょうど良さそうだ。これからはちょっとした暇つぶしに詰めカタクラズムを遊ばせてもらおう。
敵の駒の動かし方を考える。
敵の駒は愚者の駒しかない。初心者用の譜面だからだろう。
挟み撃ちにされないように逆方向に逃げたいが、この詰めカタクラズムでは駒を中央の十九マスをはみ出して逃がすことはできない。
僕は僕の思惑を分かっているが、仕方なく騎士の駒がある方向に愚者の駒を逃がす。
マナがあるマスを踏むのも忘れず、僕は見事三手で愚者の駒を詰めた。
「よし、では木札を裏返してみろ。そこに答えを記してある」
木札を裏返す。
そこには味方の駒と敵の駒をどのマスに動かすのが正解か書いてあった。
が、独特の略称が使われていて読み解けない。
「教えてやろう。まずこの文字が魔術師の駒のことで、そしてこれがこの行のこのマスに置くという意味で……」
お兄ちゃんが身を乗り出して僕の横から木札とボードとを交互に指差して説明してくれる。
この詰めカタクラズムもある意味ではお兄ちゃんの発明品だ。
目を輝かせながら生き生きと説明してくれるお兄ちゃんの様子を間近で見れて、僕はとても楽しいひと時を過ごせた。
「どうだ、カレン。"楽しいこと"だろう?」
「うん!」
お兄ちゃんが楽しそうだから僕も楽しいのだ、とはお兄ちゃんは気が付いていない。
「準備しておくから」とお兄ちゃんは言っていたので、はぐらかされた訳ではないのだと思う。何を準備してくれるのか楽しみだ。
翌日からまた勉強を頑張り、週末までには古代語二十六文字の大体を僕は覚えていた。
休日の間に忘れてしまわないようによく復習しておかなければ。
この一週間でチェンバロもだいぶ上達したのだ。
僕は『テルディナント特別練習曲その1』をマスターし、次の曲を練習することになった。……ちなみに次の曲のタイトルは『テルディナント特別練習曲その2』である。
テルディナント先生曰く特別練習曲はその10まであり、それらすべてをマスターするとチェンバロ初級者卒業なのだそうだ。
そして休日になってお兄ちゃんが僕の部屋に持ってきたものは、カタクラズムのボードと幾枚かの木札、そして丸めた羊皮紙だった。
「では、カレンに部屋で一人でできる楽しみというものを教えてやろう……詰めカタクラズムだ!」
「詰めカタクラズム」
お兄ちゃんの顔は生き生きとしていた。
「まずは初心者用に三手で詰められるものを書いてきた。試しに一つ解いてみろ」
お兄ちゃんに手渡された木札には駒とマナの配置が描かれていた。
使うのはボード全体ではなく中央の十九マスだけらしい。
僕は指定の通りに味方の駒と敵の駒、そして白黒を間違えないようにマナ石も置いた。
「本当ならば魔力がある貴族は杖を振るだけで一瞬で配置できるんだがな」
「そうなの? 便利だね」
ともかく、これで配置が完了した。
そして木札には目標が書かれている。
"三手でマナを一個取得した上で敵の愚者の駒を取れ"
マナの取得数まで指定されている。
これはどの駒をどのマスに動かすかよくよく考えねばならなさそうだ。
僕はとりあえず魔術師の駒を一マス動かした。
左の方にいる自分の騎士の駒の方へ愚者の駒を追いやるつもりで。
「はい、お兄ちゃんの番」
「ふふ、カレン。敵の駒もカレンが動かすのだ。これは一人用のカタクラズムだからな」
「えっ、そうなの?」
驚きに目を見開く。
「ああ。オレが忙しい時にもカレンがオレと対戦している気分になれるように考案したんだ。オレになったつもりで敵の駒も最良の手順で動かしてみろ」
どうやらこの詰めカタクラズムは一般的な遊び方ではないらしく、お兄ちゃんが考え出したものらしい。
どうりで得意げな様子だった訳だ。
これまで度々お兄ちゃんにカタクラズムに誘われてきたけど、その度に僕が楽しくカタクラズムをプレイしていたのは対戦相手がお兄ちゃんだったからだ。
カタクラズム自体が好きな訳じゃないんだけど、とちょっとズレてる兄の気遣いにくすりと笑う。
まあ勉強の合間の気分転換にはちょうど良さそうだ。これからはちょっとした暇つぶしに詰めカタクラズムを遊ばせてもらおう。
敵の駒の動かし方を考える。
敵の駒は愚者の駒しかない。初心者用の譜面だからだろう。
挟み撃ちにされないように逆方向に逃げたいが、この詰めカタクラズムでは駒を中央の十九マスをはみ出して逃がすことはできない。
僕は僕の思惑を分かっているが、仕方なく騎士の駒がある方向に愚者の駒を逃がす。
マナがあるマスを踏むのも忘れず、僕は見事三手で愚者の駒を詰めた。
「よし、では木札を裏返してみろ。そこに答えを記してある」
木札を裏返す。
そこには味方の駒と敵の駒をどのマスに動かすのが正解か書いてあった。
が、独特の略称が使われていて読み解けない。
「教えてやろう。まずこの文字が魔術師の駒のことで、そしてこれがこの行のこのマスに置くという意味で……」
お兄ちゃんが身を乗り出して僕の横から木札とボードとを交互に指差して説明してくれる。
この詰めカタクラズムもある意味ではお兄ちゃんの発明品だ。
目を輝かせながら生き生きと説明してくれるお兄ちゃんの様子を間近で見れて、僕はとても楽しいひと時を過ごせた。
「どうだ、カレン。"楽しいこと"だろう?」
「うん!」
お兄ちゃんが楽しそうだから僕も楽しいのだ、とはお兄ちゃんは気が付いていない。
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