嫌われ忌み子は聖女の生まれ変わりでした

野良猫のらん

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第六十三話

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「そ、そこまでするつもりじゃ……っ」

 無惨なエトワールの姿を前に魔術を放った男子学生は狼狽えている。
 僕の腕を掴んでいた奴らも思わず口を抑えたりして腕を放している。

「え、エトワール……?」

 僕は地面に転がるエトワールにそっと声をかけた。
 エトワールはピクリとも動かず、ただただ血を垂れ流し続けている。
 エトワールの赤い血が芝生に吸い込まれていく。

「エトワール……!」

 僕は傍に跪くと、治癒魔術をかけようとした。
 だが、できない。
 魔力が変換されないのだ、光属性に。

「あ、あ、ああ……」

 自分の身体を見下ろした。
 エトワールの血でぐっしょり濡れている。
 血の穢れだ。今の僕は穢れているから、闇属性の魔術以外使えない。
 エトワールの治療ができない。今すぐ治療しなければエトワールは死んでしまうかもしれないのに。
 いや、もう死んでいるのかもしれない……。

 その時、ふっとエトワールが瞼を閉じた。
 それきりエトワールから生気が消え失せてしまった。
 死んでしまった。本当にエトワールが死んでしまった。

 僕が自分の身を守らなかったからだ。
 最初からこいつらを魔術でふっ飛ばしていればエトワールは死ななかったのに。

「う……」

 ずわり、僕の身体から黒い靄が溢れ出す。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!」

 黒い衝撃波が学生たちを弾き飛ばした。

「ぐわぁ……ッ!!」

 学生たちの身体が宙を舞い、地面や壁に叩き付けられる。
 エトワールの死体の周りだけが無意識に張った結界に防御されている。

「きゃあああああッ!」

 一人だけ衝撃波から逃れた女子学生が悲鳴を上げて逃げようとする。
 逃すものか。手の平の先をそいつに向ける。
 黒い炎が真っ直ぐに地面を奔る。
 炎が女子学生の足を捕えた。

「ギャアアッ!!」

 炎が足とローブを焦がし、彼女は汚い悲鳴を上げて地面の上を転がり回る。

「ひ……ヒィッ!」

 地面に叩き付けられた一人が起き上がって悲鳴を上げる。
 このままでは逃げてしまう。
 そいつにも素早く手の平を向ける。

「グェッ!」

 黒い衝撃波がそいつの身体を吹き飛ばし、学舎の壁に叩き付けられた。
 そのまま起き上がる様子はない。気絶したようだ。

 気持ちがいい。
 生まれながらの変換していない魔力はこうも自由自在に操れるのか。

 遠くから悲鳴が聞こえる。
 学舎の窓から中庭を見下ろした誰かが事態に気が付いたのかもしれない。
 そんなことどうでもいい。エトワールの復讐をするんだ。

 風の刃を放った男子学生は壁に叩き付けられて、頭から血を流している。
 僕は彼に歩み寄る。
 彼が怯えて平謝りしてくるようなら僕も踏み留まれたかもしれない。
 だが。

「黒い魔力……! やっぱり闇属性持ちじゃないか、この忌み子め……ッ!」

 僕を睨んだ彼が放った言葉は、奇しくも伯父さんが僕に放った言葉と同じだった。

(殺そう)

 冷え切った脳内で冷徹に判断を下した。

 彼に人差し指の先を向ける。
 彼はヒッと小さく悲鳴を漏らした。

 今更謝ってももう遅い、指先に魔力を集めていく。
 鋭く、黒く。
 この魔力が一旦放たれればどんな厚い結界をも貫くだろう。

 闇属性の初級魔術、『呪いを放つ』。
 ただの初級魔術で目の前の男は死ぬ。

 冷静に彼の胸に人差し指の先に狙いを定めた。
 そして――――。

「死んでしまえ」

 魔力を放った。
 黒い閃光が彼の胸を貫かんとする。

「ルインハイト……ッ!」

 恋焦がれた褐色肌。
 賢者然としたローブ姿の人物が目の前に飛び出してきた。
 黒い閃光から学生を守るように。

 エルネスト先生の胸に、黒い穴が空いていた。
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