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第五十七話
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本物の聖女様が判明したというのに、エルネスト先生に送り迎えしてもらうなんて厚かましいことはできない。
だって彼が僕に過保護にしていたのは、僕のことを聖女様の生まれ変わりだと誤認していたからなんだから。
今頃は彼も真実をシャルルくんから聞いているところかもしれない。
そう考えながら合鍵を使って彼の私室に入った。この合鍵を使うのはこれが最初で最後になるだろう。
『一人で帰ります。明日からの送り迎えもいりません』
目立つようにテーブルの上に書き置きを残す。
ふと、テーブル近くに設置されているバスケットが目につく。
エトワールのために彼が用意してくれたものだ。
バスケットの中の毛布にエトワールの黒い毛が付いている。このバスケットが必要とされることももうないだろう。
エトワールには馬車を寄こしてほしいという報せを送るために家に走らせている。エトワールの首輪に結び付けておいた手紙をツォカティスが読んだら、馬車を手配してくれるだろう。
誘拐事件の時に行方不明になっていたいつもの御者さんは、事件の後神殿近くの路地裏に縛られて転がされているのを無事発見された。怖い目に遭ったにもかかわらず、もう仕事に復帰してくれている。
僕はいつもの御者さんが駆る馬車が来るのを待って、家に帰った。
お父さんと一緒に食事を摂る気力もなくて、具合が悪いから夕食は部屋に届けてくれとツォカティスに頼んで僕は部屋に引き篭もった。
何もかもすべて忘れるために没頭したい、と僕は寝台に分厚い本を持ち込んだ。古代語の辞書だ、僕が持っている本の中で一番分厚いものだ。
しばらくの間はあまり根を詰めて勉強をしないようにとお父さんに注意されたのを無視するつもりで、パラリを表紙を開いた。
「ルインハイト様!」
その時、慌てた様子のノック音が聞こえた。
ツォカティスの声だ、どうしたのだろう。
僕は気怠さを振り払って寝台から身を起こし、ドアを開けた。
「ルインハイト様、シュペルフォエル様がいらっしゃってルインハイト様に会わせて欲しいと仰っています! いかがいたしましょうか?」
「え?」
シュペルフォエルというのはエルネスト先生の姓だ。
つまり、ここにエルネスト先生が訪ねてきたということだ。
一体、何故?
エルネスト先生はシャルルくんから真実を聞き出したはずだ。
僕が聖女の生まれ変わりなどではないと理解したはずだ。
なのに今さら何の用があるというのか。
ああ、そうか。
さては文句を言いにきたに違いない。
よくも騙してくれたなと。
僕は何だか腹が立ってきた。
そっちが勝手に僕のことを生まれ変わりだなんだと言い出した癖に。
本物の聖女様の生まれ変わりが見つかった途端に、僕のせいにするのかと。
そんな文句に付き合ってやる謂われはない。
「会いたくない。引き払ってもらって」
「……かしこまりました」
何かあったようだとツォカティスも察しているようだが、何も言わずに従ってくれた。無事彼を帰らせることに成功したようだ。
そうして僕はすべてを忘れて読書に没頭した。
翌日。
黄色いローブをまとって登校の支度をしていると、またもやツォカティスがやってきてこう言った。
「ルインハイト様、シュペルフォエル様がいらっしゃってますがいかがいたしますか」
送り迎えはしなくていいと言ったのに。
彼はどうしても僕に会って文句を言わなくては気が済まないらしい。
「帰ってもらって」
「……かしこまりました」
ツォカティスは何か言いたそうにしていたが、大人しく従ってくれた。
ツォカティスに帰るように言われたエルネスト先生は素直に帰ってくれたらしい。
学院内でもすれ違ったりしないといいなと、気が重くなりながら僕は登校した。
だって彼が僕に過保護にしていたのは、僕のことを聖女様の生まれ変わりだと誤認していたからなんだから。
今頃は彼も真実をシャルルくんから聞いているところかもしれない。
そう考えながら合鍵を使って彼の私室に入った。この合鍵を使うのはこれが最初で最後になるだろう。
『一人で帰ります。明日からの送り迎えもいりません』
目立つようにテーブルの上に書き置きを残す。
ふと、テーブル近くに設置されているバスケットが目につく。
エトワールのために彼が用意してくれたものだ。
バスケットの中の毛布にエトワールの黒い毛が付いている。このバスケットが必要とされることももうないだろう。
エトワールには馬車を寄こしてほしいという報せを送るために家に走らせている。エトワールの首輪に結び付けておいた手紙をツォカティスが読んだら、馬車を手配してくれるだろう。
誘拐事件の時に行方不明になっていたいつもの御者さんは、事件の後神殿近くの路地裏に縛られて転がされているのを無事発見された。怖い目に遭ったにもかかわらず、もう仕事に復帰してくれている。
僕はいつもの御者さんが駆る馬車が来るのを待って、家に帰った。
お父さんと一緒に食事を摂る気力もなくて、具合が悪いから夕食は部屋に届けてくれとツォカティスに頼んで僕は部屋に引き篭もった。
何もかもすべて忘れるために没頭したい、と僕は寝台に分厚い本を持ち込んだ。古代語の辞書だ、僕が持っている本の中で一番分厚いものだ。
しばらくの間はあまり根を詰めて勉強をしないようにとお父さんに注意されたのを無視するつもりで、パラリを表紙を開いた。
「ルインハイト様!」
その時、慌てた様子のノック音が聞こえた。
ツォカティスの声だ、どうしたのだろう。
僕は気怠さを振り払って寝台から身を起こし、ドアを開けた。
「ルインハイト様、シュペルフォエル様がいらっしゃってルインハイト様に会わせて欲しいと仰っています! いかがいたしましょうか?」
「え?」
シュペルフォエルというのはエルネスト先生の姓だ。
つまり、ここにエルネスト先生が訪ねてきたということだ。
一体、何故?
エルネスト先生はシャルルくんから真実を聞き出したはずだ。
僕が聖女の生まれ変わりなどではないと理解したはずだ。
なのに今さら何の用があるというのか。
ああ、そうか。
さては文句を言いにきたに違いない。
よくも騙してくれたなと。
僕は何だか腹が立ってきた。
そっちが勝手に僕のことを生まれ変わりだなんだと言い出した癖に。
本物の聖女様の生まれ変わりが見つかった途端に、僕のせいにするのかと。
そんな文句に付き合ってやる謂われはない。
「会いたくない。引き払ってもらって」
「……かしこまりました」
何かあったようだとツォカティスも察しているようだが、何も言わずに従ってくれた。無事彼を帰らせることに成功したようだ。
そうして僕はすべてを忘れて読書に没頭した。
翌日。
黄色いローブをまとって登校の支度をしていると、またもやツォカティスがやってきてこう言った。
「ルインハイト様、シュペルフォエル様がいらっしゃってますがいかがいたしますか」
送り迎えはしなくていいと言ったのに。
彼はどうしても僕に会って文句を言わなくては気が済まないらしい。
「帰ってもらって」
「……かしこまりました」
ツォカティスは何か言いたそうにしていたが、大人しく従ってくれた。
ツォカティスに帰るように言われたエルネスト先生は素直に帰ってくれたらしい。
学院内でもすれ違ったりしないといいなと、気が重くなりながら僕は登校した。
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