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第十五話

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「そんな珍しい特殊属性だけど、基本属性しか持ってない人が光や闇の魔術を使う方法がある。反対に闇属性のルインが基本属性の魔術を使う方法もある。それが属性の変換だ」

 そう言ってお父さんは手の平を出す。
 手の平の上にぽわりと小さな光の玉が浮かんだ。

「ルインが魔力視の魔眼を持っていれば、オレが今やったことを簡単に理解してもらえたんだろうけど」

 魔力視の魔眼とはお父さんの眼帯の向こうの真紅の瞳のことだ。
 ずっと魔眼を使っていると疲れるらしいので、普段は眼帯で隠している。

「オレは今自分の中の水属性の魔力の一部を抽出し、絵具を溶かすように色を変え、疑似的な光属性にした」
「そうすると光属性の魔術が使えるようになるんですか?」
「その通りだ」

 お父さんの手の平の上でふわんふわんと光の玉が揺れる。

「自分が元々持っている属性をそのまま使うよりも時間がかかるし、魔力も消費するから疲れる。それでも属性の変換ができるようになれば、簡単な魔術なら全ての属性が使えるようになるんだ」

 光の玉が三つに増え、くるくると回り出した。

「僕もそれがやりたい! ……です!」
「ふふ、オレも教えたいところだけど光魔術は分かりずらいからね。最初はこれにしようか」

 お父さんが取り出したのは、燭台に立てられた蝋燭だった。

「?」
「火の初級魔術さ。この蝋燭に火を点けてみよう」

 こうして属性の変換の練習が始まった。

「まずは自分の魔力のうちほんの一部分だけを分離させるんだ。どの属性でもこの工程は変わらない」

 これがいきなり難しかった。
 僕は目を閉じて額に汗を滲ませて集中し、何十分もかかってやっとこの第一工程を成功させた。

「うん、できたできた、おめでとう! まさか初日でできるとは思ってなかったよ」

 お父さんは魔力視の魔眼があるので、僕がちゃんと成功させられたかどうかが分かるようだ。
 魔力の分離ができると手放しで褒めてくれた。

「えへへ。お父さん……じゃなくて、先生も初めてやった時は大変でしたか?」
「いや、オレはこの眼があるからね。教師の魔力の動かし方が見えたからコツは簡単に分かったよ」

 むう、それってなんかズルい。
 お父さんはこの苦労を味わってないだなんて。

「それから分離させた魔術の属性を変換するんだ」
「変換はどうやるんですか?」
「実を言うと、この工程は教えられることは少なくってね……やり方は人それぞれなんだ」

 なんとここでまさかの放置である。

「例えば同じ光属性に変換するのでも、火属性から光に変換するのと水属性から光に変換するのとでは随分と感覚が違うらしい。ましてやルインは稀有な闇属性。どんな風にしたらいいかはオレにも分からない」

 がびーん、と僕は目を見開く。

「ああでも、魔力属性っていうのはよく色に例えられる。オレの場合は魔力に絵具で色を付けるイメージをしている。ルインもそんな風に自分の中の魔力の色を変えるイメージをしてみてくれ」

 色を変える……。
 僕は目を閉じてイメージしてみることにする。

「火属性のイメージカラーは赤だ。がんばって」

 僕の中の黒くとぐろを巻く魔力の中から分離させた一部分を指先に集中させる。そのままでは黒い塊に過ぎない。

 しかし、黒を赤にするにはどうすればいいのだろう。
 僕の魔力はかなり純度の高い黒で、すべてを塗り潰してしまう。

 発想を転換させてみよう。
 黒という色はすべての色が混ざった色だと聞いたことがある。
 その中から何とか赤だけ取り出せないだろうか。

 純度の高い漆黒のままでは赤い色だけ取り出すことはできそうにない。
 まずは黒の色を全体的に薄めてみよう。

「……!?」

 黒が灰色に、曖昧に溶けていく。
 そのグレイの中から赤い色だけを拾っていく。
 拾った赤を塗り広げ……ほら、全部赤に出来た。

 目を開けると、指先に豆粒ほどの小さな火が灯っていた。

「で、できた! 出来ました!」

 その小さな火で蝋燭に火をも灯す。
 蝋燭にはきちんと火が点いた。

「あ、ああ……」

 褒めてくれると思ったのに、お父さんは固まっていた。

「どうしたの? 何か間違えちゃった?」
「いや……ごめんね、まさか一発で成功するとは思ってなくて、すごい驚いちゃった。すごいよ、ルイン!」

 凄すぎて驚いてただけらしい。
 お父さんはボサボサと僕の頭を撫でて褒め讃えてくれたのだった。
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