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第一部 リューナジア城編
第七十九話 試作品が完成っ! ①
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それからあっという間に一月ほどが経った。
お兄ちゃんはこの間精力的に工房に通い詰め、試作品作りに励んだ。
今日は一通り試作品が完成したらしいので、工房にマクシミリアンを呼んで見せる日だ。
もちろん僕も呼ばれている。完成品を見るのは今日が初めてなので楽しみだ。
今日見ることができる試作品は眼鏡、オペラグラス、モノクル――お兄ちゃんは片眼鏡と呼んでいる――の三種類だ。装飾もジルベールがデザインした通りに作ったらしい。
前回と同じくジルベールと馬車に乗って工房に向かう。
「おにーちゃーん!」
「カレン、おはよう」
工房に着くと、先に工房に来ていたお兄ちゃんが出迎えてくれた。
勢いよく走ってお兄ちゃんに飛びつくと、お兄ちゃんは受け止めてくれた。
「今日は一段と元気だな」
「うん!」
今日は元気だなーと思って調子に乗って走り回ったら途端に熱が出たりするんだけど、ちょっとくらいなら大丈夫だ。久しぶりにみんなが集合するのでテンションが上がってしまう。
「これはこれは、お待たせしてしまいましたかね?」
そこにお馴染みの胡散臭い声が響く。
マクシミリアンが来た!
「いいえ、殿下も私もちょうど今着いたところでございますよ」
ジルベールがにこやかに答えた。
「それでは早速試作品を見せてもらうとしましょうか」
話が早々に本題に移る。
それというのも、お兄ちゃんが無駄話を嫌うからだ。
「これだ」
お兄ちゃんが台の上に並んだ試作品を示した。
「おお、これは……!」
それらを一目見てマクシミリアンが感嘆の声を上げた。
「いやはや、期待以上の出来です!」
マクシミリアンがまず手に取ったのはオペラグラスの試作品だった。
試作品の中でも一際華やかなそれは、宝石商であるマクシミリアンの目を引いたのだろう。
「わぁ……」
僕の目にもそれは素晴らしい品のように見えた。
ギザギザの彫金を施された縁が高級感を醸し出している。
柄の部分は草花を模した曲線が飾っている。
白を基調としたオペラグラスはコンパクトに収まっており、貴族の娘の細腕でも軽々と片手で持てそうだった。
「す、すごい! おにーちゃんすごい!」
僕はぴょんぴょんと飛び跳ねて兄を褒め称えた。
「褒め言葉を口にするのは性能を見てからにしてもらえないか」
兄は満更でもなさそうな笑顔を口元に浮かべながらも言った。
ジルベールのデザインを見事に再現している時点で兄の器用さに感心してしまったが、彼としては性能の方を見てもらいたいだろう。
僕はオペラグラスをそっと手に取ると、レンズを覗き込んだ。
「み……見える! 物がおっきく見えるよおにーちゃん!」
見えた光景に僕は驚嘆した。
「接眼部に凹レンズを、その反対に凸レンズを使用しただけのシンプルな構造だが、三倍程度の倍率を実現できた。観劇には充分な性能だろう」
お兄ちゃんが説明をしている間に、オペラグラスをマクシミリアンに手渡してみせる。
レンズを覗き込むなり、マクシミリアンも驚きに息を呑んでいた。
お兄ちゃんが説明した仕組みの物は僕も聞いたことがある。
確か現代日本では『ガリレオ式望遠鏡』と呼ばれる仕組みの物の筈だ。
お兄ちゃんは自力でそこに辿り着いたんだな、と思うと胸が熱くなる思いがした。
お兄ちゃんはこの間精力的に工房に通い詰め、試作品作りに励んだ。
今日は一通り試作品が完成したらしいので、工房にマクシミリアンを呼んで見せる日だ。
もちろん僕も呼ばれている。完成品を見るのは今日が初めてなので楽しみだ。
今日見ることができる試作品は眼鏡、オペラグラス、モノクル――お兄ちゃんは片眼鏡と呼んでいる――の三種類だ。装飾もジルベールがデザインした通りに作ったらしい。
前回と同じくジルベールと馬車に乗って工房に向かう。
「おにーちゃーん!」
「カレン、おはよう」
工房に着くと、先に工房に来ていたお兄ちゃんが出迎えてくれた。
勢いよく走ってお兄ちゃんに飛びつくと、お兄ちゃんは受け止めてくれた。
「今日は一段と元気だな」
「うん!」
今日は元気だなーと思って調子に乗って走り回ったら途端に熱が出たりするんだけど、ちょっとくらいなら大丈夫だ。久しぶりにみんなが集合するのでテンションが上がってしまう。
「これはこれは、お待たせしてしまいましたかね?」
そこにお馴染みの胡散臭い声が響く。
マクシミリアンが来た!
「いいえ、殿下も私もちょうど今着いたところでございますよ」
ジルベールがにこやかに答えた。
「それでは早速試作品を見せてもらうとしましょうか」
話が早々に本題に移る。
それというのも、お兄ちゃんが無駄話を嫌うからだ。
「これだ」
お兄ちゃんが台の上に並んだ試作品を示した。
「おお、これは……!」
それらを一目見てマクシミリアンが感嘆の声を上げた。
「いやはや、期待以上の出来です!」
マクシミリアンがまず手に取ったのはオペラグラスの試作品だった。
試作品の中でも一際華やかなそれは、宝石商であるマクシミリアンの目を引いたのだろう。
「わぁ……」
僕の目にもそれは素晴らしい品のように見えた。
ギザギザの彫金を施された縁が高級感を醸し出している。
柄の部分は草花を模した曲線が飾っている。
白を基調としたオペラグラスはコンパクトに収まっており、貴族の娘の細腕でも軽々と片手で持てそうだった。
「す、すごい! おにーちゃんすごい!」
僕はぴょんぴょんと飛び跳ねて兄を褒め称えた。
「褒め言葉を口にするのは性能を見てからにしてもらえないか」
兄は満更でもなさそうな笑顔を口元に浮かべながらも言った。
ジルベールのデザインを見事に再現している時点で兄の器用さに感心してしまったが、彼としては性能の方を見てもらいたいだろう。
僕はオペラグラスをそっと手に取ると、レンズを覗き込んだ。
「み……見える! 物がおっきく見えるよおにーちゃん!」
見えた光景に僕は驚嘆した。
「接眼部に凹レンズを、その反対に凸レンズを使用しただけのシンプルな構造だが、三倍程度の倍率を実現できた。観劇には充分な性能だろう」
お兄ちゃんが説明をしている間に、オペラグラスをマクシミリアンに手渡してみせる。
レンズを覗き込むなり、マクシミリアンも驚きに息を呑んでいた。
お兄ちゃんが説明した仕組みの物は僕も聞いたことがある。
確か現代日本では『ガリレオ式望遠鏡』と呼ばれる仕組みの物の筈だ。
お兄ちゃんは自力でそこに辿り着いたんだな、と思うと胸が熱くなる思いがした。
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