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第十八話
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あっという間に七年が経った。
十六歳になった僕、ルインハイト・ロイヒヴィッツハイムは魔導学院に通うことになった。
魔導学院とは魔術の専門家たちが集うこの国の最高学府だ。
魔術学校に通うか家庭教師に魔術を教えてもらった者の中でも、学院の入学試験を突破できた者だけが通える六年制の学校だ。
魔術師になるつもりのない者は通わなくてもいいらしいが、王族は全員ある程度の高等魔術を習得していることを求められるので絶対に通わなければならない。
僕はお父さんにしっかり家庭教師してもらって魔術の基本を教えてもらったので、魔術学校に通ったことはない。
魔導学院に通うのが初めての学校生活になる。
学校ってどんなところなんだろう。
思い浮かべてみてはワクワクが抑え切れなかった。
「いってきます、お父さん」
僕は学院の一年生の制服である赤いローブを纏って、父を振り返る。
「ああ、いってらっしゃい」
僕を乗せた馬車が学院へと向けて走り出す。
馬車は王都の中を駆け抜けていく。
窓からほわほわと空を揺蕩う大きな光の玉がいくつも見える。
あれらは魔導工学の研究所から出ているのだ。
今、魔導工学の発達により王都は急成長を遂げており、様々なものが研究開発されようとしているらしい。
例えば「絶対に偽造されない紙のお金」だとか、「馬のいらない馬車」だとか。
魔気機関車を小型化できればすぐにでも馬のいらない馬車なんて作れるだろうと当初は考えられていたらしいが、その小型化が上手くいかずどの研究者も血眼で研究しているらしい。
もしも馬のいらない馬車を作り出すことのできた研究者は一生使い切れないほどの巨万の富を手に入れるだろうと言われている。
だから一攫千金を狙って魔導工学の道を志そうと魔導学院に入学を希望する者は年々増えているという。
この街に来た時こそ見慣れない景色だったが、この蒸気と光の都の光景はもはや僕にとって馴染みのものだった。
やがて馬車が止まり、御者がドアを開く。
馬車から出ると、目の前には荘厳な建物がそびえ立っていた。
王都立魔導学院である。
白い石造りの建造物。重厚なドアの両側には石像が立っており、学院に集う生徒らを睥睨している。石像は杖を持った女性と鴉を肩に止まらせた女性を模している。学問と魔導を司る双子女神、ディアンドラとミルエラだろう。
重い扉を開こうとすると、扉が一瞬光を放って自動的に開いた。
一体どういう仕組みになっているのだろう。
「ある一定量以上の魔力に反応して開くようになっている」
突然の声に飛び上がりそうになった。
後ろを振り向くといつの間にかそこに人がいた。
紺色に近い蒼い長髪を真っ直ぐに垂らした男で、黒い色眼鏡の端から切れ長の瞳が覗いていた。えらい美形だった。
「その扉が開かないほどに魔力の少ない者はこの学院に入る資格がないということだ。まあ、そもそもそんな者は入学試験で弾いているがな」
年齢不詳な雰囲気の男だが、少なくとも学生の年には見えない。
ここの教師だろうか。
「君は新入生だろう。来い、入学式の会場はこっちだ」
「あ、ありがとうございます」
不思議な男性に案内されるままに男性についていった。
入学式は巨大な講堂の中で行われるようだ。
僕を案内すると黒い色眼鏡をかけた男性はどこかへと去っていった。
僕は新入生の列に並んで、入学式の始まりを待った。
やがて入学式の始まりが告げられ、学院長の挨拶が始まる。
長い長い挨拶だったが、これから学校生活が始まるのだと思うと、期待が膨らむばかりだった。
学院長の挨拶が終わり、次はいよいよ新入生の名前が読み上げられるのかと思いきや、次は新しく今年度から入った教師を一人紹介するらしい。
その教師が壇上に上がる。
「……っ!?」
見覚えのある褐色の肌に、尖った耳。
暖かな金色の瞳。
「新入生のみなさま、ご入学おめでとうございます。私は今年度から新しく古代語と治癒魔術の授業を担当させていただきますエルネスト・ジオ=シュペルフォエルと申します」
エルネスト先生、とこれからは呼ばねばなるまい。
新しい教師とは数年前に僕を聖女の生まれ変わりと呼んだ、あのエルフの賢者様だった。
新入生の列を見回す彼の視線がちょうど僕のところで止まったような気がした。
間違いない、彼は僕と会うためだけに宮廷魔術師をやめてわざわざ魔導学院の教師になったのだ。
十六歳になった僕、ルインハイト・ロイヒヴィッツハイムは魔導学院に通うことになった。
魔導学院とは魔術の専門家たちが集うこの国の最高学府だ。
魔術学校に通うか家庭教師に魔術を教えてもらった者の中でも、学院の入学試験を突破できた者だけが通える六年制の学校だ。
魔術師になるつもりのない者は通わなくてもいいらしいが、王族は全員ある程度の高等魔術を習得していることを求められるので絶対に通わなければならない。
僕はお父さんにしっかり家庭教師してもらって魔術の基本を教えてもらったので、魔術学校に通ったことはない。
魔導学院に通うのが初めての学校生活になる。
学校ってどんなところなんだろう。
思い浮かべてみてはワクワクが抑え切れなかった。
「いってきます、お父さん」
僕は学院の一年生の制服である赤いローブを纏って、父を振り返る。
「ああ、いってらっしゃい」
僕を乗せた馬車が学院へと向けて走り出す。
馬車は王都の中を駆け抜けていく。
窓からほわほわと空を揺蕩う大きな光の玉がいくつも見える。
あれらは魔導工学の研究所から出ているのだ。
今、魔導工学の発達により王都は急成長を遂げており、様々なものが研究開発されようとしているらしい。
例えば「絶対に偽造されない紙のお金」だとか、「馬のいらない馬車」だとか。
魔気機関車を小型化できればすぐにでも馬のいらない馬車なんて作れるだろうと当初は考えられていたらしいが、その小型化が上手くいかずどの研究者も血眼で研究しているらしい。
もしも馬のいらない馬車を作り出すことのできた研究者は一生使い切れないほどの巨万の富を手に入れるだろうと言われている。
だから一攫千金を狙って魔導工学の道を志そうと魔導学院に入学を希望する者は年々増えているという。
この街に来た時こそ見慣れない景色だったが、この蒸気と光の都の光景はもはや僕にとって馴染みのものだった。
やがて馬車が止まり、御者がドアを開く。
馬車から出ると、目の前には荘厳な建物がそびえ立っていた。
王都立魔導学院である。
白い石造りの建造物。重厚なドアの両側には石像が立っており、学院に集う生徒らを睥睨している。石像は杖を持った女性と鴉を肩に止まらせた女性を模している。学問と魔導を司る双子女神、ディアンドラとミルエラだろう。
重い扉を開こうとすると、扉が一瞬光を放って自動的に開いた。
一体どういう仕組みになっているのだろう。
「ある一定量以上の魔力に反応して開くようになっている」
突然の声に飛び上がりそうになった。
後ろを振り向くといつの間にかそこに人がいた。
紺色に近い蒼い長髪を真っ直ぐに垂らした男で、黒い色眼鏡の端から切れ長の瞳が覗いていた。えらい美形だった。
「その扉が開かないほどに魔力の少ない者はこの学院に入る資格がないということだ。まあ、そもそもそんな者は入学試験で弾いているがな」
年齢不詳な雰囲気の男だが、少なくとも学生の年には見えない。
ここの教師だろうか。
「君は新入生だろう。来い、入学式の会場はこっちだ」
「あ、ありがとうございます」
不思議な男性に案内されるままに男性についていった。
入学式は巨大な講堂の中で行われるようだ。
僕を案内すると黒い色眼鏡をかけた男性はどこかへと去っていった。
僕は新入生の列に並んで、入学式の始まりを待った。
やがて入学式の始まりが告げられ、学院長の挨拶が始まる。
長い長い挨拶だったが、これから学校生活が始まるのだと思うと、期待が膨らむばかりだった。
学院長の挨拶が終わり、次はいよいよ新入生の名前が読み上げられるのかと思いきや、次は新しく今年度から入った教師を一人紹介するらしい。
その教師が壇上に上がる。
「……っ!?」
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エルネスト先生、とこれからは呼ばねばなるまい。
新しい教師とは数年前に僕を聖女の生まれ変わりと呼んだ、あのエルフの賢者様だった。
新入生の列を見回す彼の視線がちょうど僕のところで止まったような気がした。
間違いない、彼は僕と会うためだけに宮廷魔術師をやめてわざわざ魔導学院の教師になったのだ。
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