嫌われてたはずなのに本読んでたらなんか美形伴侶に溺愛されてます 執着の騎士団長と言語オタクの俺

野良猫のらん

文字の大きさ
上 下
26 / 28
番外編

現パロ編 第五話 フランソワ視点

しおりを挟む
 上司からの無茶ぶりをなんとかこなし、その後は通常業務に励み、なんとか一日が終わった。

「この後の飲み会、フランソワくんも出席するだろう?」

 なんて上司に聞かれ、今晩は飲み会があることを思い出した。

「もちろん、行きます!」

 飲み会の代金は、全て会社が出してくれることになっている。タダ酒が飲めるのだ、行かない手はない。

 今日の飲み会にはいくつかの部署の人が参加するようだ。
 飲み会の会場である店に到着すると、エルムートの姿もあった。嬉しくなってつい声をかけようとしたが、給湯室での言葉を思い出す。
 ただの同僚でなければ……何になりたいというのか?

 自分の気持ちはもう決まっている。
 彼のことが好きだ。もうどうしようもなく、好きになってしまっている。
 彼から告白されれば、一にも二にもなく頷くだろう。

 いまエルムートと会話すれば、どうしても好意が滲んでしまいそうだ。人前で変な空気になってしまうわけにもいかない。
 フランソワはエルムートには気がつかなかった振りをし、積極的に他の部署の人と交流をすることにした。
 
 飲み会が始まり、みんなお酒が入り……。

「フランソワ先輩ってぇ、超イケメンですよねぇ」

 気がつけば、厄介な女性社員に絡まれていた。
 他の部署の社員で、二年目と言っていたか。隙あらば触れてこようとするのを、必死に躱していた。

 いつもなら、こういうのは避けるのにな。
 エルムートのことを意識しないようにしていたら、つい不用意に愛想よくしてしまった。

「フランソワ先輩、カノジョっているんですかぁ?」
「彼女はそりゃいないが……」

 つい、ちらりとエルムートの方に視線を向けてしまった。

(うわっ)

 途端に吃驚してしまった。
 てっきり大人しく飲んでるんだろうなと思っていたのに、ゴゴゴゴゴと音がしそうな威圧感でフランソワと女性社員をまっすぐ睨んでいたからだ。

(何それ、嫉妬心? 執着心?)

 雄弁すぎる表情に、吹き出しそうになってしまった。
 もう、ハッキリとさせた方がよさそうだ。

「ごめん、好きな人ならいるんだ」

 エルムートにも聞こえるよう、大きな声で言った。

「なんか酔いすぎちゃったみたいだから、もう帰るよ」
「へ? あ、は、はい……」

 女性社員の脇をすり抜け、まっすぐにエルムートの元へと向かう。

「なあ、エルムート。俺を家まで送ってくれよ。な?」
「え、あ、ああ……!」

 エルムートもまた目をぱちくりとさせていたが、ガタリと立ち上がってついてきてくれた。
 店を出ると、涼しい空気が火照った頬を冷やしてくれた。
 エルムートと並んで、夜道を駅まで歩く。

「さっき言ってた好きな人って、エルムートのことな」
「ああ……え!?」

 さらりと言ってしまった。我ながら、味気ない告白だ。
 そっと手を伸ばして手を繋ぐと、彼の掌は汗ばんでいた。

「なあ……このまま、ホテル行く?」

 前を見据えたまま、静かに尋ねた。
 きっとイエスと答えが返ってくると期待しながら。

 彼の掌の汗ばみが、さらに増したように感じられた。その感触すら愛おしい。
 彼の手が覚悟を決めたかのように、ぎゅっと握り返してきた。
 そして彼は口を開いた。

「ダメだ……それはできない」
「え」

 彼が好意を抱いてくれていると感じていたのは、勘違いだったのか。それとも関係を急ぎすぎたのか。
 思わず彼の顔を見ると、彼は耳まで真っ赤になっていた。

「こういう、大切なことは……少なくとも二人にとって初めてのときは、酔っている最中に決めるべきではない。オレは、君のことを大事にしたい」

 大切なこと。大事にしたい。
 あまりにもまっすぐすぎる言葉に、酒のせいではない火照りを感じた。
 こんなにも自分を大切にしてくれる人が、今までにいただろうか。

「酔っている最中に決めたら、もしかしたら後で後悔するかもしれないから……」
「じゃあ、明日さ。休みだし、デートしようよ。そのデートのときに誘ったら……オーケーしてくれる?」

 エルムートを上目遣いに見つめると、蒼い瞳がチラリとこちらを向いた。

「君の気が、変わらなければ」

 低い囁き声に、色香を感じて顔が熱くなる。
 この人に抱かれるのだ、と思うと全身が熱くなるのを感じた。
 
 両想いなのだ。
 胸の内に、喜びが湧き起こってくるのを感じる。

 同時に緊張を覚えた。
 こんなに本気になってしまいそうな人と出会えたのは、いつぶりだろうか。あれ……初めてかもしれない。
 どう抱かれればいいのだっけ。急に思い出せなくなってしまった。心の準備をする時間が一日もらえたのは、返ってよかったのかもしれない。

 酒の勢いなんかではなく、きちんと向き合ってしたいと思った。エルムートは正しい。こんなに大切なことは、酔っているときに決めるべきではない。

「じゃあ、明日のデート楽しみにしてる」
「ああ」

 手を振り、二人は駅で別れた。
 帰り道、明日はどの服を着てどんなメイクをするかで頭の中がいっぱいだった。

「あ、そうだゴム買わないと」

 フランソワは帰り道に、ドラッグストアに寄ることに決めたのだった。
しおりを挟む
感想 205

あなたにおすすめの小説

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

末っ子王子は婚約者の愛を信じられない。

めちゅう
BL
 末っ子王子のフランは兄であるカイゼンとその伴侶であるトーマの結婚式で涙を流すトーマ付きの騎士アズランを目にする。密かに慕っていたアズランがトーマに失恋したと思いー。 お読みくださりありがとうございます。

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。