嫌われ忌み子は聖女の生まれ変わりでした

野良猫のらん

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第六十一話

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 ある日、シャルルくんに中庭に呼び出された。
 何か大事な話があるらしい。
 ついにシャルルくんまで僕を責める気になったのだろうか、と気が重かった。

「大丈夫かルインハイト。私も一緒についていこうか」

 気安く僕を呼び捨てにするのはマルステンだ。
 彼は今では数少ない僕の味方だった。
 図書室の片隅で僕らは会話を交わしていた。

「ううん、大丈夫。シャルルくんは優しいと思うから」
「だが友人だと思っていた相手からの言葉と、有象無象からの言葉は違うだろう」

 シャルルくんからの言葉はより深く胸に突き刺さるのではないか、と彼は心配してくれている。

「そもそもこの学院の学生どものために君が心を砕く必要はない。奴らは結局、誰かを標的にできればいいだけなのだ」

 ふん、と彼は鼻を鳴らした。

「一年の時は私がその標的だった。今度はルインハイトが本物の生まれ変わりではないという話になった途端この手の平返しだ。有象無象の奴らは本質など何も見ちゃいない……ルインハイトほど人間のできた男は早々いないというのに」

 マルステンは僕のために本気で憤慨してくれている。
 僕はそれだけで嬉しかった。

「そうだルインハイト、現状をシュペルフォエル先生に訴えた方がいい」
「え?」
「聖女騒ぎのせいで一人の学生の勉学が阻害されようとしているのだ、あのエルフの賢者様は教師としてそれに対処する責務があるはずだ!」

 彼は鼻の穴を膨らませて主張する。
 だが僕にはそれが良い案とは思えなかった。

「やめておくよ。エルネスト先生に頼ったらますます酷くなるかもしれないから」

 口にしたのは理由の一つではあったが、それよりも大きな理由があった。
 学生たちの噂を、この現状をエルネスト先生に知られたくなかったのだ。

 ここで僕が困っていることを知ったら、エルネスト先生はますますシャルルくんのことを見ようとしなくなるだろう。僕を助けようとして彼のことなど視界に入らなくなるはずだ。
 それにかつてマルステンを追放するために「でっち上げをしよう」と言い出した彼のことだ。この事態を知れば学生たちにどんな報復をしようとすることか……。
 どう考えても穏当に終わるとは思えなかった。

 いっそのこと僕がこのまま消えるようにいなくなることが出来ればすべて丸く収まるのに。

「おい、ルインハイト」
「な、なに?」

 マルステンが急に真剣な顔になって僕を真っ直ぐに見据えた。

「馬鹿なことを考えるなよ」
「馬鹿なことって?」
「それはその、つまり……自分一人が犠牲になろうとかそういう考えのことだ! いいか、絶対に駄目だからな!」

 一瞬頭を過った考えを見抜かれたようで、どきりとした。

「君一人が犠牲になるなど間違っている、だからそのようなことは絶対にしてくれるなよ」
「……分かった、ありがとう心配してくれて」
「ふんっ」

 マルステンは気恥ずかしいのか、そっぽを向いてしまった。
 ほのかに紅く染まっている頬が愛らしい。
 あまりにも可愛らしいので、もしマルステンの方が本当に弟だったら彼の頭をいい子いい子と撫でてしまっていたかもしれない。

「本当にありがとう。絶対に自分を犠牲にしたりとかそんな悲しいことは考えないから」
「ならいいのだがな」

 マルステンのおかげで気分が少し軽くなった気がする。
 シャルルくんとの待ち合わせに指定された中庭に僕は向かったのだった。
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