2 / 5
第二話 クライドがヤンデレだった件
しおりを挟む
「うわああああああぁーっ!!!!!」
禁書庫から飛び出すと、俺はまっすぐに学生寮を目指した。
自室に飛び込むと、俺はベッドの毛布にくるまった。
これは夢だ。全部夢だ。
毎日メスイキしないと死ぬ呪いってなんだよ。
メスイキ? 死ぬ? 何もかもがわけがわからない。
俺は幻を見ていたんだ。寝て目が覚めれば、夢だったとわかる。
どれだけの間そうしていただろうか。
いつしか日は落ち、部屋の中は真っ暗になった。
真っ暗になった室内で、青く浮かび上がるものがあった。自分の腹が青く発光していた。
「な、なんだ……!?」
服をめくると、腹の表面に青く光る紋様が見えた。
紋様は砂時計を模していて、動いていた。砂時計上部の砂がこうしている間にも刻一刻と減っていくのが。
――まさか、この砂が全部なくなると俺は死ぬのか?
毎日メスイキしないと死ぬ呪い。
つまり、今日が終われば自分は死ぬのだ。
メスイキとやらにどれだけ時間がかかるかわからないのに、俺はどうして貴重な時間を無駄にしてしまったのか。
とにかく、誰かに頼まなければ。抱いてくれと。
俺は部屋を飛び出した。
とにかく、誰でもいい。最初に目についた男に頼むのだ。
その時、隣の部屋の扉がガチャリと開いて、誰かが出てきた。
僥倖だと思った。
「頼む、俺を抱いてくれ……ッ!」
無我夢中で隣室の住人に言い放った。
焦るあまり、その時の俺は忘れていたのだ。隣室に住むのが誰か。
「……」
蒼い瞳から放たれる、絶対零度の視線。
「あ……クライド」
そう、隣の部屋に住んでいるのは憎きクライドなので会った。よりにもよってコイツに抱いてくれと頼んでしまうなんて。クライドは今にも俺を嘲笑い、扉を閉じてしまうだろう。
「……」
クライドは俺から視線を離すと、静かに周囲を見回した。
周囲には誰もいない。誰か他の人相手に言ったとでも思ったのだろうか。俺としても、誰か別の人に言いたかった。
「……抱いてくれっていうのは、ボクと性行為をしたいという意味であっているかな?」
驚いたことに、彼は口を開いた。俺は彼の声を初めて聴いたような心地になった。
同時に、死にたくなった。俺はクライドと性行為をしたいと言ってしまったのだ。
死ぬ方がマシなくらい恥ずかしい。だが、本当に死にたくはない。この際クライドでもいい。俺はもう二度と、彼のライバルを名乗れないだろうな。……その方が気が楽なのかもしれない。
俺は事情を説明することにした。
「実を言うと……馬鹿馬鹿しい話だと思うんだが、『毎日メスイキしないと死ぬ呪い』をかけられちまったんだ。だから……」
自分で説明しながら、こんな話を信じてもらえるはずがないと思った。
だが。
「……たしかに、そのようだね」
クライドは俺の姿を一瞥しただけで、頷いた。
俺は目をぱちくりとさせた。
この俺を差し置いて一位なんだから優秀な男なのだとは思っていたが、まさか一目で呪いにかけられているのを判別するなんて。流石は光魔術の使い手だ。
「こんなところでする話じゃあないね。ひとまず、中に入ってくれ」
彼はいつもの嘲笑を浮かべたりもせず、扉を大きく開いてくれた。俺に背を向け、室内に戻っていく。
中に入れということは、入っていいのだろう。
まさかクライドが、俺にこんなに優しくしてくれるなんて。
俺は放心状態で、クライドについていった。
短い廊下の先には、クライドの寝室があった。
「……え?」
寝室に足を踏み入れ、俺はさらに驚愕することになった。
壁一面に、ところ狭しと羊皮紙が貼られていた。
羊皮紙の全てに、スケッチが描かれていた。描かれているのは黒髪ツリ目で黒い瞳をした男……俺だ。
ベッドの周りには水晶玉が置かれていて、その全てに今の俺の姿が映っている。
たくさんの俺、俺、俺だ。
――これは一体、どういうことだ?
「ジェイミー」
後ろからポンと肩に手を置かれ、俺はビクリと震えた。
「今日は吃驚したよ、キミがこんなにも大胆だなんて知らなかったな」
喜悦に満ちた低い囁き声に、俺は悟った。
クライドが俺を見つめていた視線。あれは嘲笑の視線ではなかったのだと。
あれは……あれは思慕の視線だったのだ。
異様な寝室の内装から感じ取れる執着心と合わせると、そうとしか考えられない。
「ボクが奥手すぎたのかな。試験で一位を取れば、キミが見つめてくれる。だからいつも勉強をがんばってたんだ。そうしていれば、いつかキミと話すチャンスができると思ってね」
「ひゃっ!?」
リップ音と共に、うなじに柔らかいものが触れた。うなじにキスを落とされたのだと悟り、身体が震えた。
「でもそんなボクの態度は、キミを待たせてしまっていたんだね。今日アプローチされるまで、キミが同じ想いを抱いてくれているとは、まるで知らなかったよ」
いつの間にか、俺もクライドのことが好きなことにされてしまっている。俺、呪いをかけられたって説明したよな!?
とはいえ、否定することはできない。
否定したら、メスイキさせてもらえなくなってしまうかもしれない。メスイキできなかったら、俺は死ぬのだ。
「い……一体、いつから?」
代わりに、いつから好意を抱いていたのかと聞いた。
覚えている限り、入学してから一番最初の試験からアイツは一位を取っていて、じっとりとした視線を向けてきていた。
「入学式のときだよ。転んだボクを助け起こして、ハンカチを貸してくれただろう? ボクに優しくしてくれたのは、キミが初めてだった。そのときボクは思ったんだ、キミに相応しい人になろうと」
「入学式……? ハンカチ……?」
クライド相手にそんなことをした覚えはないのだが、と首を捻った。
「やっぱり、覚えてないかな? あの頃のボクは、今のボクとだいぶ見た目が違ったから」
「あ……!」
彼の言葉を聞いて、記憶が蘇った。
冴えない風貌の奴が間抜けに転んでいたから、手を貸してやった覚えはある。ついでにハンカチをくれてやった。今の今まで忘れていたくらい、俺にとってはなんでもないことだった。
アイツがクライドだったのか。その程度のことで惚れるなんて。
メスイキしなければ死んでしまう。
けれど異常な執着心と意味不明な惚れた経緯を目の前に、彼に身を委ねることを躊躇してしまう。
「ジェイミー、好きだよ」
「うわっ!」
ローブは自室で脱いだので、今の俺はシャツとスラックスを着ているだけだ。
クライドがシャツと肌着の間に手を差し入れて素肌に触ってきたので、驚いて声を上げてしまった。
「ああ、こうしてキミに触れることをいつも夢想していたんだ……!」
興奮した熱い息が、うなじにかかる。
恐怖を覚える。
だが彼を拒絶して、他に俺を抱いてくれる人を見つけられるだろうか。明日までに。
メスイキしないと死ぬ呪いにかけられて~等々説明するところから、また始めなければならない。
死ぬほど恥ずかしいし、見つけられるかどうかわからない。
それならば、悔しいがクライドに身を委ねた方がいいだろう――
俺は固く目を閉じた。
禁書庫から飛び出すと、俺はまっすぐに学生寮を目指した。
自室に飛び込むと、俺はベッドの毛布にくるまった。
これは夢だ。全部夢だ。
毎日メスイキしないと死ぬ呪いってなんだよ。
メスイキ? 死ぬ? 何もかもがわけがわからない。
俺は幻を見ていたんだ。寝て目が覚めれば、夢だったとわかる。
どれだけの間そうしていただろうか。
いつしか日は落ち、部屋の中は真っ暗になった。
真っ暗になった室内で、青く浮かび上がるものがあった。自分の腹が青く発光していた。
「な、なんだ……!?」
服をめくると、腹の表面に青く光る紋様が見えた。
紋様は砂時計を模していて、動いていた。砂時計上部の砂がこうしている間にも刻一刻と減っていくのが。
――まさか、この砂が全部なくなると俺は死ぬのか?
毎日メスイキしないと死ぬ呪い。
つまり、今日が終われば自分は死ぬのだ。
メスイキとやらにどれだけ時間がかかるかわからないのに、俺はどうして貴重な時間を無駄にしてしまったのか。
とにかく、誰かに頼まなければ。抱いてくれと。
俺は部屋を飛び出した。
とにかく、誰でもいい。最初に目についた男に頼むのだ。
その時、隣の部屋の扉がガチャリと開いて、誰かが出てきた。
僥倖だと思った。
「頼む、俺を抱いてくれ……ッ!」
無我夢中で隣室の住人に言い放った。
焦るあまり、その時の俺は忘れていたのだ。隣室に住むのが誰か。
「……」
蒼い瞳から放たれる、絶対零度の視線。
「あ……クライド」
そう、隣の部屋に住んでいるのは憎きクライドなので会った。よりにもよってコイツに抱いてくれと頼んでしまうなんて。クライドは今にも俺を嘲笑い、扉を閉じてしまうだろう。
「……」
クライドは俺から視線を離すと、静かに周囲を見回した。
周囲には誰もいない。誰か他の人相手に言ったとでも思ったのだろうか。俺としても、誰か別の人に言いたかった。
「……抱いてくれっていうのは、ボクと性行為をしたいという意味であっているかな?」
驚いたことに、彼は口を開いた。俺は彼の声を初めて聴いたような心地になった。
同時に、死にたくなった。俺はクライドと性行為をしたいと言ってしまったのだ。
死ぬ方がマシなくらい恥ずかしい。だが、本当に死にたくはない。この際クライドでもいい。俺はもう二度と、彼のライバルを名乗れないだろうな。……その方が気が楽なのかもしれない。
俺は事情を説明することにした。
「実を言うと……馬鹿馬鹿しい話だと思うんだが、『毎日メスイキしないと死ぬ呪い』をかけられちまったんだ。だから……」
自分で説明しながら、こんな話を信じてもらえるはずがないと思った。
だが。
「……たしかに、そのようだね」
クライドは俺の姿を一瞥しただけで、頷いた。
俺は目をぱちくりとさせた。
この俺を差し置いて一位なんだから優秀な男なのだとは思っていたが、まさか一目で呪いにかけられているのを判別するなんて。流石は光魔術の使い手だ。
「こんなところでする話じゃあないね。ひとまず、中に入ってくれ」
彼はいつもの嘲笑を浮かべたりもせず、扉を大きく開いてくれた。俺に背を向け、室内に戻っていく。
中に入れということは、入っていいのだろう。
まさかクライドが、俺にこんなに優しくしてくれるなんて。
俺は放心状態で、クライドについていった。
短い廊下の先には、クライドの寝室があった。
「……え?」
寝室に足を踏み入れ、俺はさらに驚愕することになった。
壁一面に、ところ狭しと羊皮紙が貼られていた。
羊皮紙の全てに、スケッチが描かれていた。描かれているのは黒髪ツリ目で黒い瞳をした男……俺だ。
ベッドの周りには水晶玉が置かれていて、その全てに今の俺の姿が映っている。
たくさんの俺、俺、俺だ。
――これは一体、どういうことだ?
「ジェイミー」
後ろからポンと肩に手を置かれ、俺はビクリと震えた。
「今日は吃驚したよ、キミがこんなにも大胆だなんて知らなかったな」
喜悦に満ちた低い囁き声に、俺は悟った。
クライドが俺を見つめていた視線。あれは嘲笑の視線ではなかったのだと。
あれは……あれは思慕の視線だったのだ。
異様な寝室の内装から感じ取れる執着心と合わせると、そうとしか考えられない。
「ボクが奥手すぎたのかな。試験で一位を取れば、キミが見つめてくれる。だからいつも勉強をがんばってたんだ。そうしていれば、いつかキミと話すチャンスができると思ってね」
「ひゃっ!?」
リップ音と共に、うなじに柔らかいものが触れた。うなじにキスを落とされたのだと悟り、身体が震えた。
「でもそんなボクの態度は、キミを待たせてしまっていたんだね。今日アプローチされるまで、キミが同じ想いを抱いてくれているとは、まるで知らなかったよ」
いつの間にか、俺もクライドのことが好きなことにされてしまっている。俺、呪いをかけられたって説明したよな!?
とはいえ、否定することはできない。
否定したら、メスイキさせてもらえなくなってしまうかもしれない。メスイキできなかったら、俺は死ぬのだ。
「い……一体、いつから?」
代わりに、いつから好意を抱いていたのかと聞いた。
覚えている限り、入学してから一番最初の試験からアイツは一位を取っていて、じっとりとした視線を向けてきていた。
「入学式のときだよ。転んだボクを助け起こして、ハンカチを貸してくれただろう? ボクに優しくしてくれたのは、キミが初めてだった。そのときボクは思ったんだ、キミに相応しい人になろうと」
「入学式……? ハンカチ……?」
クライド相手にそんなことをした覚えはないのだが、と首を捻った。
「やっぱり、覚えてないかな? あの頃のボクは、今のボクとだいぶ見た目が違ったから」
「あ……!」
彼の言葉を聞いて、記憶が蘇った。
冴えない風貌の奴が間抜けに転んでいたから、手を貸してやった覚えはある。ついでにハンカチをくれてやった。今の今まで忘れていたくらい、俺にとってはなんでもないことだった。
アイツがクライドだったのか。その程度のことで惚れるなんて。
メスイキしなければ死んでしまう。
けれど異常な執着心と意味不明な惚れた経緯を目の前に、彼に身を委ねることを躊躇してしまう。
「ジェイミー、好きだよ」
「うわっ!」
ローブは自室で脱いだので、今の俺はシャツとスラックスを着ているだけだ。
クライドがシャツと肌着の間に手を差し入れて素肌に触ってきたので、驚いて声を上げてしまった。
「ああ、こうしてキミに触れることをいつも夢想していたんだ……!」
興奮した熱い息が、うなじにかかる。
恐怖を覚える。
だが彼を拒絶して、他に俺を抱いてくれる人を見つけられるだろうか。明日までに。
メスイキしないと死ぬ呪いにかけられて~等々説明するところから、また始めなければならない。
死ぬほど恥ずかしいし、見つけられるかどうかわからない。
それならば、悔しいがクライドに身を委ねた方がいいだろう――
俺は固く目を閉じた。
367
お気に入りに追加
590
あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。




いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな?
そして今日も何故かオレの服が脱げそうです?
そんなある日、義弟の親友と出会って…。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる