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第一部 リューナジア城編

第十五話 家庭教師だって!

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 それから僕は毎日のようにウィルフリートお兄ちゃんの部屋を訪ねるようになった。
 決して無理をしないという約束のおかげで、彼との会話の途中でぶっ倒れるようなことはもうしない。
 そうして僕は毎日お兄ちゃんの発明品を見せてもらっているのだった。
 僕も日常であったことをお兄ちゃんに話して聞かせている。

「お兄ちゃん、僕ね、もう少ししたら家庭教師が付くんだって」

 今日も乳母が言っていたことを兄に話す。

「家庭教師だと?」
「うん。僕が丈夫になってきたからだって」

 ここのところ連続でウィルフリートの所を訪ねることが出来ている程度には僕は熱を出していない。
 それで家庭教師を伴っての授業をスタートさせても良さそうだと乳母が判断したのだ。

「だからね、これからは毎日はここに来れなくなっちゃうの」

 僕の体力では家庭教師からの授業を受けた上に兄の部屋に行くのを毎日繰り返すのはハードワークだ。
 本当に残念だと伝わるようにしょんぼりとした顔を向ける。

「な、なんだと!?」
「ごめんねおにーちゃん」

 予想以上にウィルフリートは衝撃を受けたかのような愕然とした顔をする。

「いやお前が謝ることじゃない。だがこれは一大事だぞ……」

 お兄ちゃんは考え込むように顎に手を当てぶつぶつ言い始めた。
 まさかここまで動揺するとは思わなかった。毎日のようにはいけなくなっただけで、別にもう一緒に遊べないという訳でもないのに。
 ははぁん、さては――――僕の身体の虚弱さが心配なんだな? 自分が毎日見ていないと倒れるかもしれないとでも思っているのかもしれない。心配性だなぁ僕のお兄ちゃんは。

 そう思ってにやにやしていたらウィルフリートがいきなり叫んだ。

「よし、分かった。オレがお前の家庭教師をしてやる! それなら毎日会えるだろう!」

 いきなり何を言い出すんだこの兄は。

「そうだ、それがいい! 何処の馬の骨とも知れない奴にカレンの家庭教師など任せられない。オレが直々に教えてやる!」

 お兄ちゃんは得意げな笑みを見せる。

 いや、しかしいくらなんでもそれはなぁ……。
 いくら兄の頭が良いとは言ってもまだ十二歳だ。小学六年生に家庭教師が務まるだろうか。
 むしろ彼の頭が良過ぎていきなり難しい内容をやらされたりなどしそうで不安だ。

「それだとおにーちゃんが大変になっちゃうから、いいよ」

 ふるふると頭を横に振って無難に断った。

「な……!? オレが信用できないというのか!? 誰かも分からない家庭教師より!?」
「そうじゃないよ。おにーちゃんだって毎日お勉強があるでしょう? 僕に教えるのにおにーちゃんのお勉強がおくれちゃったら悲しいもん」

 それでも食い下がる兄を上目遣いに見つめ、眉を八の字に下げてきゅるんと潤んだ瞳を向ける。

「む……すまない。お前の兄を想う気持ちをオレは見くびっていたようだ。別にオレは家庭教師と自分の勉強くらい両立できるが、お前に心配はかけたくないからな。ここは引き下がるとしよう」

 こうして僕は何とか兄を宥めることに成功した。
 ふう、良かった良かった。
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