嫌われ忌み子は聖女の生まれ変わりでした

野良猫のらん

文字の大きさ
上 下
62 / 71

第六十一話

しおりを挟む
 ある日、シャルルくんに中庭に呼び出された。
 何か大事な話があるらしい。
 ついにシャルルくんまで僕を責める気になったのだろうか、と気が重かった。

「大丈夫かルインハイト。私も一緒についていこうか」

 気安く僕を呼び捨てにするのはマルステンだ。
 彼は今では数少ない僕の味方だった。
 図書室の片隅で僕らは会話を交わしていた。

「ううん、大丈夫。シャルルくんは優しいと思うから」
「だが友人だと思っていた相手からの言葉と、有象無象からの言葉は違うだろう」

 シャルルくんからの言葉はより深く胸に突き刺さるのではないか、と彼は心配してくれている。

「そもそもこの学院の学生どものために君が心を砕く必要はない。奴らは結局、誰かを標的にできればいいだけなのだ」

 ふん、と彼は鼻を鳴らした。

「一年の時は私がその標的だった。今度はルインハイトが本物の生まれ変わりではないという話になった途端この手の平返しだ。有象無象の奴らは本質など何も見ちゃいない……ルインハイトほど人間のできた男は早々いないというのに」

 マルステンは僕のために本気で憤慨してくれている。
 僕はそれだけで嬉しかった。

「そうだルインハイト、現状をシュペルフォエル先生に訴えた方がいい」
「え?」
「聖女騒ぎのせいで一人の学生の勉学が阻害されようとしているのだ、あのエルフの賢者様は教師としてそれに対処する責務があるはずだ!」

 彼は鼻の穴を膨らませて主張する。
 だが僕にはそれが良い案とは思えなかった。

「やめておくよ。エルネスト先生に頼ったらますます酷くなるかもしれないから」

 口にしたのは理由の一つではあったが、それよりも大きな理由があった。
 学生たちの噂を、この現状をエルネスト先生に知られたくなかったのだ。

 ここで僕が困っていることを知ったら、エルネスト先生はますますシャルルくんのことを見ようとしなくなるだろう。僕を助けようとして彼のことなど視界に入らなくなるはずだ。
 それにかつてマルステンを追放するために「でっち上げをしよう」と言い出した彼のことだ。この事態を知れば学生たちにどんな報復をしようとすることか……。
 どう考えても穏当に終わるとは思えなかった。

 いっそのこと僕がこのまま消えるようにいなくなることが出来ればすべて丸く収まるのに。

「おい、ルインハイト」
「な、なに?」

 マルステンが急に真剣な顔になって僕を真っ直ぐに見据えた。

「馬鹿なことを考えるなよ」
「馬鹿なことって?」
「それはその、つまり……自分一人が犠牲になろうとかそういう考えのことだ! いいか、絶対に駄目だからな!」

 一瞬頭を過った考えを見抜かれたようで、どきりとした。

「君一人が犠牲になるなど間違っている、だからそのようなことは絶対にしてくれるなよ」
「……分かった、ありがとう心配してくれて」
「ふんっ」

 マルステンは気恥ずかしいのか、そっぽを向いてしまった。
 ほのかに紅く染まっている頬が愛らしい。
 あまりにも可愛らしいので、もしマルステンの方が本当に弟だったら彼の頭をいい子いい子と撫でてしまっていたかもしれない。

「本当にありがとう。絶対に自分を犠牲にしたりとかそんな悲しいことは考えないから」
「ならいいのだがな」

 マルステンのおかげで気分が少し軽くなった気がする。
 シャルルくんとの待ち合わせに指定された中庭に僕は向かったのだった。
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。 ⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

処理中です...