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第四話 家に送り届けられ***
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ケインくんとの食事会から数日後のこと。
異世界の暦が一巡りし、この世界は新しい年を迎えた。
「新年会?」
「そう、今日は新年会だぞマコト! ご馳走だ!」
ラース先輩が口にした単語を、マコトがかけられた翻訳の魔術は『新年会』と訳した。
話を聞くと新年を迎えたお祝いをギルド員の皆でするらしい。
新年会の後は長期休暇に入るそうだ。この世界では新年のお祝いをした後に休むのだとか。
(ご馳走! 長期休暇!)
前の会社では大晦日でも元日でも関係なく働かされていた。
それがこの世界では一週間以上休めるらしい。
(あ、でも先輩に長い間会えなくなっちゃうんだな……)
ラース先輩と会えなくなることだけが唯一残念だった。
何はともあれ、新年会だ。ギルドは休業の看板を扉にかけ、代わりにたくさんの酒とご馳走とが中に運び込まれてパーティが始まったのだった。
「マコトくん、これ食べなさい」
「おうマコト、これも飲め飲め!」
何故だかギルド員さんたちがマコトにたくさんのお酒と食べ物を勧めてくれる。
「あ、ありがとうございます……!」
マコトは勧められるままにご馳走を口にし、酒を飲んだ。
お酒を飲むのは好きだけど、あまり酒に強い方ではない。
なんだかだんだんと、意識がぼんやりとしてきた。あ、まずい……。これはまずい酔い方だ。
マコトの意識が暗転した。
◆
「あらら、寝ちゃってるよ」
ギルド員たちが微笑まし気にテーブルに突っ伏したマコトを眺めている。
何を食べても「美味しい!」と新鮮な反応が返ってくるものだから、あれやこれやと餌付けされまくっていたのだが、遂に酔い潰れてしまったらしい。
テーブルの上の料理も少なくなってきてお開きの空気が漂ってきた頃だった。
「ラースくん、マコトくんを家まで送り届けてあげなさい」
「えっ」
「マコトくんの家を知ってるのはラースくんだけでしょう」
サブマスに頼まれてしまった。
確かにラースは仕事が少しばかり長引いてしまった日に"グリュっち"でマコトを家まで送ったことがある。今日も"グリュっち"があるから人間一人送り届けるくらい余裕ではあるのだが……。
「はぁい、分かりました」
まあ仕方ない。
すっかり周囲からマコトの世話係だと目されているこの状況も嫌ではなかった。
「おいマコト、起きるぞ」
「……」
彼に声をかけてみるが無反応だった。すっかり熟睡してしまっているみたいだ。
黒い前髪が顔にかかって、まるで子供みたいに見える。まったく可愛いやつめ。食べちまうぞ。
ラースは彼の身体に上着を被せ、肩を貸すようにして背負った。
「それじゃあ、マコトを送ってくるのでお先に!」
ギルド員の皆に挨拶をし、ラースはマコトと一緒にギルドを後にした。
外に出るとチラチラと大粒の雪が降っていた。
雪の結晶が見えそうなほどの大きな雪がゆったりと降りしきる。
だがのんびりと上を見上げている場合ではない。こんなところでゆっくりしていたらマコトが風邪を引いてしまうだろう。
ラースはベルトに取り付けていた根付を取り外し、広い空間でそれを天に掲げる。
「グリュっち、来い!」
声を上げると、たちまちのうちに根付が変形して大きくなり、目の前の空間に立派なグリフォンが現れた。上半身が鳥で下半身が獅子の美しい生き物である。
グリフォンが現れる魔道具はラースが一生懸命給料を貯めて買った高価な代物である。
グリフォンの背にマコトを乗せてあげ、ラースがその後ろに乗り手綱を握る。
「それ!」
翼を広げたグリフォンは二人を乗せて雪の下を舞った。
◆
「マコト、家に着いたぞ」
「……?」
ふわふわとした浮遊感が止まったと思ったら、先輩の声が聞こえた。
「寝るならベッドで寝ろよ。ほらマコト、家の鍵は?」
ぼんやりと夢見心地のまま懐から鍵を取り出し、差し出す。
ガチャガチャと音が響き、ドアが開いた。
「んぅ……」
「あーもう、よっこいせっ」
再び身体がふわりと浮く感覚。
どうやら先輩が抱き上げてくれたようだ。
なんだか子供の頃に戻ったようで、心地が良かった。
また一瞬、眠りに落ちていた。
気が付いたらベッドの上に下ろされているところだった。
先輩の手によって上着を剥ぎ取られる。
「ふう……ほーら、ベッドに着いたぞ。もうねんねしていいぞ」
先輩が優しい微笑みで見下ろす。
きっと先輩が酔い潰れた僕を家まで送ってきてくれたのだろう、とマコトはやっと察することができた。
「じゃあオレはもう帰るからな」
「あっ」
先輩が立ち上がって踵を返す。
そのことが急に惜しく感じられた。だってこれから長期休暇に入ってしばらく先輩に会えなくなってしまうのに。さみしい。
「せんぱいと、いっしょがいいです……っ」
気が付けば彼の服の裾を掴んでしまっていた。
「な……っ!?」
先輩が振り返る。何故だか真っ赤な顔をしていた。
「あのなぁ、お前なあ! 前々から思ってたけどそういうことするの無防備だぞ! 襲われたらどうする気だ!」
どうやら先輩は何か怒っているようだ。
酒で鈍っている頭では先輩が何に怒っているか分からない。
だから、ただ思ってることを口に出した。
「せんぱいになら、おそわれてもいいです……」
「ッ!?」
本気で先輩になら何されてもいいと思っていた。それが先輩の望むことならば。
カインに指摘された通りだった。マコトは先輩の特別になりたいのだ。
「そっ、そんなこと言ったら本当に襲っちまうぞ……!?」
先輩の顔がますます真っ赤になる。
そんな先輩の顔をまっすぐ見上げながら、マコトはこくんと頷いた。
「はい……それでいいです」
「く……っ!」
逡巡する素振りを見せる先輩。
ほんの一瞬の間――――彼が屈み込み、二人の唇が合わさった。
「っ」
ぬるりと舌が口内に入り込んでくる。
マコトはされるがままに舌による愛撫を受け入れる。
「んっ、は……っ」
息が、舌が、唾液が混ざり合う。
甘く、擽ったい。
就職してからというものずっと仕事に忙殺され続けていたマコトに恋愛をする時間などなかった。
これがファーストキスだった。
(せんぱい……っ、きもちい……っ)
舌での交わりを続けているうちに、ゾクゾクと背筋を駆け上がっていくような感覚に襲われるようになる。頭の中が蕩けていく。
ベッドが軋む音。先輩がベッドに上がってきたのだ。
マコトの身体を組み敷いて馬乗りになる。下半身に硬いモノが当たるのを感じた。
「……ッ」
突然感じた性的な刺激に、大きく息が漏れた。
そのままぐりぐりと下半身を押し付けられ続ける。
だが恐怖はない。マコト自身もその先を望んでいた。
自身の中心にも熱が集まっていくのを感じる。
下着の中が窮屈だ。
そのことを感じ取ったかのように彼の手がマコトのスラックスに伸びてくる。口付けを続けながら、乱暴に衣服を脱がせていく……下着も含めて。
素肌が空気に晒される。酔いで火照った身体が冷えて気持ち好かった。
「ん……ッ、はあ……っ」
舌が引き抜かれ、唇が離れていく。
マコトは大きく呼吸を繰り返し胸を上下させる。
翡翠色の瞳が真っ直ぐにマコトを見下ろした。
「マコト……そんな色っぽい顔もできるんだな」
自分は一体いまどんな顔をしているんだろう。
疑問に思っている間に、唇が肌の上に降ってきた。
「すごく、えっちだ」
鎖骨の辺りに軽いキスを一つ落とし、一言。
低い囁き声にゾクゾクとした感覚が腹の内側に広がっていく。
今度は肌を吸うような強い口付け。
朱い痕が乱暴に残されていく。
「あ……っ!」
小さな嬌声が漏れる。
肌の上に痕を残していく刺激に感じてしまう。
「マコト……っ!」
下肢に彼の手が伸びる。
彼の指が直接マコトのモノを撫でた。
「ひゃっ!」
驚きに身体が跳ねる。
性感帯に直接触れられる刺激は思いの外強かった。
「ここをこんなにして、マコトはかわいいな」
先輩の手が緩くマコトのモノを握る。
そして上下に扱く。
「あっ、ああ……っ!」
大きな声が出てしまう。
こんな高い声が自分の喉から出るなんて思ってもみなかった。
彼はクチュクチュと音を立てながら上下させる。
「ああっ、だめ……ッ! せんぱい、でちゃう……っ!」
「ふうん、何が出ちゃうんだ?」
先輩は意地悪にとぼけて手を止めない。
キスが初めてなら他人の手で手淫をしてもらうのも初めてだ。
耐えられるわけもなく、マコトはあっさり達してしまった。
「あぁ…………っ!」
先輩の手が白濁で汚れてしまった。
それを目にして、急に羞恥心が湧き起こってくる。
なんて恥ずかしいことをしているんだろう、と。
だが先輩は手を止めることはない。
白濁に汚れた手をさらに後ろへと滑らせる。
「あっ、そこは……!」
後ろの孔に彼の指が触れた。
つぷりと先端が埋め込まれた。酔いのせいかそこはあっさりと指を飲み込んだ。
「ひゃあ……っ!」
先輩の指が内側で蠢く。
他人の指が体内で動く初めての感触に驚きの声が漏れる。妙な感覚だった。
「マコト、こっちに集中してろ」
「……っ!?」
驚きはそれでは止まらなかった。
先輩がマコトの中心を口に咥え込んだのだ。
「あぁぁ……っ!」
突然の口淫に快感が全身を駆け抜ける。
舌に絡め取られ、達したばかりで柔らかいそこがすぐに硬くなる。
前を舌で責められ、後ろを指で拡げられていく。
「ひゃうっ、あ……っ! あぁっ!」
すぐに後ろの違和感は頭の中から吹っ飛び、前を舐られる気持ち好さのことしか考えられなくなる。
あっという間に高められていく。
こんなにも我慢が効かなかっただろうかと思うくらい、短い時間で再び達しそうになる。
「だめぇ、せんぱい、で……っちゃうっ!」
言葉の途中でマコトは達し、口の中に出してしまっていた。
彼が口を離すと、ごくりと嚥下したかのように喉仏が上下したのが見えた。
(まさか呑み込んでない、よね……?)
酔いのせいではなく顔が熱くなっていく。
「マコト、そろそろよさそうだな」
「ひょえ?」
気が付けば後ろから指を引き抜かれていた。
その代わり、先輩がベルトを緩めてギルド員の制服を脱いでいく……。
寛げられたそこから先輩のモノが顔を覗かせた。
「……っ」
生唾を飲んでしまった。
硬く張り詰めたそれがマコトの後ろにあてがわれる。
「せん、ぱい……」
ドクドクと胸の鼓動がうるさい。
潤んだ瞳で彼を見上げる。
彼は真っ赤な顔でマコトを見下ろしていた。
「マコトが誘ったんだからな……!」
言葉と共にぐっと剛直が押し込まれた。
「……ッ!」
一瞬、息が詰まる。
熱いモノが腹の中を突き進んでくる。
互いの体温が身体の内側で混ざり合う。
「うぅ……」
剛直が肉壁を押し割る動きは途中で止まり、代わりに先輩はマコトの肌を唇で食むようにして軽い口付けを落とす。
圧迫感に強張った身体の緊張がだんだんと解けていく気がした。
「マコト、動くぞ」
断りと共に腰を打ち付けるピストンが始まった。
「あっ、あっ、あぁ……っ!」
身体の奥へと肉壁を擦り上げながら剛直を打ち付けられる。
彼が欲望のままに身体を貪っているのが分かる。
興奮と快感を綯い交ぜにして、身体の内側が掻き混ぜられる。
(先輩とセックスしちゃってる……!)
この状況は酒が見せた夢だろうか。
あのラース先輩が僕に興奮して腰を振ってるなんて。マコトは信じられない思いだった。
「はンっ、あ……っ! あぁっ! あ、せんぱい……ッ!」
パンパンと渇いた音を立てながら腰を打ち付けられ、マコトは嬌声をあげる。
その声に煽られたかのようにピストンが激しさを増す。
そして、一際したたかに剛直を最奥へ打ち付けられた瞬間――――
「…………ッ!!!」
頭の中が真っ白になった。
幸せな瞬間だった。
◆
朝、目覚めたら隣にマコトがいた。
そして二人は全裸だった。
そのことに気が付いたラースは顔が真っ青になった。
昨晩酒の勢いでマコトを抱いたことを思い出した。
喘いでいる時の彼の顔がこの上なく欲を煽るものだったことも。
(酒の勢いで抱くなんて最悪だ……!)
ラースは自己嫌悪に襲われた。
いくらマコトが誘うような言葉を口にしたからって、セックスしたいと直接口にしたわけではない。
純粋無垢で天然なマコトのことだ、うっかり偶然蠱惑的な台詞になってしまった可能性の方がよほど高い。
「ンう……」
マコトがゆっくりと瞼を開けた。
ラースが起き上がった気配に意識が覚醒したのかもしれない。
「ごめん……ッ!!」
ラースは全裸のままその場で土下座した。
それを見て彼はきょとんと首を傾げた。
「先輩、どうしたんですか……?」
「あ、いやだって……」
何を謝っているのか説明する前に、マコトは寝起きのしょぼしょぼとした瞳のまま柔らかく微笑む。
「先輩、昨日は幸せな一夜でした」
「マコト……ッ!?」
ふにゃりとしたその笑みに、昨晩の行為は完全に合意の上だったことを悟ったのだった。
「マコト、好きだ……! 絶対に幸せにしてやるからな……!」
ラースは衝動のまま彼を抱き締めた。
「えへへ、僕も先輩のことが好きです!」
こうして二人は結ばれたのだった。
ちなみに休み明け、二人の仲が進展したことは職場の皆に即バレした。
異世界の暦が一巡りし、この世界は新しい年を迎えた。
「新年会?」
「そう、今日は新年会だぞマコト! ご馳走だ!」
ラース先輩が口にした単語を、マコトがかけられた翻訳の魔術は『新年会』と訳した。
話を聞くと新年を迎えたお祝いをギルド員の皆でするらしい。
新年会の後は長期休暇に入るそうだ。この世界では新年のお祝いをした後に休むのだとか。
(ご馳走! 長期休暇!)
前の会社では大晦日でも元日でも関係なく働かされていた。
それがこの世界では一週間以上休めるらしい。
(あ、でも先輩に長い間会えなくなっちゃうんだな……)
ラース先輩と会えなくなることだけが唯一残念だった。
何はともあれ、新年会だ。ギルドは休業の看板を扉にかけ、代わりにたくさんの酒とご馳走とが中に運び込まれてパーティが始まったのだった。
「マコトくん、これ食べなさい」
「おうマコト、これも飲め飲め!」
何故だかギルド員さんたちがマコトにたくさんのお酒と食べ物を勧めてくれる。
「あ、ありがとうございます……!」
マコトは勧められるままにご馳走を口にし、酒を飲んだ。
お酒を飲むのは好きだけど、あまり酒に強い方ではない。
なんだかだんだんと、意識がぼんやりとしてきた。あ、まずい……。これはまずい酔い方だ。
マコトの意識が暗転した。
◆
「あらら、寝ちゃってるよ」
ギルド員たちが微笑まし気にテーブルに突っ伏したマコトを眺めている。
何を食べても「美味しい!」と新鮮な反応が返ってくるものだから、あれやこれやと餌付けされまくっていたのだが、遂に酔い潰れてしまったらしい。
テーブルの上の料理も少なくなってきてお開きの空気が漂ってきた頃だった。
「ラースくん、マコトくんを家まで送り届けてあげなさい」
「えっ」
「マコトくんの家を知ってるのはラースくんだけでしょう」
サブマスに頼まれてしまった。
確かにラースは仕事が少しばかり長引いてしまった日に"グリュっち"でマコトを家まで送ったことがある。今日も"グリュっち"があるから人間一人送り届けるくらい余裕ではあるのだが……。
「はぁい、分かりました」
まあ仕方ない。
すっかり周囲からマコトの世話係だと目されているこの状況も嫌ではなかった。
「おいマコト、起きるぞ」
「……」
彼に声をかけてみるが無反応だった。すっかり熟睡してしまっているみたいだ。
黒い前髪が顔にかかって、まるで子供みたいに見える。まったく可愛いやつめ。食べちまうぞ。
ラースは彼の身体に上着を被せ、肩を貸すようにして背負った。
「それじゃあ、マコトを送ってくるのでお先に!」
ギルド員の皆に挨拶をし、ラースはマコトと一緒にギルドを後にした。
外に出るとチラチラと大粒の雪が降っていた。
雪の結晶が見えそうなほどの大きな雪がゆったりと降りしきる。
だがのんびりと上を見上げている場合ではない。こんなところでゆっくりしていたらマコトが風邪を引いてしまうだろう。
ラースはベルトに取り付けていた根付を取り外し、広い空間でそれを天に掲げる。
「グリュっち、来い!」
声を上げると、たちまちのうちに根付が変形して大きくなり、目の前の空間に立派なグリフォンが現れた。上半身が鳥で下半身が獅子の美しい生き物である。
グリフォンが現れる魔道具はラースが一生懸命給料を貯めて買った高価な代物である。
グリフォンの背にマコトを乗せてあげ、ラースがその後ろに乗り手綱を握る。
「それ!」
翼を広げたグリフォンは二人を乗せて雪の下を舞った。
◆
「マコト、家に着いたぞ」
「……?」
ふわふわとした浮遊感が止まったと思ったら、先輩の声が聞こえた。
「寝るならベッドで寝ろよ。ほらマコト、家の鍵は?」
ぼんやりと夢見心地のまま懐から鍵を取り出し、差し出す。
ガチャガチャと音が響き、ドアが開いた。
「んぅ……」
「あーもう、よっこいせっ」
再び身体がふわりと浮く感覚。
どうやら先輩が抱き上げてくれたようだ。
なんだか子供の頃に戻ったようで、心地が良かった。
また一瞬、眠りに落ちていた。
気が付いたらベッドの上に下ろされているところだった。
先輩の手によって上着を剥ぎ取られる。
「ふう……ほーら、ベッドに着いたぞ。もうねんねしていいぞ」
先輩が優しい微笑みで見下ろす。
きっと先輩が酔い潰れた僕を家まで送ってきてくれたのだろう、とマコトはやっと察することができた。
「じゃあオレはもう帰るからな」
「あっ」
先輩が立ち上がって踵を返す。
そのことが急に惜しく感じられた。だってこれから長期休暇に入ってしばらく先輩に会えなくなってしまうのに。さみしい。
「せんぱいと、いっしょがいいです……っ」
気が付けば彼の服の裾を掴んでしまっていた。
「な……っ!?」
先輩が振り返る。何故だか真っ赤な顔をしていた。
「あのなぁ、お前なあ! 前々から思ってたけどそういうことするの無防備だぞ! 襲われたらどうする気だ!」
どうやら先輩は何か怒っているようだ。
酒で鈍っている頭では先輩が何に怒っているか分からない。
だから、ただ思ってることを口に出した。
「せんぱいになら、おそわれてもいいです……」
「ッ!?」
本気で先輩になら何されてもいいと思っていた。それが先輩の望むことならば。
カインに指摘された通りだった。マコトは先輩の特別になりたいのだ。
「そっ、そんなこと言ったら本当に襲っちまうぞ……!?」
先輩の顔がますます真っ赤になる。
そんな先輩の顔をまっすぐ見上げながら、マコトはこくんと頷いた。
「はい……それでいいです」
「く……っ!」
逡巡する素振りを見せる先輩。
ほんの一瞬の間――――彼が屈み込み、二人の唇が合わさった。
「っ」
ぬるりと舌が口内に入り込んでくる。
マコトはされるがままに舌による愛撫を受け入れる。
「んっ、は……っ」
息が、舌が、唾液が混ざり合う。
甘く、擽ったい。
就職してからというものずっと仕事に忙殺され続けていたマコトに恋愛をする時間などなかった。
これがファーストキスだった。
(せんぱい……っ、きもちい……っ)
舌での交わりを続けているうちに、ゾクゾクと背筋を駆け上がっていくような感覚に襲われるようになる。頭の中が蕩けていく。
ベッドが軋む音。先輩がベッドに上がってきたのだ。
マコトの身体を組み敷いて馬乗りになる。下半身に硬いモノが当たるのを感じた。
「……ッ」
突然感じた性的な刺激に、大きく息が漏れた。
そのままぐりぐりと下半身を押し付けられ続ける。
だが恐怖はない。マコト自身もその先を望んでいた。
自身の中心にも熱が集まっていくのを感じる。
下着の中が窮屈だ。
そのことを感じ取ったかのように彼の手がマコトのスラックスに伸びてくる。口付けを続けながら、乱暴に衣服を脱がせていく……下着も含めて。
素肌が空気に晒される。酔いで火照った身体が冷えて気持ち好かった。
「ん……ッ、はあ……っ」
舌が引き抜かれ、唇が離れていく。
マコトは大きく呼吸を繰り返し胸を上下させる。
翡翠色の瞳が真っ直ぐにマコトを見下ろした。
「マコト……そんな色っぽい顔もできるんだな」
自分は一体いまどんな顔をしているんだろう。
疑問に思っている間に、唇が肌の上に降ってきた。
「すごく、えっちだ」
鎖骨の辺りに軽いキスを一つ落とし、一言。
低い囁き声にゾクゾクとした感覚が腹の内側に広がっていく。
今度は肌を吸うような強い口付け。
朱い痕が乱暴に残されていく。
「あ……っ!」
小さな嬌声が漏れる。
肌の上に痕を残していく刺激に感じてしまう。
「マコト……っ!」
下肢に彼の手が伸びる。
彼の指が直接マコトのモノを撫でた。
「ひゃっ!」
驚きに身体が跳ねる。
性感帯に直接触れられる刺激は思いの外強かった。
「ここをこんなにして、マコトはかわいいな」
先輩の手が緩くマコトのモノを握る。
そして上下に扱く。
「あっ、ああ……っ!」
大きな声が出てしまう。
こんな高い声が自分の喉から出るなんて思ってもみなかった。
彼はクチュクチュと音を立てながら上下させる。
「ああっ、だめ……ッ! せんぱい、でちゃう……っ!」
「ふうん、何が出ちゃうんだ?」
先輩は意地悪にとぼけて手を止めない。
キスが初めてなら他人の手で手淫をしてもらうのも初めてだ。
耐えられるわけもなく、マコトはあっさり達してしまった。
「あぁ…………っ!」
先輩の手が白濁で汚れてしまった。
それを目にして、急に羞恥心が湧き起こってくる。
なんて恥ずかしいことをしているんだろう、と。
だが先輩は手を止めることはない。
白濁に汚れた手をさらに後ろへと滑らせる。
「あっ、そこは……!」
後ろの孔に彼の指が触れた。
つぷりと先端が埋め込まれた。酔いのせいかそこはあっさりと指を飲み込んだ。
「ひゃあ……っ!」
先輩の指が内側で蠢く。
他人の指が体内で動く初めての感触に驚きの声が漏れる。妙な感覚だった。
「マコト、こっちに集中してろ」
「……っ!?」
驚きはそれでは止まらなかった。
先輩がマコトの中心を口に咥え込んだのだ。
「あぁぁ……っ!」
突然の口淫に快感が全身を駆け抜ける。
舌に絡め取られ、達したばかりで柔らかいそこがすぐに硬くなる。
前を舌で責められ、後ろを指で拡げられていく。
「ひゃうっ、あ……っ! あぁっ!」
すぐに後ろの違和感は頭の中から吹っ飛び、前を舐られる気持ち好さのことしか考えられなくなる。
あっという間に高められていく。
こんなにも我慢が効かなかっただろうかと思うくらい、短い時間で再び達しそうになる。
「だめぇ、せんぱい、で……っちゃうっ!」
言葉の途中でマコトは達し、口の中に出してしまっていた。
彼が口を離すと、ごくりと嚥下したかのように喉仏が上下したのが見えた。
(まさか呑み込んでない、よね……?)
酔いのせいではなく顔が熱くなっていく。
「マコト、そろそろよさそうだな」
「ひょえ?」
気が付けば後ろから指を引き抜かれていた。
その代わり、先輩がベルトを緩めてギルド員の制服を脱いでいく……。
寛げられたそこから先輩のモノが顔を覗かせた。
「……っ」
生唾を飲んでしまった。
硬く張り詰めたそれがマコトの後ろにあてがわれる。
「せん、ぱい……」
ドクドクと胸の鼓動がうるさい。
潤んだ瞳で彼を見上げる。
彼は真っ赤な顔でマコトを見下ろしていた。
「マコトが誘ったんだからな……!」
言葉と共にぐっと剛直が押し込まれた。
「……ッ!」
一瞬、息が詰まる。
熱いモノが腹の中を突き進んでくる。
互いの体温が身体の内側で混ざり合う。
「うぅ……」
剛直が肉壁を押し割る動きは途中で止まり、代わりに先輩はマコトの肌を唇で食むようにして軽い口付けを落とす。
圧迫感に強張った身体の緊張がだんだんと解けていく気がした。
「マコト、動くぞ」
断りと共に腰を打ち付けるピストンが始まった。
「あっ、あっ、あぁ……っ!」
身体の奥へと肉壁を擦り上げながら剛直を打ち付けられる。
彼が欲望のままに身体を貪っているのが分かる。
興奮と快感を綯い交ぜにして、身体の内側が掻き混ぜられる。
(先輩とセックスしちゃってる……!)
この状況は酒が見せた夢だろうか。
あのラース先輩が僕に興奮して腰を振ってるなんて。マコトは信じられない思いだった。
「はンっ、あ……っ! あぁっ! あ、せんぱい……ッ!」
パンパンと渇いた音を立てながら腰を打ち付けられ、マコトは嬌声をあげる。
その声に煽られたかのようにピストンが激しさを増す。
そして、一際したたかに剛直を最奥へ打ち付けられた瞬間――――
「…………ッ!!!」
頭の中が真っ白になった。
幸せな瞬間だった。
◆
朝、目覚めたら隣にマコトがいた。
そして二人は全裸だった。
そのことに気が付いたラースは顔が真っ青になった。
昨晩酒の勢いでマコトを抱いたことを思い出した。
喘いでいる時の彼の顔がこの上なく欲を煽るものだったことも。
(酒の勢いで抱くなんて最悪だ……!)
ラースは自己嫌悪に襲われた。
いくらマコトが誘うような言葉を口にしたからって、セックスしたいと直接口にしたわけではない。
純粋無垢で天然なマコトのことだ、うっかり偶然蠱惑的な台詞になってしまった可能性の方がよほど高い。
「ンう……」
マコトがゆっくりと瞼を開けた。
ラースが起き上がった気配に意識が覚醒したのかもしれない。
「ごめん……ッ!!」
ラースは全裸のままその場で土下座した。
それを見て彼はきょとんと首を傾げた。
「先輩、どうしたんですか……?」
「あ、いやだって……」
何を謝っているのか説明する前に、マコトは寝起きのしょぼしょぼとした瞳のまま柔らかく微笑む。
「先輩、昨日は幸せな一夜でした」
「マコト……ッ!?」
ふにゃりとしたその笑みに、昨晩の行為は完全に合意の上だったことを悟ったのだった。
「マコト、好きだ……! 絶対に幸せにしてやるからな……!」
ラースは衝動のまま彼を抱き締めた。
「えへへ、僕も先輩のことが好きです!」
こうして二人は結ばれたのだった。
ちなみに休み明け、二人の仲が進展したことは職場の皆に即バレした。
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高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞

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嫌われ書籍化しないんですかー?
すみません💦
ラース先輩の「グリュっち、来い!」に、すべて持ってかれました~。
主人公カップルより、グリュっちが気になって仕方ありません。
グリュっちの出番は、あれだけですか?
高かったのに……( ̄A ̄lll)
感想ありがとうございます!
グリュっちは何回でも使えます。
ラースは通勤の時いつも使ってます。