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第一部 リューナジア城編
第五十四話 シア・ブラックウェルの診察
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シアの家の中は外観から受ける印象とは違い、意外に小綺麗だった。
死霊術士の家の中だからそこら辺に動物の骨が転がってるかもしれないと思っていたが、そんなこともなかった。室内は清潔に保たれている。
僕たちを応接間と思しき空間に通すと、シアは「ちょっと待ってろ」と言って何処かへ行ってしまった。
だから僕たちはしみじみと部屋の中を見回すしかやることがなかった。
部屋の隅の本棚に分厚い本が何冊も並んでいる。
これほどの蔵書を揃えるのに一体いくらかかったのだろう。
「待たせたな。ほら、茶だ」
少ししてお盆を持ったシアが戻ってきて、僕らの前に飲み物を置いてくれた。
「緑茶?」
僕の目にはそれが前世で見慣れた緑茶のように見えた。
「おう、良く知ってたな。お偉いお貴族様ともなれば遠い星々の国の茶も嗜んでるってか」
「ああ……」
そういえば星々の国の最東端はアジアの色んな国をごっちゃ混ぜにしたような文化圏だという設定があった気がする。
タソトキプレイ時にはその国まで辿り着いたことがなかったので、すっかり頭から抜けていた。
粗暴そうなシアがわざわざお茶を淹れてきてくれるとは思わなかった。
ありがたくカップを手に取って傾けた。
懐かしいお茶の香りが鼻腔に広がる。
「……美味いな」
隣で同じようにお茶を一口飲んだ兄が思わずと言った風にぽつりと呟いた。
「あまりその、贅沢を好まれるようには見えないが、極東からの品など高価だったのでは……ないですか?」
マクシミリアン相手にすら敬語を使わなかった兄が敬語を使っている!
弟である僕を診てくれるかもしれない相手の機嫌を損ねる訳にはいかないと思っているのかもしれない。
「ふん、故郷の茶を客に出したってだけの話だ」
シアは事も無げに答えた。
「ということはつまり、あなたは星々の国出身で……」
「今は俺のことはどうでもいいだろ。それより、お前らの事情を聞かせろよ」
言われてみると確かにシアの顔つきや黒い瞳は東洋人のそれっぽく見えた。
体格の良さに圧倒されて今まで気が付かなかった。
しかし今はシアの指摘通り、彼についての話をしている時ではない。
今日は僕を診に来てもらいに来たのだから。
「じゃあ、事情を説明します」
茶をテーブルに置くと、僕は口を開いた。
「僕、生まれた時から病弱で少し走り回っただけですぐに体調を崩してしまうんです。その病弱さを何とかしたくって……何か分かりませんか?」
「ふむ。病弱、ねェ……診せてみな」
シアは腰を上げると、僕の前に膝を突いた。
彼は僕の顔に手を伸ばす。
「っ」
彼の指がそっと下瞼に触れ、捲れた瞼裏をじっくりと観察される。
ちょっとドキっとしたけど前世のお医者さんの診察とそう変わらない。
「口を開け。舌を見せろ」
指示通り口を開いて口の中を見せた。
その様子をお兄ちゃんが隣で心配そうに見つめている。
暫くしてシアは手を離した。
「うん。ぱっと見肉体的には問題なさそうだな」
「肉体的には?」
シアの言葉端を捕らえ、兄が眉を吊り上げる。
「ああ。ここまで近づいてようやく分かるレベルだが、坊主の魂からは微かに屍臭がする――――坊主、さては一度死んでるな?」
死霊術士の家の中だからそこら辺に動物の骨が転がってるかもしれないと思っていたが、そんなこともなかった。室内は清潔に保たれている。
僕たちを応接間と思しき空間に通すと、シアは「ちょっと待ってろ」と言って何処かへ行ってしまった。
だから僕たちはしみじみと部屋の中を見回すしかやることがなかった。
部屋の隅の本棚に分厚い本が何冊も並んでいる。
これほどの蔵書を揃えるのに一体いくらかかったのだろう。
「待たせたな。ほら、茶だ」
少ししてお盆を持ったシアが戻ってきて、僕らの前に飲み物を置いてくれた。
「緑茶?」
僕の目にはそれが前世で見慣れた緑茶のように見えた。
「おう、良く知ってたな。お偉いお貴族様ともなれば遠い星々の国の茶も嗜んでるってか」
「ああ……」
そういえば星々の国の最東端はアジアの色んな国をごっちゃ混ぜにしたような文化圏だという設定があった気がする。
タソトキプレイ時にはその国まで辿り着いたことがなかったので、すっかり頭から抜けていた。
粗暴そうなシアがわざわざお茶を淹れてきてくれるとは思わなかった。
ありがたくカップを手に取って傾けた。
懐かしいお茶の香りが鼻腔に広がる。
「……美味いな」
隣で同じようにお茶を一口飲んだ兄が思わずと言った風にぽつりと呟いた。
「あまりその、贅沢を好まれるようには見えないが、極東からの品など高価だったのでは……ないですか?」
マクシミリアン相手にすら敬語を使わなかった兄が敬語を使っている!
弟である僕を診てくれるかもしれない相手の機嫌を損ねる訳にはいかないと思っているのかもしれない。
「ふん、故郷の茶を客に出したってだけの話だ」
シアは事も無げに答えた。
「ということはつまり、あなたは星々の国出身で……」
「今は俺のことはどうでもいいだろ。それより、お前らの事情を聞かせろよ」
言われてみると確かにシアの顔つきや黒い瞳は東洋人のそれっぽく見えた。
体格の良さに圧倒されて今まで気が付かなかった。
しかし今はシアの指摘通り、彼についての話をしている時ではない。
今日は僕を診に来てもらいに来たのだから。
「じゃあ、事情を説明します」
茶をテーブルに置くと、僕は口を開いた。
「僕、生まれた時から病弱で少し走り回っただけですぐに体調を崩してしまうんです。その病弱さを何とかしたくって……何か分かりませんか?」
「ふむ。病弱、ねェ……診せてみな」
シアは腰を上げると、僕の前に膝を突いた。
彼は僕の顔に手を伸ばす。
「っ」
彼の指がそっと下瞼に触れ、捲れた瞼裏をじっくりと観察される。
ちょっとドキっとしたけど前世のお医者さんの診察とそう変わらない。
「口を開け。舌を見せろ」
指示通り口を開いて口の中を見せた。
その様子をお兄ちゃんが隣で心配そうに見つめている。
暫くしてシアは手を離した。
「うん。ぱっと見肉体的には問題なさそうだな」
「肉体的には?」
シアの言葉端を捕らえ、兄が眉を吊り上げる。
「ああ。ここまで近づいてようやく分かるレベルだが、坊主の魂からは微かに屍臭がする――――坊主、さては一度死んでるな?」
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