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第三十八話
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「流石は我が聖女だ。治癒魔術の才があると思っていたぞ」
週末の太陽の日。
今日はなんとエルネスト先生の自宅に昼食に招かれていた。
遂に彼の家で二人きりなのだ。ぐっと距離が縮まった気がする。
彼の家では料理人を雇って美麗な料理を作らせているらしい。
使用人が舌だけでなく目まで楽しませてくれる色鮮やかなオードブルを運んできて給仕する。
賢者様は伊達男なだけでなく、美食家でもあるらしい。
食事の期待度もかなり高いが、彼の家に招かれているということ自体が僕にとっては幸福なことで、意識するだけで胸の中が無限に膨らんでいくような幸福感を覚えた。
「歴代の聖女様も治癒魔術が得意だったんですか?」
ゼラチンで固められた前菜をフォークで一刺しすると、ソースと絡めて口に運んだ。食欲を刺激する酸味が口の中に広がる。
「もちろんだとも。みな光属性魔力の持ち主だったのだからな」
「あっ」
考えてみれば当たり前のことであった。
光属性を持っていれば他の者よりも治癒魔術が得意なのは当然の摂理だ。
シャルルくんだって最初で治癒魔術を成功させたのだから。
恥ずかしく感じながら薄切りのハムが薔薇の花のように巻かれた前菜を口の中に入れた。柑橘系の酸味を感じる。
続いてポタージュスープとパンが運ばれてくる。
スプーンで掬って口の中に運ぶと、温かいスープの中にポテトの甘みを感じた。心が安らぐのを感じる。
「初めてであれほど見事に治癒魔術を成功させてみせたのだ、君はやはり光属性を持っているのではないか?」
いきなりの言葉に一体何を言っているのだろうと訝りながら僕はパンを割いて口に入れる。
パンを飲み込んでからゆっくりと口を開いた。
「魔力検査の結果を忘れたんですか? あれはどう説明を付けるんですか?」
「あれは……今のところは分からないな。この年になっても魔導の神秘は探求しきれない。まだ解明されてない何かが起きているのだろう」
要は現実から目を逸らして自分の都合のいいように捉えているということか。相変わらずのお花畑具合に心が冷えていくのを感じる。
「……そうだったらいいと願うのですけれど」
冷たい声で返事を返すが、彼は気づいた様子がない。
スープの皿が下げられて運ばれてきたメインディッシュに気を取られている。
「仔羊のステーキだ。君も成長盛りなのだからこれくらいはぺろりといけるだろう?」
略式のコース料理だ、もちろんお腹はまだまだ空いている。
エルネスト先生が頭お花畑なことなんて分かっていたことだ、細かい懊悩はご馳走を楽しむことで忘れ去ることにする。
骨付きのステーキの皿が付け合わせの野菜とソースによって美しく彩られている。
期待で口の中に唾液が溜まるのを感じながら、あくまでも穏やかな手つきで柔らかな肉にナイフを入れていく。
そういえば、お父さんの家に引き取られて執事のツォカティスから教育を受ける中で一番大変だったのは、食事の作法だった。
最初のうちは食べ物が目の前にあると、どうしてもがっついてしまっていたのだ。僕がまともに食事マナーを身に着けることができたのは、ゆっくり食べていてもご飯を取る人などいないと理解できてからだった。
懐かしく思いながら切り分けた肉片を優雅に口に運ぶ。
肉をゆっくり噛み締めると、肉汁がじわりと溢れ出てきた。
「美味しい……!」
僕の満面の笑みを見て、エルネスト先生もにこにことしていた。
完璧なもてなしができたと思っているようだ。
その後もう一度さりげなく愛称で呼んでもいいか頼んでみたけど、やはり断られてしまった。まったく、妙なところで固いのだから。
週末の太陽の日。
今日はなんとエルネスト先生の自宅に昼食に招かれていた。
遂に彼の家で二人きりなのだ。ぐっと距離が縮まった気がする。
彼の家では料理人を雇って美麗な料理を作らせているらしい。
使用人が舌だけでなく目まで楽しませてくれる色鮮やかなオードブルを運んできて給仕する。
賢者様は伊達男なだけでなく、美食家でもあるらしい。
食事の期待度もかなり高いが、彼の家に招かれているということ自体が僕にとっては幸福なことで、意識するだけで胸の中が無限に膨らんでいくような幸福感を覚えた。
「歴代の聖女様も治癒魔術が得意だったんですか?」
ゼラチンで固められた前菜をフォークで一刺しすると、ソースと絡めて口に運んだ。食欲を刺激する酸味が口の中に広がる。
「もちろんだとも。みな光属性魔力の持ち主だったのだからな」
「あっ」
考えてみれば当たり前のことであった。
光属性を持っていれば他の者よりも治癒魔術が得意なのは当然の摂理だ。
シャルルくんだって最初で治癒魔術を成功させたのだから。
恥ずかしく感じながら薄切りのハムが薔薇の花のように巻かれた前菜を口の中に入れた。柑橘系の酸味を感じる。
続いてポタージュスープとパンが運ばれてくる。
スプーンで掬って口の中に運ぶと、温かいスープの中にポテトの甘みを感じた。心が安らぐのを感じる。
「初めてであれほど見事に治癒魔術を成功させてみせたのだ、君はやはり光属性を持っているのではないか?」
いきなりの言葉に一体何を言っているのだろうと訝りながら僕はパンを割いて口に入れる。
パンを飲み込んでからゆっくりと口を開いた。
「魔力検査の結果を忘れたんですか? あれはどう説明を付けるんですか?」
「あれは……今のところは分からないな。この年になっても魔導の神秘は探求しきれない。まだ解明されてない何かが起きているのだろう」
要は現実から目を逸らして自分の都合のいいように捉えているということか。相変わらずのお花畑具合に心が冷えていくのを感じる。
「……そうだったらいいと願うのですけれど」
冷たい声で返事を返すが、彼は気づいた様子がない。
スープの皿が下げられて運ばれてきたメインディッシュに気を取られている。
「仔羊のステーキだ。君も成長盛りなのだからこれくらいはぺろりといけるだろう?」
略式のコース料理だ、もちろんお腹はまだまだ空いている。
エルネスト先生が頭お花畑なことなんて分かっていたことだ、細かい懊悩はご馳走を楽しむことで忘れ去ることにする。
骨付きのステーキの皿が付け合わせの野菜とソースによって美しく彩られている。
期待で口の中に唾液が溜まるのを感じながら、あくまでも穏やかな手つきで柔らかな肉にナイフを入れていく。
そういえば、お父さんの家に引き取られて執事のツォカティスから教育を受ける中で一番大変だったのは、食事の作法だった。
最初のうちは食べ物が目の前にあると、どうしてもがっついてしまっていたのだ。僕がまともに食事マナーを身に着けることができたのは、ゆっくり食べていてもご飯を取る人などいないと理解できてからだった。
懐かしく思いながら切り分けた肉片を優雅に口に運ぶ。
肉をゆっくり噛み締めると、肉汁がじわりと溢れ出てきた。
「美味しい……!」
僕の満面の笑みを見て、エルネスト先生もにこにことしていた。
完璧なもてなしができたと思っているようだ。
その後もう一度さりげなく愛称で呼んでもいいか頼んでみたけど、やはり断られてしまった。まったく、妙なところで固いのだから。
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