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番外編
現パロ編 第五話 フランソワ視点
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上司からの無茶ぶりをなんとかこなし、その後は通常業務に励み、なんとか一日が終わった。
「この後の飲み会、フランソワくんも出席するだろう?」
なんて上司に聞かれ、今晩は飲み会があることを思い出した。
「もちろん、行きます!」
飲み会の代金は、全て会社が出してくれることになっている。タダ酒が飲めるのだ、行かない手はない。
今日の飲み会にはいくつかの部署の人が参加するようだ。
飲み会の会場である店に到着すると、エルムートの姿もあった。嬉しくなってつい声をかけようとしたが、給湯室での言葉を思い出す。
ただの同僚でなければ……何になりたいというのか?
自分の気持ちはもう決まっている。
彼のことが好きだ。もうどうしようもなく、好きになってしまっている。
彼から告白されれば、一にも二にもなく頷くだろう。
いまエルムートと会話すれば、どうしても好意が滲んでしまいそうだ。人前で変な空気になってしまうわけにもいかない。
フランソワはエルムートには気がつかなかった振りをし、積極的に他の部署の人と交流をすることにした。
飲み会が始まり、みんなお酒が入り……。
「フランソワ先輩ってぇ、超イケメンですよねぇ」
気がつけば、厄介な女性社員に絡まれていた。
他の部署の社員で、二年目と言っていたか。隙あらば触れてこようとするのを、必死に躱していた。
いつもなら、こういうのは避けるのにな。
エルムートのことを意識しないようにしていたら、つい不用意に愛想よくしてしまった。
「フランソワ先輩、カノジョっているんですかぁ?」
「彼女はそりゃいないが……」
つい、ちらりとエルムートの方に視線を向けてしまった。
(うわっ)
途端に吃驚してしまった。
てっきり大人しく飲んでるんだろうなと思っていたのに、ゴゴゴゴゴと音がしそうな威圧感でフランソワと女性社員をまっすぐ睨んでいたからだ。
(何それ、嫉妬心? 執着心?)
雄弁すぎる表情に、吹き出しそうになってしまった。
もう、ハッキリとさせた方がよさそうだ。
「ごめん、好きな人ならいるんだ」
エルムートにも聞こえるよう、大きな声で言った。
「なんか酔いすぎちゃったみたいだから、もう帰るよ」
「へ? あ、は、はい……」
女性社員の脇をすり抜け、まっすぐにエルムートの元へと向かう。
「なあ、エルムート。俺を家まで送ってくれよ。な?」
「え、あ、ああ……!」
エルムートもまた目をぱちくりとさせていたが、ガタリと立ち上がってついてきてくれた。
店を出ると、涼しい空気が火照った頬を冷やしてくれた。
エルムートと並んで、夜道を駅まで歩く。
「さっき言ってた好きな人って、エルムートのことな」
「ああ……え!?」
さらりと言ってしまった。我ながら、味気ない告白だ。
そっと手を伸ばして手を繋ぐと、彼の掌は汗ばんでいた。
「なあ……このまま、ホテル行く?」
前を見据えたまま、静かに尋ねた。
きっとイエスと答えが返ってくると期待しながら。
彼の掌の汗ばみが、さらに増したように感じられた。その感触すら愛おしい。
彼の手が覚悟を決めたかのように、ぎゅっと握り返してきた。
そして彼は口を開いた。
「ダメだ……それはできない」
「え」
彼が好意を抱いてくれていると感じていたのは、勘違いだったのか。それとも関係を急ぎすぎたのか。
思わず彼の顔を見ると、彼は耳まで真っ赤になっていた。
「こういう、大切なことは……少なくとも二人にとって初めてのときは、酔っている最中に決めるべきではない。オレは、君のことを大事にしたい」
大切なこと。大事にしたい。
あまりにもまっすぐすぎる言葉に、酒のせいではない火照りを感じた。
こんなにも自分を大切にしてくれる人が、今までにいただろうか。
「酔っている最中に決めたら、もしかしたら後で後悔するかもしれないから……」
「じゃあ、明日さ。休みだし、デートしようよ。そのデートのときに誘ったら……オーケーしてくれる?」
エルムートを上目遣いに見つめると、蒼い瞳がチラリとこちらを向いた。
「君の気が、変わらなければ」
低い囁き声に、色香を感じて顔が熱くなる。
この人に抱かれるのだ、と思うと全身が熱くなるのを感じた。
両想いなのだ。
胸の内に、喜びが湧き起こってくるのを感じる。
同時に緊張を覚えた。
こんなに本気になってしまいそうな人と出会えたのは、いつぶりだろうか。あれ……初めてかもしれない。
どう抱かれればいいのだっけ。急に思い出せなくなってしまった。心の準備をする時間が一日もらえたのは、返ってよかったのかもしれない。
酒の勢いなんかではなく、きちんと向き合ってしたいと思った。エルムートは正しい。こんなに大切なことは、酔っているときに決めるべきではない。
「じゃあ、明日のデート楽しみにしてる」
「ああ」
手を振り、二人は駅で別れた。
帰り道、明日はどの服を着てどんなメイクをするかで頭の中がいっぱいだった。
「あ、そうだゴム買わないと」
フランソワは帰り道に、ドラッグストアに寄ることに決めたのだった。
「この後の飲み会、フランソワくんも出席するだろう?」
なんて上司に聞かれ、今晩は飲み会があることを思い出した。
「もちろん、行きます!」
飲み会の代金は、全て会社が出してくれることになっている。タダ酒が飲めるのだ、行かない手はない。
今日の飲み会にはいくつかの部署の人が参加するようだ。
飲み会の会場である店に到着すると、エルムートの姿もあった。嬉しくなってつい声をかけようとしたが、給湯室での言葉を思い出す。
ただの同僚でなければ……何になりたいというのか?
自分の気持ちはもう決まっている。
彼のことが好きだ。もうどうしようもなく、好きになってしまっている。
彼から告白されれば、一にも二にもなく頷くだろう。
いまエルムートと会話すれば、どうしても好意が滲んでしまいそうだ。人前で変な空気になってしまうわけにもいかない。
フランソワはエルムートには気がつかなかった振りをし、積極的に他の部署の人と交流をすることにした。
飲み会が始まり、みんなお酒が入り……。
「フランソワ先輩ってぇ、超イケメンですよねぇ」
気がつけば、厄介な女性社員に絡まれていた。
他の部署の社員で、二年目と言っていたか。隙あらば触れてこようとするのを、必死に躱していた。
いつもなら、こういうのは避けるのにな。
エルムートのことを意識しないようにしていたら、つい不用意に愛想よくしてしまった。
「フランソワ先輩、カノジョっているんですかぁ?」
「彼女はそりゃいないが……」
つい、ちらりとエルムートの方に視線を向けてしまった。
(うわっ)
途端に吃驚してしまった。
てっきり大人しく飲んでるんだろうなと思っていたのに、ゴゴゴゴゴと音がしそうな威圧感でフランソワと女性社員をまっすぐ睨んでいたからだ。
(何それ、嫉妬心? 執着心?)
雄弁すぎる表情に、吹き出しそうになってしまった。
もう、ハッキリとさせた方がよさそうだ。
「ごめん、好きな人ならいるんだ」
エルムートにも聞こえるよう、大きな声で言った。
「なんか酔いすぎちゃったみたいだから、もう帰るよ」
「へ? あ、は、はい……」
女性社員の脇をすり抜け、まっすぐにエルムートの元へと向かう。
「なあ、エルムート。俺を家まで送ってくれよ。な?」
「え、あ、ああ……!」
エルムートもまた目をぱちくりとさせていたが、ガタリと立ち上がってついてきてくれた。
店を出ると、涼しい空気が火照った頬を冷やしてくれた。
エルムートと並んで、夜道を駅まで歩く。
「さっき言ってた好きな人って、エルムートのことな」
「ああ……え!?」
さらりと言ってしまった。我ながら、味気ない告白だ。
そっと手を伸ばして手を繋ぐと、彼の掌は汗ばんでいた。
「なあ……このまま、ホテル行く?」
前を見据えたまま、静かに尋ねた。
きっとイエスと答えが返ってくると期待しながら。
彼の掌の汗ばみが、さらに増したように感じられた。その感触すら愛おしい。
彼の手が覚悟を決めたかのように、ぎゅっと握り返してきた。
そして彼は口を開いた。
「ダメだ……それはできない」
「え」
彼が好意を抱いてくれていると感じていたのは、勘違いだったのか。それとも関係を急ぎすぎたのか。
思わず彼の顔を見ると、彼は耳まで真っ赤になっていた。
「こういう、大切なことは……少なくとも二人にとって初めてのときは、酔っている最中に決めるべきではない。オレは、君のことを大事にしたい」
大切なこと。大事にしたい。
あまりにもまっすぐすぎる言葉に、酒のせいではない火照りを感じた。
こんなにも自分を大切にしてくれる人が、今までにいただろうか。
「酔っている最中に決めたら、もしかしたら後で後悔するかもしれないから……」
「じゃあ、明日さ。休みだし、デートしようよ。そのデートのときに誘ったら……オーケーしてくれる?」
エルムートを上目遣いに見つめると、蒼い瞳がチラリとこちらを向いた。
「君の気が、変わらなければ」
低い囁き声に、色香を感じて顔が熱くなる。
この人に抱かれるのだ、と思うと全身が熱くなるのを感じた。
両想いなのだ。
胸の内に、喜びが湧き起こってくるのを感じる。
同時に緊張を覚えた。
こんなに本気になってしまいそうな人と出会えたのは、いつぶりだろうか。あれ……初めてかもしれない。
どう抱かれればいいのだっけ。急に思い出せなくなってしまった。心の準備をする時間が一日もらえたのは、返ってよかったのかもしれない。
酒の勢いなんかではなく、きちんと向き合ってしたいと思った。エルムートは正しい。こんなに大切なことは、酔っているときに決めるべきではない。
「じゃあ、明日のデート楽しみにしてる」
「ああ」
手を振り、二人は駅で別れた。
帰り道、明日はどの服を着てどんなメイクをするかで頭の中がいっぱいだった。
「あ、そうだゴム買わないと」
フランソワは帰り道に、ドラッグストアに寄ることに決めたのだった。
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