悪逆第四皇子は僕のお兄ちゃんだぞっ！ ～商人になりたいので悪逆皇子の兄と組むことにします～

第一部 リューナジア城編

第二十一話 二人だけの秘密

「――――お前は何故こんな知識を持っているんだ？」

　遂にこの時が来たかと僕は身を固くした。
　すごく頭のいい兄でさえまだ発明していない物の知識を披露したらそりゃ疑問を持たれるだろう。
　むしろ真っ先に尋ねられるだろうとすら思っていた。

　僕は覚悟を決めて口を開いた。

「あのね、僕は前世の記憶があるの」
「……」

　意外にもこの告白に彼は何も言わず、ただ続きを話してみろとばかりに片眉を上げた。

「僕は前世で異世界で生きてたんだよ。その世界には魔法がないけれど、その代わりに"科学技術"が発展してるんだよ。科学っていうのは、お兄ちゃんが作っている凄い機械みたいなもののことだよ」

　僕が言葉を重ねていくと、彼の目が次第に大きく見開かれていく。

「異世界……だと？　しかもその世界には魔法がない？　ならその世界ではオレみたいな魔法を使えない人間が普通なのか？」
「うん、そうだよ！　お兄ちゃんみたいに頭が良い人は尊敬されるんだよ！」
「それは――――夢のような話だな」

　遠い理想郷に想いを馳せるかのように彼はふっと目を細めた。

「信じてくれるの？」
「ああ。異世界で生きた前世の記憶を保持している。確かにそれならばお前の異常とも言える知識や性格に説明が付くからな」
「異常な性格！？」

　失敬な、僕はごく普通の一般人だ。
　ウィルフリートお兄ちゃんに異常呼ばわりされる云われはない。

「だってそうだろう？　オレなんかに纏わりつくのは相当な変わり者だ」

　兄はそう言って自虐的に笑った。
　彼のその笑い方があまりにも悲しくて、僕は首を横に振って言った。

「そんなことないよ。みんなおにーちゃんのことをちゃんと知ったらおにーちゃんを凄いと思うよ」
「……っ。そういう言葉がすんなりと出るところが変わってるんだっ！」

　兄はふん、とそっぽを向いてしまった。
　その頬が赤く染まっている。もしかして照れているのだろうか。
　相変わらず兄は妙に可愛い所がある。

「ま、まあそのことはともかくとして。お前、このことはオレ以外の誰にも言うなよ？」
「え？」

　きょとんとして首を傾げる。

「前世の記憶があるということをだ。オレはお前の言うことを理解できるが、他の人間ならば碌に自分の頭で考えもせずにお前のことを悪魔憑きだと決めつけるだろう」

　兄の言葉には実感が籠っていた。
　今まで何人の人間が噂に聞いたことだけで彼を悪魔憑きだと決めつけたのだろうと考えてしまう。

「だからこれはオレとお前だけの二人の秘密だ」

　彼が真剣な眼差しで僕を見つめる。

「分かった。僕とおにーちゃんの秘密」

　こうして僕と彼は共有の秘密を抱えた。