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第十一話
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「そういえばルイン、知ってるかい。城にはこの世界で唯一のエルフがいるんだ」
「エルフ?」
王城へと向かう馬車の中、お父さんがそんな雑談を口にした。
「そう、永遠に若く美しいまま年をとらないエルフさ。城の宮廷魔術師を勤めているんだ。オレも彼に魔術の手ほどきを受けたものさ」
「へえ、お父さんの魔術の先生なんだ」
お父さんと一緒に住むようになってからはお父さんに魔術を教わるようになっていたから、僕にとっては先生の先生だ。永遠に若くて美しいだなんて一体どんな人なのだろう。
「もう二千年以上も生きているそうだ。想像できるかい? まだ魔導工学の概念すら欠片もない、エルフの他にもドワーフや獣人といった他種族がいて、冒険者が跋扈していた時代から生きているんだ」
「ふわぁ……」
まるで本の中のお話のようだ。
剣と自然魔術が世界を支配していた日々の生き証人が城にいるなんて。
「エルフとダークエルフのハーフなんだってさ。だから彼はすごく美しい褐色の肌をしている」
褐色の肌なんて見たことない。
きっとすごく美しいのだろう、と会ったこともない相手への憧れがすでに膨らみ始めていた。
「そうだ、そのエルフの賢者様についてすごく面白い話をしてやろうか?」
「なになに、まだ何かあるの?」
僕は期待に目を輝かせて続きを促す。
「彼はね、何度でも同じ相手と出逢って恋に落ちているんだ」
お父さんの口から出てきたのは存外にロマンチックな言葉だった。
「今から千年くらい前のことだ。エルフの賢者は聖女様と出会った。聖女様は太陽のような金の髪に月のような銀色の瞳をしていた。……そういえばルインと同じ目の色だな」
「えへへ」
母がよく僕の瞳を月に例えてくれたから、月のような目をしていると言われるのが僕は好きだった。
「賢者と聖女様は恋をし、添い遂げた。だが人間の聖女様の命は百年も保たない。聖女様が先に死んでしまうことに嘆き悲しんだ賢者に、聖女様は約束した。またこの世に生まれ変わってきて、貴方と恋に落ちると」
お父さんの語る物語がまるで吟遊詩人の詩のようで、ほうっと息を吐いてしまう。
「それから百年後。本当に聖女様の生まれ変わりが現れて、エルフの賢者様と再会したんだ。前の聖女様とそっくり同じ、金髪銀眼で光魔法の使い手だった。その後およそ百年に一度、聖女様の生まれ変わりが此の世のどこかに誕生しているんだ。生まれ変わりになかなか巡り合えずに国を挙げて大捜索し、聖女様が死ぬ寸前でやっと出会えたこともあったそうだよ」
「へー」
「だからそれ以来、金髪で銀の瞳をしていて光属性の魔力を持つ女性は一度は王城に足を運ぶ決まりができたらしい」
僕と聖女様の生まれ変わりとでは特徴が一個しか被らない。
僕の髪はカラスのような黒だし、男だし、しかも魔力属性は闇だ。
ほぼ正反対と言っていいだろう。
そんな僕でもお父さんと巡り合って今では幸せに暮らすことができている。なんという幸運だろうと思う。
馬車の中でロマンチックな話を聞いた僕はすっかりエルフの宮廷魔術師に会うのが楽しみになっていた。
カインハイト王子の息子となった僕にとっては祖父に当たる国王様に会う緊張もどこかへ吹っ飛んでいた。
お父さんは間違いなく僕の緊張をほぐすために、エルフの賢者様に関するお話をきかせてくれたのだと思う。
「エルフ?」
王城へと向かう馬車の中、お父さんがそんな雑談を口にした。
「そう、永遠に若く美しいまま年をとらないエルフさ。城の宮廷魔術師を勤めているんだ。オレも彼に魔術の手ほどきを受けたものさ」
「へえ、お父さんの魔術の先生なんだ」
お父さんと一緒に住むようになってからはお父さんに魔術を教わるようになっていたから、僕にとっては先生の先生だ。永遠に若くて美しいだなんて一体どんな人なのだろう。
「もう二千年以上も生きているそうだ。想像できるかい? まだ魔導工学の概念すら欠片もない、エルフの他にもドワーフや獣人といった他種族がいて、冒険者が跋扈していた時代から生きているんだ」
「ふわぁ……」
まるで本の中のお話のようだ。
剣と自然魔術が世界を支配していた日々の生き証人が城にいるなんて。
「エルフとダークエルフのハーフなんだってさ。だから彼はすごく美しい褐色の肌をしている」
褐色の肌なんて見たことない。
きっとすごく美しいのだろう、と会ったこともない相手への憧れがすでに膨らみ始めていた。
「そうだ、そのエルフの賢者様についてすごく面白い話をしてやろうか?」
「なになに、まだ何かあるの?」
僕は期待に目を輝かせて続きを促す。
「彼はね、何度でも同じ相手と出逢って恋に落ちているんだ」
お父さんの口から出てきたのは存外にロマンチックな言葉だった。
「今から千年くらい前のことだ。エルフの賢者は聖女様と出会った。聖女様は太陽のような金の髪に月のような銀色の瞳をしていた。……そういえばルインと同じ目の色だな」
「えへへ」
母がよく僕の瞳を月に例えてくれたから、月のような目をしていると言われるのが僕は好きだった。
「賢者と聖女様は恋をし、添い遂げた。だが人間の聖女様の命は百年も保たない。聖女様が先に死んでしまうことに嘆き悲しんだ賢者に、聖女様は約束した。またこの世に生まれ変わってきて、貴方と恋に落ちると」
お父さんの語る物語がまるで吟遊詩人の詩のようで、ほうっと息を吐いてしまう。
「それから百年後。本当に聖女様の生まれ変わりが現れて、エルフの賢者様と再会したんだ。前の聖女様とそっくり同じ、金髪銀眼で光魔法の使い手だった。その後およそ百年に一度、聖女様の生まれ変わりが此の世のどこかに誕生しているんだ。生まれ変わりになかなか巡り合えずに国を挙げて大捜索し、聖女様が死ぬ寸前でやっと出会えたこともあったそうだよ」
「へー」
「だからそれ以来、金髪で銀の瞳をしていて光属性の魔力を持つ女性は一度は王城に足を運ぶ決まりができたらしい」
僕と聖女様の生まれ変わりとでは特徴が一個しか被らない。
僕の髪はカラスのような黒だし、男だし、しかも魔力属性は闇だ。
ほぼ正反対と言っていいだろう。
そんな僕でもお父さんと巡り合って今では幸せに暮らすことができている。なんという幸運だろうと思う。
馬車の中でロマンチックな話を聞いた僕はすっかりエルフの宮廷魔術師に会うのが楽しみになっていた。
カインハイト王子の息子となった僕にとっては祖父に当たる国王様に会う緊張もどこかへ吹っ飛んでいた。
お父さんは間違いなく僕の緊張をほぐすために、エルフの賢者様に関するお話をきかせてくれたのだと思う。
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