嫌われ忌み子は聖女の生まれ変わりでした

野良猫のらん

文字の大きさ
上 下
42 / 71

第四十一話

しおりを挟む
 週明けの授業初日。
 エルネスト先生はいつでも部屋に来るといいと言ってくれたが、僕だって授業があるし彼にも担当している授業はある。
 昼休みに食事のついでにするような話でもないし、いつ彼の担当している授業があるのかは何となく把握していたので僕の授業が終わった後で彼の空いてる時間に部屋を訪ねることにした。

「ルインハイトくん、おめでとう。満点だ」

 古代語の授業の時、満面の笑みのエルネスト先生から小テストを返してもらった。小テストの用紙には朱いインクでエルフにとって「とても良い」という意味の花を表した図柄、いわゆる『はなまる』が大きく描かれていた。

 おおー、と感嘆の声が周囲から上がる。
 愛の力かしら、なんて囁き声が聞こえるのが居心地悪い。

 最近では妬み嫉みの視線を感じることはほとんどと言っていいほどなく、僕がこうして注目を浴びると「やはり聖女様の生まれ変わりだから」と思考停止したような崇拝の的になることがほとんどだった。
 暇だからとはいえ、きちんと勉強した結果なんだけどね。

「ハッ」

 そんな中、突き刺すような敵意を感じた。
 振り向くと、後方の席に座っている男子学生が僕のことを睨んでいた。同じ一年生の証である赤色のローブを纏っている。
 特徴的なツリ目と栗色の髪色が相まってキツネっぽい印象の顔つきをした男の子だった。

「……」

 見覚えのない子だ。
 強いて言えば栗色の髪の毛がお父さんと似ていなくもない。
 知らない子から敵意を向けられる理由が分からず、不気味さを覚えた。

「おい、貴様」

 授業の後、問題のその子に声をかけられた。
 立ち振る舞いそのものは上品だが、彼が僕を睨む目付きには明らかな侮蔑が籠っていた。

「私は騙されぬからな」
「は、はあ……?」

 いきなりの言葉である。
 周りを憚るような囁き声だったが、意味が分からない。

「聖女の生まれ変わりを気取ってはいるが、私は騙されぬ。父上から聞いたのだ、貴様が街娼の子だとな」
「え……ッ!?」

 思わぬ不意打ちに胸がグサリと見えない刃で刺されたような気がした。
 一体、何故目の前の男子学生がそんなことを知っているのか。
 ドクンドクンと心臓が嫌な感じで打つ。

 その時、彼が耳に付けた銀のピアスが目に入った。
 王家の薔薇の紋章が刻印されている。
 ということは、この男子学生も王家の一員なんだ……。

 この子の言う「父上」が誰なのか何となく予想がついた。
 恐らくは僕のことを認知してくれなかった本当の父親だ。
 ということは目の前の彼は正妻との間に生まれた僕の異母兄弟なのだろう。王家の血を引いているなら、道理でお父さんやお祖父様とそっくりの栗色の髪をしているわけだ。

 僕は血縁上の兄弟との最悪の邂逅を果たした。

「フンッ」

 彼はそそくさと僕から離れていく。
 学生たちから半ば崇拝の対象になっている僕に因縁をつけたことがバレたら学生生活に支障が出るからだろう。

 どうしよう、あの子に噂を広められたら……。
 実はスラム街育ちの平民だったとバレて同級生らに手の平を返されることになるのだろうか。騙したなと罵られることになるのだろうか。
 今後のことを考えると鉛を呑み込んだような気分だった。

 このままにしておいたらいけないのは分かるけれど、何をどうすればいいのかまったく分からない。
 僕は上の空でエルネスト先生の部屋へとトボトボ向かったのだった。
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~

ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。 *マークはR回。(後半になります) ・ご都合主義のなーろっぱです。 ・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。 腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手) ・イラストは青城硝子先生です。

愛しの妻は黒の魔王!?

ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」 ――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。 皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。 身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。 魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。 表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます! 11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

処理中です...