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第三十四話
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僕らが教室に着いてからほどなくして、エルネスト先生が姿を現した。
エルネスト先生は劇場のように半円のすり鉢状に学生らの机が並んだ大教室を見回し、僕と目が合うと意味ありげに片眉を上げて綻んだ。
僕らの視線が合ったのに気が付いた女子学生がはっと口元を押さえて悲鳴を抑えたりしている。
先生にはその積極性は二人きりの時に発揮して頂けないかなと切に願うものである。……彼が僕だけに微笑みかけてくれただけでちょっと嬉しくなってしまうのが悔しい。
「それでは時間だから、講義を始めようか」
大教室に彼の柔らかい声が響き渡った。
彼が予告した通り、初回の授業は座学のみだった。
カリカリとペンを走らせていると、面倒なことがすべて頭の中から消え去っていく。すべてを忘れて没頭できるこの瞬間が僕は好きだった。
「治癒魔術を使う者のことを治癒術士と呼ぶ。昔は神官が治癒術士になることが多かった。それというのも……」
彼は様々なことを語った。
例えば治癒魔術も万能ではない。自分自身の傷を治すことはできないのだとか。
治癒魔術を修めれば治癒術士になれるが、さらに専門的な知識も身に着けなければその上の医者にはなれないのだとか。諸々……。
あっという間に時間は過ぎ去った。
「次回は実技を行うので中庭に集合するように。忘れないでくれたまえよ」
講義の終わりにエルネスト先生が告知する。
ハッと手帳に中庭集合と書き込んだ。
授業の終わりを報せる鐘が鳴り響き、先生が大教室を後にする。僕は慌てて文具を鞄に仕舞い、彼の後を追いかけた。
「エルネスト先生!」
廊下で彼の背中に呼び掛けると、彼は振り返って足を止めてくれた。
「おや、ルインハイトくん」
僕に気づいた彼は嬉しそうに笑いかけてくれた。
「何かあったかね?」
「あの、お願いがあるんです。耳を貸して下さい」
彼が背を屈めてエルフ特有の尖った耳を近づけてくれる。
その耳にそっと囁いた。
「今週の太陽の日も迎えに来てくれませんか? 僕、先生とまた逢引きしたいです」
逢引きの途中でいい雰囲気になれば愛称で呼ぶことを許可してくれるのではないか。上手く行けばキスの一つくらいできるかもしれない。そんな目論見から出た誘いだった。
僕の囁きを聞いた彼は僕の肩に手を置き、咳払いを一つ。
「……ごほんっ、この前のは決して逢引きとかそういうアレではなく相談に乗っただけだが、君が望むのであればまたその何かの相談に乗ってあげるのは吝かではない」
彼の肌は褐色で分かりづらいが、心なしか赤く染まっているように見えた。喜んでいることが丸わかりだが、あくまでも教師と学生としての線引きを崩していないつもりのようだ。
「良かったです。僕、新しい服が欲しくて……お洒落な先生に相談に乗ってもらいたかったんです」
「そういうことならいくらでも見立ててあげよう」
お洒落だと言われたからだろうか、冷静を気取っているようで口角が上がっている。この賢者様、押しに弱いぞ……! いける!
こうして僕は休日のデートの約束を取り付けることに成功した。
ショッピングが今から楽しみで仕方なかった。
エルネスト先生は劇場のように半円のすり鉢状に学生らの机が並んだ大教室を見回し、僕と目が合うと意味ありげに片眉を上げて綻んだ。
僕らの視線が合ったのに気が付いた女子学生がはっと口元を押さえて悲鳴を抑えたりしている。
先生にはその積極性は二人きりの時に発揮して頂けないかなと切に願うものである。……彼が僕だけに微笑みかけてくれただけでちょっと嬉しくなってしまうのが悔しい。
「それでは時間だから、講義を始めようか」
大教室に彼の柔らかい声が響き渡った。
彼が予告した通り、初回の授業は座学のみだった。
カリカリとペンを走らせていると、面倒なことがすべて頭の中から消え去っていく。すべてを忘れて没頭できるこの瞬間が僕は好きだった。
「治癒魔術を使う者のことを治癒術士と呼ぶ。昔は神官が治癒術士になることが多かった。それというのも……」
彼は様々なことを語った。
例えば治癒魔術も万能ではない。自分自身の傷を治すことはできないのだとか。
治癒魔術を修めれば治癒術士になれるが、さらに専門的な知識も身に着けなければその上の医者にはなれないのだとか。諸々……。
あっという間に時間は過ぎ去った。
「次回は実技を行うので中庭に集合するように。忘れないでくれたまえよ」
講義の終わりにエルネスト先生が告知する。
ハッと手帳に中庭集合と書き込んだ。
授業の終わりを報せる鐘が鳴り響き、先生が大教室を後にする。僕は慌てて文具を鞄に仕舞い、彼の後を追いかけた。
「エルネスト先生!」
廊下で彼の背中に呼び掛けると、彼は振り返って足を止めてくれた。
「おや、ルインハイトくん」
僕に気づいた彼は嬉しそうに笑いかけてくれた。
「何かあったかね?」
「あの、お願いがあるんです。耳を貸して下さい」
彼が背を屈めてエルフ特有の尖った耳を近づけてくれる。
その耳にそっと囁いた。
「今週の太陽の日も迎えに来てくれませんか? 僕、先生とまた逢引きしたいです」
逢引きの途中でいい雰囲気になれば愛称で呼ぶことを許可してくれるのではないか。上手く行けばキスの一つくらいできるかもしれない。そんな目論見から出た誘いだった。
僕の囁きを聞いた彼は僕の肩に手を置き、咳払いを一つ。
「……ごほんっ、この前のは決して逢引きとかそういうアレではなく相談に乗っただけだが、君が望むのであればまたその何かの相談に乗ってあげるのは吝かではない」
彼の肌は褐色で分かりづらいが、心なしか赤く染まっているように見えた。喜んでいることが丸わかりだが、あくまでも教師と学生としての線引きを崩していないつもりのようだ。
「良かったです。僕、新しい服が欲しくて……お洒落な先生に相談に乗ってもらいたかったんです」
「そういうことならいくらでも見立ててあげよう」
お洒落だと言われたからだろうか、冷静を気取っているようで口角が上がっている。この賢者様、押しに弱いぞ……! いける!
こうして僕は休日のデートの約束を取り付けることに成功した。
ショッピングが今から楽しみで仕方なかった。
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