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第五十八話
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「ルインハイトくん、君は補講だ」
エルネスト先生担当の医療魔術Iの講義を受け終わった後のことだった。
授業中からずっと彼の視線が突き刺さるほどに鋭く感じていたので、講義が終わったらすぐに退散しようと思っていたのに。
講義が終わった途端にニッコリとした笑みで声をかけられてしまったのだった。
(この賢者様、大人気ない……!)
僕と話をする機会を得るために教師としての権力をフル活用である。
当然僕は補講を受けるような成績ではない。
というかそもそも学期が始まったばかりだ。補講なんてある時期ではない。
それでも周囲は「今日の賢者様と聖女様は補講プレイか」とでも言わんばかりに当たり前の顔して受け入れているようだった。
「私の部屋へ来なさい、少し話をしようか」
表情の読めないニコリとした笑顔のエルネスト先生に連行されることとなってしまった。
「ルインハイトくん」
「はい……」
彼の私室まで連れて来られてしまった。
一緒に来ていたエトワールは当たり前の顔をしてバスケットの中に横になった。昨日の感傷は一体何だったのだろう。
「何故急に私と会ってくれなくなったのか、ワケを聞かせてくれるね?」
圧力を感じる笑みで彼は尋ねてくる。
ワケなんてそんな、もう会う理由がないというだけのことなのに。
「先生はシャルルくんの父君がしたという予言の話を聞かなかったんですか?」
もしかしたら何か手違いがあってシャルルくんはエルネスト先生と話ができなかったのかもしれない、と思った。
「聞いたとも。ブルダリアス家の嫡男が聖女の生まれ変わりだという予言の話か」
だが、こともなげに彼は肯定した。
「なら、なんで……!?」
「まさかそんなことを気にしていたのか? 君は繊細だな」
彼はいつも通りの微笑を僕に向ける。
「何を言われようと私の聖女は君だ」
「あ、え……?」
何と言われたのか分からなかった。
彼は一体何を主張しているのか?
「間違いなく君こそが聖女の生まれ変わりなんだ。君もそう自覚してくれていると思っていたのだが」
まさかこの期に及んで誤認しているとは。
闇属性の僕と光属性のシャルルくん、どちらが本物かちょっと考えれば分かるだろう。シャルルくんの方は伝承通り金髪でもあるのだし。
「でも、そしたら予言はどうなるんですか?」
「占術は多種多様な解釈できるものだ。ブルダリアス家の当主は恐らく占いの結果の解釈を間違ったのだろう」
そんな都合のいい話があるものか。
何故こんなにも彼は頭の中がお花畑なのだろう。
「それにな、昔から人間は……いや、なんでもない」
「なんですか? 気になります」
「すまない、これは君に聞かせる話ではなかった」
彼は頑なに言いかけた話を聞かせてくれようとはしなかった。
「ともかく、それで君は自分が生まれ変わりではないかもしれないと気を病んでいたのか。心配する必要はない、これまで通り行き返りに送っていってあげてもいいだろう?」
「……嫌です」
「ルインハイトくん?」
「もう僕に構わないで下さい!」
彼の勘違いが継続していようと何だろうと、本物が他にいると知っていながら彼と付き合い続ける図太さは僕にはない。
彼と関わり合うだけ「やっぱり君じゃない」と言われることになる瞬間の痛みが大きくなるだけだ。
「もう僕たちは、ただの教師と学生なんです。それを分かって下さい!」
ガタリと立ち上がると、バスケットの中で寝ていたエトワールは寝ぼけ眼で目を覚ます。
「ルインハイトくん!」
乱暴に部屋から立ち去る僕の後を、エトワールが慌てて追いかけた。
エルネスト先生も追いかけて来ようとしたが、その前に鼻先でピシャリと扉を閉めた。
エルネスト先生担当の医療魔術Iの講義を受け終わった後のことだった。
授業中からずっと彼の視線が突き刺さるほどに鋭く感じていたので、講義が終わったらすぐに退散しようと思っていたのに。
講義が終わった途端にニッコリとした笑みで声をかけられてしまったのだった。
(この賢者様、大人気ない……!)
僕と話をする機会を得るために教師としての権力をフル活用である。
当然僕は補講を受けるような成績ではない。
というかそもそも学期が始まったばかりだ。補講なんてある時期ではない。
それでも周囲は「今日の賢者様と聖女様は補講プレイか」とでも言わんばかりに当たり前の顔して受け入れているようだった。
「私の部屋へ来なさい、少し話をしようか」
表情の読めないニコリとした笑顔のエルネスト先生に連行されることとなってしまった。
「ルインハイトくん」
「はい……」
彼の私室まで連れて来られてしまった。
一緒に来ていたエトワールは当たり前の顔をしてバスケットの中に横になった。昨日の感傷は一体何だったのだろう。
「何故急に私と会ってくれなくなったのか、ワケを聞かせてくれるね?」
圧力を感じる笑みで彼は尋ねてくる。
ワケなんてそんな、もう会う理由がないというだけのことなのに。
「先生はシャルルくんの父君がしたという予言の話を聞かなかったんですか?」
もしかしたら何か手違いがあってシャルルくんはエルネスト先生と話ができなかったのかもしれない、と思った。
「聞いたとも。ブルダリアス家の嫡男が聖女の生まれ変わりだという予言の話か」
だが、こともなげに彼は肯定した。
「なら、なんで……!?」
「まさかそんなことを気にしていたのか? 君は繊細だな」
彼はいつも通りの微笑を僕に向ける。
「何を言われようと私の聖女は君だ」
「あ、え……?」
何と言われたのか分からなかった。
彼は一体何を主張しているのか?
「間違いなく君こそが聖女の生まれ変わりなんだ。君もそう自覚してくれていると思っていたのだが」
まさかこの期に及んで誤認しているとは。
闇属性の僕と光属性のシャルルくん、どちらが本物かちょっと考えれば分かるだろう。シャルルくんの方は伝承通り金髪でもあるのだし。
「でも、そしたら予言はどうなるんですか?」
「占術は多種多様な解釈できるものだ。ブルダリアス家の当主は恐らく占いの結果の解釈を間違ったのだろう」
そんな都合のいい話があるものか。
何故こんなにも彼は頭の中がお花畑なのだろう。
「それにな、昔から人間は……いや、なんでもない」
「なんですか? 気になります」
「すまない、これは君に聞かせる話ではなかった」
彼は頑なに言いかけた話を聞かせてくれようとはしなかった。
「ともかく、それで君は自分が生まれ変わりではないかもしれないと気を病んでいたのか。心配する必要はない、これまで通り行き返りに送っていってあげてもいいだろう?」
「……嫌です」
「ルインハイトくん?」
「もう僕に構わないで下さい!」
彼の勘違いが継続していようと何だろうと、本物が他にいると知っていながら彼と付き合い続ける図太さは僕にはない。
彼と関わり合うだけ「やっぱり君じゃない」と言われることになる瞬間の痛みが大きくなるだけだ。
「もう僕たちは、ただの教師と学生なんです。それを分かって下さい!」
ガタリと立ち上がると、バスケットの中で寝ていたエトワールは寝ぼけ眼で目を覚ます。
「ルインハイトくん!」
乱暴に部屋から立ち去る僕の後を、エトワールが慌てて追いかけた。
エルネスト先生も追いかけて来ようとしたが、その前に鼻先でピシャリと扉を閉めた。
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