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第二十話

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「さあ、君の魔力を見せてくれ。魔法陣の中央に手をついて魔力を注ぎ込むんだ」

 僕は部屋の中央まで行くと、屈み込んで床に手をついた。
 そうか、この魔法陣に魔力を流し込んだら僕が闇属性持ちだってことが彼にバレてしまうんだ。
 いや、もしかしたらその方が彼が諦めてくれて楽になれるかもしれない。
 身体が震える。
 深呼吸をすると、僕は一気に魔法陣に魔力を注ぎ込んだ。

 ずわっ。

 床の魔法陣が凄まじい勢いで漆黒に染まっていく。
 一つ目、二つ目、三つ目の魔法陣は瞬時に染め上がり、今四つ目の魔法陣に僕の魔力が染み込んでいくところだった。
 エルネスト先生がいいとは言わないのでまだまだ魔力を流し込んでいく。

 そして遂に、とぷりと。
 一番最後の五つ目の魔法陣まで黒に染まってしまった。

「……っ!」

 呆然としてた様子のエルネスト先生が、はっと用紙に何かを書き込んでいく。学生の魔力検査の結果を書き込んでおくための用紙だろう。
 そして彼は顔を上げる。彼は笑顔を浮かべていた。

「いや、驚いたな……おめでとう。君はこの学園で史上初のすべての魔法陣を染め上げた生徒だ」

 かけられた言葉によって、僕も前代未聞のことを成し遂げたことをようやく自覚した。

「素晴らしい魔力量だ」

 彼は誉め言葉を続ける。
 だがそんなことはどうでもよかった。

「先生はどうでもいいんですか? ……僕が本当に光属性じゃなかったこと」
「ああ……」

 先生は屈み込んで魔法陣の色をよく見る。
 そんなことをしても変わらない、魔法陣の色はくっきりとした漆黒だ。

「それがどうもな。少し違和感がある」
「違和感?」

 エルネスト先生は一体何を言い出すのだろう。

「闇属性の人間が光らせた魔方陣ならば過去にも見たことがある。だが君のは――――あまりにも黒過ぎる」
「黒過ぎる?」
「ああ、まるで……単なる闇以上の何かであるかのような……」

 ブツブツと呟きながら先生は矯めつ眇めつしている。

「とにかく、光属性ではないことは確かですよね! 僕のことは聖女様の生まれ変わりではないって諦めて下さいますか?」
「……………………そうだな、諦めよう」

 すごく間があったのが気にかかったが、とにかく彼は諦めてくれた。

 ほっと安堵したのと同時に、かつてない悲しみが胸を貫く。
 これでもう僕は彼とは何の関係もなくなるのだ。
 学院で彼の姿を見かける度に、きっと僕は胸を貫か……。

「ところで」

 彼の行動に深く沈んでいた気持ちがどこかへ吹っ飛んだ。
 彼は恭しく僕の手を取ったのだ。
 黒い指が直に手に触れている。

「明日の太陽の日、私と共にお茶でもしないかね?」
「え……? 僕のことは諦めたのでは?」
「もちろんだとも。それとは別に科目選びについて悩んではいないかね? どの授業を取るべきか、アドバイスをしてあげよう」

 彼はとびきりのキメ顔で僕を見つめた。

(この人、諦めるとか言ったの口先だけだ……! 本当は全然諦めてない、大人げない!)

「どうかな、君が頷いてくれるなら明日君の家まで迎えに行こう」

 どうせ僕は彼の愛しい人の生まれ変わりではないのだから、これ以上一緒にいたってその分辛さが増すだけなのに。
 それでも金色の瞳に見つめられて、勝手に首が動いてしまったかのように縦に首肯してしまっていた。

「ありがとう。ふふ、明日が楽しみだ」

 彼はニヤリと目を細める。
 どうしようお父さん、お父さんの魔術の先生は思いのほか肉食系みたいです。
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