57 / 71
第五十六話
しおりを挟む
「あ……ルインハイトくん」
属性学IIIの教室に行くと、シャルルくんが浮かない顔をしていた。
「講義の後、時間ある? ルインハイトくんに相談があって」
おや、優等生のシャルルくんが僕に相談とは一体なんだろう。
何にせよ僕はもちろん彼の相談に乗ってあげるつもりだった。
周囲が僕を聖女の生まれ変わりだと囃し立て崇拝する中、シャルルくんだけは等身大で接してくれたのだから。
そのシャルルくんのためならば相談の一つや二つくらいもちろん乗ってあげるに決まっている。
「大丈夫だよ」
「じゃあ、講義の後ね」
彼の相談とは一体どんな内容だろう。
気になりながらも僕は授業に集中した。
授業後、僕たちは中庭に移動した。
この時間帯は中庭には人気が少なく、内緒話をするにはぴったりなのだ。
僕らは中庭のベンチに並んで腰かけた。
「ルインハイトくんは自分が聖女の生まれ変わりじゃないと思っているのに、先生が勘違いしていて困るって以前言っていたよね」
「うん」
シャルルくんは確かめるように口を開いた。
この二年間でシャルルくんにそんな相談をしたこともあったな、と思い出す。
「話は変わるけど。ボクの父は占術学の講師をしているんだけど、言ったことあったっけ」
「聞いたような気がするよ」
直接シャルルくんから聞いたことがあったかは定かではないが、知っていることだった。占術学は気になっているがまだ受けたことはなく、彼の父親との直接の面識はなかった。
「それでね、父は凄腕の占星術師で、時折重要な予言をすることがあるんだ」
「うん、それで?」
よほど深刻なことなのか、彼は言いにくそうにしている。
頷いて彼の話の続きを促す。
「ついこの間、父に呼び出されて僕に関係のある占いの結果が出たって」
「どんな内容だったの?」
尋ねると、シャルルくんは僕の顔色を窺うようにちらりとこちらを見る。
それから深呼吸して、意を決したように口を開いた。
「父の占いによれば、ボクが本物の聖女の生まれ変わりらしいんだ」
「……え?」
いつかこんな日が来ることは分かっていたはずだ。
だが彼の告げた事実は深々と僕の胸を突き刺した。
「それって……」
「エルフの賢者様は聖女の生まれ変わりを誤認しているって言うんだ父は。永い時の中で生まれ変わりを感じ取る力が弱まってるんだって。でもボク、いきなりこんなこと言われてもどう考えればいいか分からなくって……」
シャルルくんは本気で思い悩んでいるようだった。
「シャルルくんは……エルネスト先生のこと、どう思ってるの?」
喉から出る自分の声がまるで他人の声のように感じられた。
「そりゃ、エルフの賢者様に愛されるなんて光栄なことだとは思う。けど、ボクは先生とルインハイトくんが愛し合ってることを知ってるんだ! 二人の仲を邪魔するなんて、できないよ……」
シャルルくんは本気で気に病んでいるようだった。
しかし、彼の話が本当ならば二人の仲を引き裂いてしまっているのは僕の方だ。ここで引き下がらなければ僕は本当に悪役になってしまう。
「……僕の事は気にしないで」
ぽつり、やっとの思いで言った。
「とにかく一度、エルネスト先生と話をしてみるのがいいんじゃないかな。話をしてみたら、向こうも……シャルルくんが本物の聖女様の生まれ変わりだって分かってくれるかも」
「い、いいの?」
「うん、いいんだ。それが正しいと思うから」
絶対に涙を零さぬように、気を張りながら頷く。
薄々自分が本物じゃないと分かっていたのにもかかわらず、彼との時間を求め続けた僕には涙を流す資格などないから。
「ありがとう、ルインハイトくんに相談して良かった。ルインハイトくんは優しいね」
「うん……」
「ボク、早速シュペルフォエル先生のところに行ってみるよ」
僕なんかよりもずっと聖女様の生まれ変わりに相応しい眩しい笑顔を浮かべて、彼は中庭を走り去っていった。
その背中が酷く羨ましかった。
属性学IIIの教室に行くと、シャルルくんが浮かない顔をしていた。
「講義の後、時間ある? ルインハイトくんに相談があって」
おや、優等生のシャルルくんが僕に相談とは一体なんだろう。
何にせよ僕はもちろん彼の相談に乗ってあげるつもりだった。
周囲が僕を聖女の生まれ変わりだと囃し立て崇拝する中、シャルルくんだけは等身大で接してくれたのだから。
そのシャルルくんのためならば相談の一つや二つくらいもちろん乗ってあげるに決まっている。
「大丈夫だよ」
「じゃあ、講義の後ね」
彼の相談とは一体どんな内容だろう。
気になりながらも僕は授業に集中した。
授業後、僕たちは中庭に移動した。
この時間帯は中庭には人気が少なく、内緒話をするにはぴったりなのだ。
僕らは中庭のベンチに並んで腰かけた。
「ルインハイトくんは自分が聖女の生まれ変わりじゃないと思っているのに、先生が勘違いしていて困るって以前言っていたよね」
「うん」
シャルルくんは確かめるように口を開いた。
この二年間でシャルルくんにそんな相談をしたこともあったな、と思い出す。
「話は変わるけど。ボクの父は占術学の講師をしているんだけど、言ったことあったっけ」
「聞いたような気がするよ」
直接シャルルくんから聞いたことがあったかは定かではないが、知っていることだった。占術学は気になっているがまだ受けたことはなく、彼の父親との直接の面識はなかった。
「それでね、父は凄腕の占星術師で、時折重要な予言をすることがあるんだ」
「うん、それで?」
よほど深刻なことなのか、彼は言いにくそうにしている。
頷いて彼の話の続きを促す。
「ついこの間、父に呼び出されて僕に関係のある占いの結果が出たって」
「どんな内容だったの?」
尋ねると、シャルルくんは僕の顔色を窺うようにちらりとこちらを見る。
それから深呼吸して、意を決したように口を開いた。
「父の占いによれば、ボクが本物の聖女の生まれ変わりらしいんだ」
「……え?」
いつかこんな日が来ることは分かっていたはずだ。
だが彼の告げた事実は深々と僕の胸を突き刺した。
「それって……」
「エルフの賢者様は聖女の生まれ変わりを誤認しているって言うんだ父は。永い時の中で生まれ変わりを感じ取る力が弱まってるんだって。でもボク、いきなりこんなこと言われてもどう考えればいいか分からなくって……」
シャルルくんは本気で思い悩んでいるようだった。
「シャルルくんは……エルネスト先生のこと、どう思ってるの?」
喉から出る自分の声がまるで他人の声のように感じられた。
「そりゃ、エルフの賢者様に愛されるなんて光栄なことだとは思う。けど、ボクは先生とルインハイトくんが愛し合ってることを知ってるんだ! 二人の仲を邪魔するなんて、できないよ……」
シャルルくんは本気で気に病んでいるようだった。
しかし、彼の話が本当ならば二人の仲を引き裂いてしまっているのは僕の方だ。ここで引き下がらなければ僕は本当に悪役になってしまう。
「……僕の事は気にしないで」
ぽつり、やっとの思いで言った。
「とにかく一度、エルネスト先生と話をしてみるのがいいんじゃないかな。話をしてみたら、向こうも……シャルルくんが本物の聖女様の生まれ変わりだって分かってくれるかも」
「い、いいの?」
「うん、いいんだ。それが正しいと思うから」
絶対に涙を零さぬように、気を張りながら頷く。
薄々自分が本物じゃないと分かっていたのにもかかわらず、彼との時間を求め続けた僕には涙を流す資格などないから。
「ありがとう、ルインハイトくんに相談して良かった。ルインハイトくんは優しいね」
「うん……」
「ボク、早速シュペルフォエル先生のところに行ってみるよ」
僕なんかよりもずっと聖女様の生まれ変わりに相応しい眩しい笑顔を浮かべて、彼は中庭を走り去っていった。
その背中が酷く羨ましかった。
67
お気に入りに追加
2,307
あなたにおすすめの小説
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。
悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。
逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位
2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位
2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位
2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位
2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位
2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位
2024/08/14……連載開始
ゲーム世界の貴族A(=俺)
猫宮乾
BL
妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。
キスから始まる主従契約
毒島らいおん
BL
異世界に召喚された挙げ句に、間違いだったと言われて見捨てられた葵。そんな葵を助けてくれたのは、美貌の公爵ローレルだった。
ローレルの優しげな雰囲気に葵は惹かれる。しかも向こうからキスをしてきて葵は有頂天になるが、それは魔法で主従契約を結ぶためだった。
しかも週に1回キスをしないと死んでしまう、とんでもないもので――。
◯
それでもなんとか彼に好かれようとがんばる葵と、実は腹黒いうえに秘密を抱えているローレルが、過去やら危機やらを乗り越えて、最後には最高の伴侶なるお話。
(全48話・毎日12時に更新)
虐げられても最強な僕。白い結婚ですが、将軍閣下に溺愛されているようです。
竜鳴躍
BL
白い結婚の訳アリ将軍×訳アリ一見清楚可憐令息(嫁)。
万物には精霊が宿ると信じられ、良き魔女と悪しき魔女が存在する世界。
女神に愛されし"精霊の愛し子”青年ティア=シャワーズは、長く艶やかな夜の帳のような髪と無数の星屑が浮かんだ夜空のような深い青の瞳を持つ、美しく、性格もおとなしく控えめな男の子。
軍閥の家門であるシャワーズ侯爵家の次男に産まれた彼は、「正妻」を罠にかけ自分がその座に収まろうとした「愛妾」が生んだ息子だった。
「愛妾」とはいっても慎ましやかに母子ともに市井で生活していたが、母の死により幼少に侯爵家に引き取られた経緯がある。
そして、家族どころか使用人にさえも疎まれて育ったティアは、成人したその日に、着の身着のまま平民出身で成り上がりの将軍閣下の嫁に出された。
男同士の婚姻では子は為せない。
将軍がこれ以上力を持てないようにの王家の思惑だった。
かくしてエドワルド=ドロップ将軍夫人となったティア=ドロップ。
彼は、実は、決しておとなしくて控えめな淑男ではない。
口を開けば某術や戦略が流れ出し、固有魔法である創成魔法を駆使した流れるような剣技は、麗しき剣の舞姫のよう。
それは、侯爵の「正妻」の家系に代々受け継がれる一子相伝の戦闘術。
「ティア、君は一体…。」
「その言葉、旦那様にもお返ししますよ。エドワード=フィリップ=フォックス殿下。」
それは、魔女に人生を狂わせられた夫夫の話。
※誤字、誤入力報告ありがとうございます!
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
銀の森の蛇神と今宵も眠れぬ眠り姫
哀木ストリーム
BL
小さな国に、ある日降りかかった厄災。
誰もが悪夢に包まれると諦めた矢先、年若い魔法使いがその身を犠牲にして、国を守った。
彼は、死に直面する大きな魔法を使った瞬間に、神の使いである白蛇に守られ二十年もの間、深い眠りに付く。
そして二十年が過ぎ、目を覚ますと王子は自分より年上になっていて、隣国の王女と婚約していた。恋人さえ結婚している。
そんな彼を大人になった王子は押し倒す。
「俺に女の抱き方教えてよ」
抗うことも、受け止めることもできない。
それでも、守ると決めた王子だから。
今宵も私は、王子に身体を差し出す。
満月が落ちてきそうな夜、淡い光で照らされた、細くしなやかで美しいその身体に、ねっとりと捲きつくと、蛇は言う。
『あの時の様な厄災がまた来る。その身を捧げたならば、この国を、――王子を助けてやろう』
ユグラ国第一王子 アレイスター=フラメル(愛称:サフォー)(28) × 見習い魔術師 シアン = ハルネス(22)
侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます
muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。
仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。
成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。
何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。
汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる