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第二部 セルフィニエ辺境伯領編

第百二十五話 ケイスくんとお話

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 今日はクレア先生の授業を受ける日だ。
 結局夕食の席ではケイスくんに避けられ続け、会う事が出来ていない。
 
 授業では僕の方が先に教室に行ったらどうだろうと僕は時間より少し早めの時間に教室に向かっていた。
 そしたら使用人に先導されて教室に向かうケイスくんと丁度鉢合わせることとなった。

「あ……っ!」

 ケイスくんはハッと僕を睨み付ける。

「あ、おはよう!」
「……ふんっ」

 僕がおずおずと挨拶をすると、ケイスくんは鼻を鳴らして無視して先に行こうとする。
 そんな彼の後ろ姿に僕は思い切って声をかける。

「あのっ、良かったら二人で話しない……?」
「はあ……?」

 外の景色が見えるバルコニーに移動し、ケイスくんと向かい合う。

「な、何だよ。何か文句あんのかよ」

 内心自分の態度がいけないと分かっているらしいケイスくんはビクビクとしている。
 怯えるくらいなら謝ればいいのに、幼いケイスくんはプライドを守る為に虚勢を張ることしか出来ないらしい。

「ううん、文句なんかないよ。ただね、ケイスくんには協力して欲しいことがあるの」
「協力!? 偉くて誰にでも威張れる皇子様に何の協力が必要だっていうんだよ!」

 僕の言葉にケイスくんは目を剥く。

「僕は全然偉くなんかないよ。お母さんが死んじゃったから、僕には後ろ盾がないんだ」

 後ろ盾がないせいで他の皇子とは随分待遇に差を付けられてきたことを話した。

 教育一つとってもそうだ。この城ではケイスくんとチェルソくんの教育の為に専門家としてクレア先生とテルディナント先生を雇っているけれど、リューナジア城では元貴族階級とは言えあくまでも使用人のジルベールしか先生を付けてもらえなかった。
 まあどうやら僕の存在は周りに隠されていたみたいだと分かった今では、外部から教師を雇わなかったのは情報統制の為でもあったのだろうと分かるんだけど。

 とにかく僕は自分の身の上がなるべく可哀想に聞こえるようにケイスくんに話した。

「だからね、この城では皇子らしく振る舞えるようにケイスくんに協力して欲しいの」
「いいけど、俺にできることなんてあるのか……?」

 ケイスくんは僕の話を聞いてすっかり鼻白んだ様子だった。
 困惑気味に尋ねてくる。

「うん、あるよ。あのね、人前では僕に敬語を使ってほしいの。僕が皇子っぽく見えるように」
「は……?」

 ケイスくんは顔を顰めるが、最初のような尖った雰囲気はない。
 戸惑っているだけと言った感じだ。
 これはあともう一押しだと思い、僕は思い切って彼の両手を握った。

「二人っきりの時は今みたいな口調のままでいいから……おねがい?」

 子供らしい可愛さ満点に見えるように上目遣いに媚びた視線を送りながら小首を傾げた。

「な……っ!」

 ケイスくんの手が熱くなったかと思うと、彼の顔が真っ赤になっているのが見えた。

「わ、分かったよ、敬語な。敬語使えばいいんだろ!」

 恥ずかしそうに顔を逸らしてしまったけれど、彼は確かに了承してくれた。

 よし、これでケイスくんとの関係は何とかなりそうだ。
 ほらねお兄ちゃん、別に叩きのめさなくっても普通にお願いすれば分かってくれるんだから!
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