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第三十八話 十年後のアレクシスとルノ 後編
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「それで、決めたのか?」
穏やかな午後の日差しが窓から差し込む中。
オレはアレクに尋ねた。
「そうだな。二人とも素質は悪くない」
弟子入りを志願してきたダグラスとローランの二人について彼は所感を述べた。
豪奢な調度品に彩られた居室。
もう見慣れた場所となったそこはグロースクロイツ家のアレクの部屋だ。
オレ自身に充てがわれた部屋もあるが、オレは当たり前のようにアレクの部屋に入り浸っていた。
捕らえた盗賊たちを突き出すと、オレたちはダグラスとローランの二人も馬車に乗せてやって、グロースクロイツ家の居城へと戻ってきたのだった。
一年に一度、父の命日にオレが墓参りできるように故郷のクラ―センへと馬車で行く。アレクは毎年そうしてくれるのだ。野盗とそれに襲われる二人に遭遇したのはその帰りのことだった。
「じゃあ弟子に?」
「どうだろうな。片方は魔術師であるものの古代魔術の基礎すら学んでいない」
片方というのはダグラスとかいうおっさんの方のことだろう。
魔術師というのは通常、基礎を魔術学校で修めてから各々師に弟子入りするなり独学で研鑽を積むなりして魔術の腕を磨くのが普通だ。まったくの素人を弟子にする魔術師もいない訳ではないが、グロースクロイツ家のような大貴族がそうするのは聞いたことがない。
オレもアレクの専属霊医術士になれるように卒業後数年間他の魔術師に弟子入りし、その間アレクとは離れ離れだったのだ。
四年前アレクがグロースクロイツ家の当主を継ぐことになったのをきっかけに正式に彼の専属霊医術士となり、それからはずっと彼の城に一緒に住んでいる。
「じゃあ金髪の方なら問題ないだろ?」
オレはローランと名乗った少年のことを問う。
彼の方は古代魔術の基礎を修めていると聞いた。
「それは、確かにそうなんだが」
アレクは眉を顰める。
そういう表情に慣れてきた彼の眉間には皺が刻まれつつあった。
彼はこの数年でますますいい男になってきたものだと感じる。
一瞬、ぼうっと彼の顔に見惚れてしまった。
「ルノ?」
「ああ、ごめん。何だって?」
見惚れていたことを気取られたら気恥ずかしい。
オレはふるふると首を振って誤魔化した。
「何故あの者たちに肩入れするんだ? 何か理由があるのか?」
確かにオレのあの二人への態度は肩入れしていると言ってもいいものかもしれない。
大した理由がある訳ではないのだが。
「別に。あの金髪の小僧が昔のオレに似ていると思っただけだ」
彼らを弟子にとってもいいんじゃないかと賛成した理由はその程度のものだった。
「昔の君に? それは傭兵時代の……」
「いや。お前と出会った頃のオレだよ」
にやりと笑う。
彼と出会った十年前のあの日々が懐かしく感じられる。
今思えば彼とあの魔術学校で出会えたのは運命の出会いというやつだったのだろう。
「む、あの頃のルノか。言われてみれば……そうなのかもしれない」
どうやらアレクの方はあの金髪の小僧が若い頃のオレに似てるとは思ってなかったらしい。
あの一生懸命強気を気取っているところとかそっくりだと思うんだが……当時のアレクにはオレがどう見えていたのだろう。
「懐かしいな。あの頃のルノは今より少し細かった」
アレクはオレの身体に手を回す。
彼の瞳を見て、彼が"その気"になったことを悟る。
「今は太ったって言いたいのか?」
答えは明白だが、あえてニヤリと犬歯を剥き出す。
「まさか。それよりも、そう……」
彼の黒い手がゆっくりとオレの腰回りを撫でる。
彼に抱き寄せられるだけでそこがゾクゾクと疼いてしまう。
「オレ好みに育った、と言うべきか」
腰と尻の境目辺りを彼の指がくるくると円を描く。
何処をどう触ればオレが反応するか彼の指は熟知していた。
オレの身体がぶるりと震える。
「ふふっ、アレクはすけべだな」
くすくすと笑い合いながら、オレたちはベッドに倒れ込んだのだった。
十年経っても、否、十年の歳月を経てますます彼のことが愛おしくて堪らなくなっていた。
…………
……
…
些か、喉が痛い。
ベッドから身を起こして窓の外を見やると、既に日は傾いて夕焼けが万物を赤く染めようとしていた。
随分と自堕落な休日の過ごし方をしてしまったようだ。たまにはそんな日があってもいいだろう。
オレが身体を起こした気配でアレクも目が覚めたのか、ベッドの中でぼんやりとした顔をしていた。
「む、寝てしまったか……」
「たまには昼寝も気持ちいいな」
彼の頬にキスを落とすと、ベッドから這い出て服を着た。
「あの二人のことだが」
同じように起きてきたアレクが口を開く。
「仮採用ということにしよう。試しに一月教えてみて弟子にする価値があると思えば正式に弟子にする。それでどうだ?」
「弟子にする価値がなかったら放逐か?」
「仕方ないだろう。誰でも彼でも受け入れる訳にはいかない」
アレクは肩を竦めた。
それが彼の出した結論らしい。
「いいと思う」
オレは賛成した。
「君に納得してもらえたようで良かった」
「別にオレの意見なんて無視してもいいんだぜ?」
「そうはいかない。君に嫌われたくないからな」
「まさか、それくらいのことでアレクを嫌う筈ないだろ」
ふふっと笑ってまた彼の頬にキスをする。
また彼とベッドの中で戯れたくなってしまう。
その誘惑を断ち切ると、きちんと服を纏った彼の姿を眺めた。
オレの目から見るからそう見えるのだろうか、とても男前に見えた。
「では二人に決定を伝えに行くとしようか。付いてくるだろう?」
「ああ、もちろん」
ローブを纏いながら、彼と顔を見合わせて笑う。
こんな風にずっと彼と一緒の日々が続いていくのだろう。
そう思うと幸せで幸せで仕方なかった。
今ならば彼との永遠をとても穏やかな気持ちで信じられる。
そっと握った彼の手が温かかった。
穏やかな午後の日差しが窓から差し込む中。
オレはアレクに尋ねた。
「そうだな。二人とも素質は悪くない」
弟子入りを志願してきたダグラスとローランの二人について彼は所感を述べた。
豪奢な調度品に彩られた居室。
もう見慣れた場所となったそこはグロースクロイツ家のアレクの部屋だ。
オレ自身に充てがわれた部屋もあるが、オレは当たり前のようにアレクの部屋に入り浸っていた。
捕らえた盗賊たちを突き出すと、オレたちはダグラスとローランの二人も馬車に乗せてやって、グロースクロイツ家の居城へと戻ってきたのだった。
一年に一度、父の命日にオレが墓参りできるように故郷のクラ―センへと馬車で行く。アレクは毎年そうしてくれるのだ。野盗とそれに襲われる二人に遭遇したのはその帰りのことだった。
「じゃあ弟子に?」
「どうだろうな。片方は魔術師であるものの古代魔術の基礎すら学んでいない」
片方というのはダグラスとかいうおっさんの方のことだろう。
魔術師というのは通常、基礎を魔術学校で修めてから各々師に弟子入りするなり独学で研鑽を積むなりして魔術の腕を磨くのが普通だ。まったくの素人を弟子にする魔術師もいない訳ではないが、グロースクロイツ家のような大貴族がそうするのは聞いたことがない。
オレもアレクの専属霊医術士になれるように卒業後数年間他の魔術師に弟子入りし、その間アレクとは離れ離れだったのだ。
四年前アレクがグロースクロイツ家の当主を継ぐことになったのをきっかけに正式に彼の専属霊医術士となり、それからはずっと彼の城に一緒に住んでいる。
「じゃあ金髪の方なら問題ないだろ?」
オレはローランと名乗った少年のことを問う。
彼の方は古代魔術の基礎を修めていると聞いた。
「それは、確かにそうなんだが」
アレクは眉を顰める。
そういう表情に慣れてきた彼の眉間には皺が刻まれつつあった。
彼はこの数年でますますいい男になってきたものだと感じる。
一瞬、ぼうっと彼の顔に見惚れてしまった。
「ルノ?」
「ああ、ごめん。何だって?」
見惚れていたことを気取られたら気恥ずかしい。
オレはふるふると首を振って誤魔化した。
「何故あの者たちに肩入れするんだ? 何か理由があるのか?」
確かにオレのあの二人への態度は肩入れしていると言ってもいいものかもしれない。
大した理由がある訳ではないのだが。
「別に。あの金髪の小僧が昔のオレに似ていると思っただけだ」
彼らを弟子にとってもいいんじゃないかと賛成した理由はその程度のものだった。
「昔の君に? それは傭兵時代の……」
「いや。お前と出会った頃のオレだよ」
にやりと笑う。
彼と出会った十年前のあの日々が懐かしく感じられる。
今思えば彼とあの魔術学校で出会えたのは運命の出会いというやつだったのだろう。
「む、あの頃のルノか。言われてみれば……そうなのかもしれない」
どうやらアレクの方はあの金髪の小僧が若い頃のオレに似てるとは思ってなかったらしい。
あの一生懸命強気を気取っているところとかそっくりだと思うんだが……当時のアレクにはオレがどう見えていたのだろう。
「懐かしいな。あの頃のルノは今より少し細かった」
アレクはオレの身体に手を回す。
彼の瞳を見て、彼が"その気"になったことを悟る。
「今は太ったって言いたいのか?」
答えは明白だが、あえてニヤリと犬歯を剥き出す。
「まさか。それよりも、そう……」
彼の黒い手がゆっくりとオレの腰回りを撫でる。
彼に抱き寄せられるだけでそこがゾクゾクと疼いてしまう。
「オレ好みに育った、と言うべきか」
腰と尻の境目辺りを彼の指がくるくると円を描く。
何処をどう触ればオレが反応するか彼の指は熟知していた。
オレの身体がぶるりと震える。
「ふふっ、アレクはすけべだな」
くすくすと笑い合いながら、オレたちはベッドに倒れ込んだのだった。
十年経っても、否、十年の歳月を経てますます彼のことが愛おしくて堪らなくなっていた。
…………
……
…
些か、喉が痛い。
ベッドから身を起こして窓の外を見やると、既に日は傾いて夕焼けが万物を赤く染めようとしていた。
随分と自堕落な休日の過ごし方をしてしまったようだ。たまにはそんな日があってもいいだろう。
オレが身体を起こした気配でアレクも目が覚めたのか、ベッドの中でぼんやりとした顔をしていた。
「む、寝てしまったか……」
「たまには昼寝も気持ちいいな」
彼の頬にキスを落とすと、ベッドから這い出て服を着た。
「あの二人のことだが」
同じように起きてきたアレクが口を開く。
「仮採用ということにしよう。試しに一月教えてみて弟子にする価値があると思えば正式に弟子にする。それでどうだ?」
「弟子にする価値がなかったら放逐か?」
「仕方ないだろう。誰でも彼でも受け入れる訳にはいかない」
アレクは肩を竦めた。
それが彼の出した結論らしい。
「いいと思う」
オレは賛成した。
「君に納得してもらえたようで良かった」
「別にオレの意見なんて無視してもいいんだぜ?」
「そうはいかない。君に嫌われたくないからな」
「まさか、それくらいのことでアレクを嫌う筈ないだろ」
ふふっと笑ってまた彼の頬にキスをする。
また彼とベッドの中で戯れたくなってしまう。
その誘惑を断ち切ると、きちんと服を纏った彼の姿を眺めた。
オレの目から見るからそう見えるのだろうか、とても男前に見えた。
「では二人に決定を伝えに行くとしようか。付いてくるだろう?」
「ああ、もちろん」
ローブを纏いながら、彼と顔を見合わせて笑う。
こんな風にずっと彼と一緒の日々が続いていくのだろう。
そう思うと幸せで幸せで仕方なかった。
今ならば彼との永遠をとても穏やかな気持ちで信じられる。
そっと握った彼の手が温かかった。
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