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第五十二話
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今日は遂にルインハイトくんの成人する日だ。
今晩は彼を家に招待して夕食を共にすることになっている。
夜はナイトティーでも嗜みながら語らい合い……そして彼に様々なことを教えてあげるのだ。
ピュアな彼が頬を赤らめる様子はきっととても愛らしいことだろう。
彼の期待に応えてあげられる瞬間が楽しみで仕方がなかった。
私は彼のことを考えて思わず口元が緩むのを感じながら、自宅で読書をしているところだった。
「エルネスト様」
家の執事を務めている男がやってきて声をかけてくる。
「つい先ほど誰かの使い魔と見られる黒猫がやって来たのですが、書簡も何も携えていないのです。いかがいたしましょうか?」
使い魔に連絡をさせる場合には手紙を持たせるのが普通だ。
そうでなければ言葉が通じないのだから。
「黒猫……?」
黒猫と聞いて、ルインハイトくんの使い魔エトワールを連想した。
だがエトワールがここに来るはずはない。
彼の主であるルインハイトくんは今頃王城の祝賀会に出席しているはずなのだから。
「とりあえずその黒猫とやらをここに通してくれ」
「かしこまりました」
執事は礼をして下がる。
それから少しして執事の「うわっ」という声が聞こえてきたかと思うと、部屋に一陣の黒い風が吹きこんできた。
「ナオーッ!」
黒い風の正体は猫だった。
猫の首には流れ星の刺繍がされた首輪がはまっている。
それこそはルインハイトくんがエトワールのためにオーダーメイドした首輪だった。
「エトワールじゃないか、どうしたんだ!?」
「ナオー、ナオーッ!」
エトワールの鳴き声には切実な響きが含まれている。
主でない私には彼が何を考えているかは分からないが、ルインハイトくんの身に緊急事態が起きていることだけは理解できた。
「エトワール、ルインハイトくんの元へと連れて行ってくれ!」
それからエトワールはひた走った。
走って走って走った。
この小さな身体のどこにそんな体力があるのかと思うほど、ずっと全速力のままひた走った。
私は風の魔術で脚を強化して彼の後を追った。
不意に、エトワールは立ち止まった。
まるで行方を見失ってしまったかのように。
「どうしたんだエトワール。ルインハイトくんはどこにいるんだ?」
その時、私の視線は路肩に止められたそれに留まった。
王家の薔薇の紋章が印された馬車が止まっている。
それも御者もなく。
「ルインハイトくん……?」
私は慎重に馬車に近づき、ばっと扉を開けた。
馬車の中には誰もいなかった。
そうして私はやっと事態を理解した。
「そうか、エトワール! ルインハイトくんはここで拉致されたのだな?」
「ニャーッ!」
そうだとばかりにエトワールは勢いよく返事した。
「そうか、それなら探知できないほどルインハイトくんは遠くにいるんだな?」
「にゃお……」
本来ならば使い魔とその主人は互いの位置を察知することができる。
だがそれにも距離の限界はある。
あまりにも離れすぎると分からなくなってしまうのだ。
「案ずるな。少しじっとしててくれ」
私はその場に屈み込むと、エトワールの額にそっと触れる。
「Ê forœ, ê vity」
エトワールの身体が微かな光に包まれる。
「これで魔力と脚力が強化された。探知できる距離が伸びたはずだ。ルインハイトくんがどこにいるか分かるか?」
エトワールは少しの間クンクンと空気の匂いを嗅いでいたかと思うと、迷いなく走り始めた。
私はその後を追う。
ルインハイトを拉致した者がどこの誰かは分からぬが、必ず後悔させてやる。
今晩は彼を家に招待して夕食を共にすることになっている。
夜はナイトティーでも嗜みながら語らい合い……そして彼に様々なことを教えてあげるのだ。
ピュアな彼が頬を赤らめる様子はきっととても愛らしいことだろう。
彼の期待に応えてあげられる瞬間が楽しみで仕方がなかった。
私は彼のことを考えて思わず口元が緩むのを感じながら、自宅で読書をしているところだった。
「エルネスト様」
家の執事を務めている男がやってきて声をかけてくる。
「つい先ほど誰かの使い魔と見られる黒猫がやって来たのですが、書簡も何も携えていないのです。いかがいたしましょうか?」
使い魔に連絡をさせる場合には手紙を持たせるのが普通だ。
そうでなければ言葉が通じないのだから。
「黒猫……?」
黒猫と聞いて、ルインハイトくんの使い魔エトワールを連想した。
だがエトワールがここに来るはずはない。
彼の主であるルインハイトくんは今頃王城の祝賀会に出席しているはずなのだから。
「とりあえずその黒猫とやらをここに通してくれ」
「かしこまりました」
執事は礼をして下がる。
それから少しして執事の「うわっ」という声が聞こえてきたかと思うと、部屋に一陣の黒い風が吹きこんできた。
「ナオーッ!」
黒い風の正体は猫だった。
猫の首には流れ星の刺繍がされた首輪がはまっている。
それこそはルインハイトくんがエトワールのためにオーダーメイドした首輪だった。
「エトワールじゃないか、どうしたんだ!?」
「ナオー、ナオーッ!」
エトワールの鳴き声には切実な響きが含まれている。
主でない私には彼が何を考えているかは分からないが、ルインハイトくんの身に緊急事態が起きていることだけは理解できた。
「エトワール、ルインハイトくんの元へと連れて行ってくれ!」
それからエトワールはひた走った。
走って走って走った。
この小さな身体のどこにそんな体力があるのかと思うほど、ずっと全速力のままひた走った。
私は風の魔術で脚を強化して彼の後を追った。
不意に、エトワールは立ち止まった。
まるで行方を見失ってしまったかのように。
「どうしたんだエトワール。ルインハイトくんはどこにいるんだ?」
その時、私の視線は路肩に止められたそれに留まった。
王家の薔薇の紋章が印された馬車が止まっている。
それも御者もなく。
「ルインハイトくん……?」
私は慎重に馬車に近づき、ばっと扉を開けた。
馬車の中には誰もいなかった。
そうして私はやっと事態を理解した。
「そうか、エトワール! ルインハイトくんはここで拉致されたのだな?」
「ニャーッ!」
そうだとばかりにエトワールは勢いよく返事した。
「そうか、それなら探知できないほどルインハイトくんは遠くにいるんだな?」
「にゃお……」
本来ならば使い魔とその主人は互いの位置を察知することができる。
だがそれにも距離の限界はある。
あまりにも離れすぎると分からなくなってしまうのだ。
「案ずるな。少しじっとしててくれ」
私はその場に屈み込むと、エトワールの額にそっと触れる。
「Ê forœ, ê vity」
エトワールの身体が微かな光に包まれる。
「これで魔力と脚力が強化された。探知できる距離が伸びたはずだ。ルインハイトくんがどこにいるか分かるか?」
エトワールは少しの間クンクンと空気の匂いを嗅いでいたかと思うと、迷いなく走り始めた。
私はその後を追う。
ルインハイトを拉致した者がどこの誰かは分からぬが、必ず後悔させてやる。
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