嫌われてたはずなのに本読んでたらなんか美形伴侶に溺愛されてます 執着の騎士団長と言語オタクの俺

野良猫のらん

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番外編

現パロ編 第六話 フランソワ視点

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 翌日、エルムートが待ち合わせ場所に指定してきたのは、映画館も併設されている大型ショッピングモールだった。

 フランソワはとびっきりのデートコーデを組んで、待ち合わせ場所へと向かった。前回はピンクを主体としたコーデだったので、今日は黄色だ。メイクもイエローオレンジで合わせた。

 待ち合わせ場所には五分前に着いたというのに、もう既にエルムートは着ていた。
 体格のいい長身がよく目立つ。春らしく明るい色のハーフコートと紺色のタートルネックに身を包んだ彼は、遠目に見ても色香を漂わせていた。

(すごい、胸筋の形が服の上からわかる……!)

 なんて眺めている場合ではない。
 フランソワはエルムートに声をかけた。

「ごめんエルムート、待たせたか?」
「少し前に来たばかりだ。今日のデートのことを考えていたら、一瞬だった」

 こちらを向いて微笑むエルムートは、瞬きして長い睫毛をしゃらしゃらと光らせた。マスカラしてなくてこの長さだと……!?

 受け答えもスマートだし、一体何分前から待ってくれていたのだろう。

 極め付きは、

「今日は前と違うメイクなんだな。今日のもとても似合っている」

 メイクの違いに目ざとく気づいてくれたのだ。嬉しさで胸が張り裂けそうだ。メイクがんばってきてよかった、と涙ぐみそうになった。

 この一日、自分は彼の色香と魅力に耐えられるだろうか。途中で気絶してしまうかもしれない。

「ショッピングでもなんでも、フランソワの好きなことができるようにとここを選んだのだが……」
「じゃあ、映画見ようぜ! 気になってた映画があるんだ」
「なら、そうしよう」

 二人はとある漫画の実写化映画を見ることにした。
 映画の時間まで少し間があったので、メンズ服を見て回って時間を潰し、それから映画を見た。

 暗い中で二人並んで同じものを見るというだけなのに、とてもロマンチックな時間のように感じられた。

「すっごい面白かったな! 血沸き肉躍るって感じで!」
 
 映画館を出たフランソワは、しゅっしゅっとパンチをするジェスチャーをしながら、エルムートに感想を語った。

「中国の歴史はよく知らないが、面白かったように思う。……フランソワは強い男が好きなのか?」
「ああ!」
「そうか……」

 エルムートは考え込むような表情を見せた。
 何を考えているのかは知らないが、彼から放たれるオーラが昨晩女性社員を睨んでいたときと似ていると感じた。

「エルムートも強い男だろ! この間給湯室で俺のことを守ってくれたじゃないか!」
「そういう強さでいいのか……!」

 ばしんと背中を叩いてあげると、途端にぱっと顔色が明るくなった。まったく、こっちがどんだけべた惚れかも知らないで。子犬みたいな人だな。
 可愛げを感じると、にやにやが止まらない。

「ならオレは、フランソワのことを全てから守ろう」
「はっはっはっ、なんだそれ。早々守られるような目には遭わないって」

 大真面目に変なことを言い出すので、声を上げて笑ってしまった。

「さて、ランチにしようぜ。和食とか中華とか、イタリアンとかいろいろあるっぽいな」

 ショッピングモール内のレストラン街へと移動しながら、ランチを何にするかと話し合った。

 美味しそうな和食屋を選び、個室がある店だったので、せっかくだから個室で食べることにした。

「へへ、なんだか本格的な店だな」

 なんて笑いながら、お互いに食べたいものを注文した。

「うーん、美味しい!」
「本当に美味しいな」

 期待以上の料理に舌鼓を打ち、幸せな気持ちに満たされた。

「さて、次は何をしようか」

 エルムートがスマホを取り出し、モール内にどんな施設があるか検索しようとする。
 フランソワは片手を上げて、その動きを制した。

「その前にエルムートに、話しておきたいことがあるんだ」
「うん? どうしたんだ?」
「その、俺たち、ただの同僚じゃなくてその、もっと進んだ仲になるわけだろ。なら、隠し事はすべきじゃない」

 昨晩、寝る前に考えていたことだ。
 フルールとして配信をしていることを、彼に打ち明けるべきなのではないかと。
 どう思われるかわからない。でも、彼だって出自について打ち明けてくれたのだ。自分だけ隠し事をするわけにはいかない。

「か、隠し事……」

 エルムートは挙動不審に目を泳がせた。
 一体何を想像しているのだろう。

「実を言うと、美容系配信者として『フルール』という名で活動しているんだ。何本も動画を上げている。別にやましい内容じゃないけど、隠してたとか思われたくなくて、いま打ち明けた」

 ちらりと上目遣いに、彼の表情を窺った。
 すると、なんともバツが悪そうに顔を顰めていた。どういう感情!?

「その……実を言うと、知っていた」
「ふえ!?」

 あまりの驚きに、変な声が出てしまった。

「ある日偶然フランソワの……フルールのチャンネルを見つけてしまったんだ。もしかしてフランソワなのではないかと思いながら、毎日見ていた――顔が綺麗だから」

「顔が綺麗だから」

 思考が止まるほどの衝撃に、思わずオウム返しした。
 ――エルムートが自分のチャンネルを見ていただって? 毎日?

「オレの方こそ、先に言うべきだった。もしも気持ち悪いと感じたのであれば……デートはこれで終わりでもいい」
「いや、いやいやいや。勝手に終わりにするな!」

 エルムートの言葉に、思わずテーブルを叩いてしまった。お行儀が悪い。

「そんなこと言うなら、俺だって前々からエルムートの顔がいいなって見てたし、人間はいいなと思う相手にはそういう面があるだろ。一体いつからだ?」
「……先週」
「最近じゃないか!」

 思えばつい一週間とちょっと前には、自分と彼とはただの同僚だったのだ。信じられない気持ちだ。

「まあ、なんだその。綺麗だと思って俺の動画を見てくれたんなら、素直に嬉しいよ。直接感想を言ってもらえるのなんて、初めてだし」

 金髪を人差し指にくるくると巻きつけながら、唇を尖らせた。

「そうか……よかった」

 バツが悪そうだった顔が、ほっと安堵したようなものに変わった。

「なら、もう一つ伝えておきたいことがある」
「まだあるのか」

 今度はどんな隠し事だ、どんとこいの気持ちで彼を見据える。

「オレはフランソワのことが好きだ。フランソワと真剣に付き合いたいと思っている」

 あまりにもまっすぐすぎる言葉に、目をぱちくりとさせた。続いて意味を理解し、顔が熱くなっていく。

「単にしたいからではなく、フランソワと愛を交わし合う手段の一つとして、もっと深い仲になりたいと思っている。……君は、どうだろうか?」

 てっきり、自分から誘うことになるのだと思っていた。
 それが、こんなにもまっすぐな告白をされるなんて。

「エルムートみたいにいい男で色香があって真摯でまっすぐな男、好きにならないはずがないだろう!」

 フランソワは思わず逆ギレみたいな勢いで、想いを吐露した。

「俺もエルムートとしたいよ。その、性欲由来でもあるけど、エルムートのこと、いろいろ知りたいから……」

 恥ずかしさに、顔が真っ赤になってしまう。
 けれどもきちんと言葉にしておきたいという、彼の誠実さを感じた。だから自分も、想いを言葉にしておかなければと思ったのだ。

「なら……しようか」
「うん」

 顔を林檎のようにしながら、フランソワは頷いた。

_______________
全六話と言ったな、あれは嘘だ。
思いのほか長引いたので、もう一話あります。
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