冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました

野良猫のらん

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第二話 初めての受付

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「魔力補充しておくぜ」

 輝きが弱まってきた羽ペンをラース先輩が握ってくれる。
 そういう時先輩は決まって必ずマコトの手の上から握るのだった。
 毎回先輩の手の暖かさが伝わってきて気恥ずかしいけど、先輩は気にする素振りを見せない。きっとこの世界では気にする方がおかしいのだろう。

「ありがとうございます、先輩」

 こんな風に、一週間もするとマコトの羽ペンに魔力を補充するのはラースの役割ということに自然に決まっていた。マコトの隣のデスクに座っているのはラースだからそれが自然だろう。
 マコトもだいぶ仕事に慣れてきた。計算の仕事ばかりだったが、たしかめ算をしながらしっかり着実に仕事をこなしてきた。

 そんなある日のことだった。

「マコトくん、君に新しい仕事を任せたい」

 サブマスターがそう言ってきたのだ。

「新しい仕事ですか?」
「君はにこやかで感じがいいからね、冒険者用の受付をしてみないかい」
「受付……!」

 新しい仕事を任せてもらえることに嬉しさと不安を同時に覚える。
 その気持ちを汲み取ったかのようにラースがニカッと笑いかけてくる。

「マコトなら大丈夫だって! 強面の冒険者は時々いるけど、いつもの笑顔でいれば問題ない!」
「そ、そうですか……?」

 ラースに励まされると、途端に出来そうな気がしてくる。
 心がふっと軽くなった気がした。

「新しい仕事、やらせて下さい!」



 そういう訳でマコトは冒険者用の受付に座っていた。
 補佐役としてラースが側に付いていてくれている。

 受付の仕事は説明してもらった。
 冒険者用の受付の仕事は大きく分けて二つだ。

 一つはクエストの受注の承諾。
 冒険者がこのクエストを受けますと言ったのを記録して、クエスト内容が書かれた書類を渡すのだ。
 その際冒険者のランクがクエスト内容に反して低すぎる場合は忠告をする。
 冒険者が字を読めるとは限らないので、場合によってはクエスト内容を読み上げる必要がある。

 二つ目はクエスト完了の報告を受領すること。
 クエストの完了と完了した証を受け取って、報奨金を手渡すのが仕事だ。
 誤魔化して報奨金を騙し取ろうとする冒険者も時折いるが、それを見抜くのは受付の仕事ではない。もっと上の立場の人たちがやってくれるらしい。

 そういうわけで受付の仕事は比較的シンプルだった。
 ラース先輩も隣にいてくれるし、きっと大丈夫だ。マコトは気合を入れて冒険者の到来を待った。
 そして一人目の冒険者がやってきた。

「おい、クエスト完了したぞ」
「げ」

 隣のラース先輩が「げっ」って声を漏らした気がするけど、気のせいかな。

 やってきたのは世にも珍しい赤と青のオッドアイを持つ若い男性だった。
 いや、もしかすればこの世界では珍しくないのかもしれない。黒髪なのが共感を覚えた。

 彼は気だるげにマコトを睨め付けてきた。
 気圧されそうになったが、ぐっと堪えて笑顔を浮かべる。だって先輩がいつも通りの笑顔でいれば大丈夫だって言ってくれたから。

「はい、それではクエスト書とクエスト完了の証を提出して下さい」
「……!」

 マコトの笑顔に冒険者の彼は何故だか色違いの両目を丸くする。

「……おう」

 彼は小さく折り畳まれた紙片と革袋を受付のデスクに置いた。
 マコトは紙片を手に取り丁寧に広げていく。クエスト書だ。
 クエスト書を読む限り、どうやら彼は狼型の魔物を複数体討伐するクエストをこなしてきたようだ。討伐数に応じて報酬が上がる類のクエストらしい。
 彼の名前はカインというらしい。クエスト書に記された署名により知ることができた。
 続いてマコトは革袋を開けて中を確かめる。

「うわっ!」

 マコトは驚いた。
 中には狼の耳がたくさん入っていたからだ。討伐の証拠品だ。

「これを使え」

 ラース先輩が布製の手袋を渡してくれる。
 マコトは手袋を手に嵌め、恐々と狼の耳を数え出した。

「いち、にい、さん、しい…………」

 狼の耳を数え上げ、その数に応じた報酬の額を確かめる。
 数え終わると手袋を脱ぎ、報酬額通りの銀貨を冒険者の彼の前で数えながら受付に積む。

「はい、確認できました! クエスト完了おめでとうございます! こちら報酬の大銀貨五枚と銀貨八枚です」
「…………」

 カインは銀貨の山に手を伸ばそうとせず、マコトを真っ直ぐに睨み付ける。

「あ、あの、どうかしましたか……?」

 何か間違ってしまっただろうか。
 マコトは緊張する。

「おめー、オレ様のことが怖くねえのか?」
「え?」

 どういうことかとマコトは首を傾げてしまう。

「この目を見りゃ分かんだろ、オレ様は半魔だ。大抵の人間は怖がる。なのにおめーは平気そうじゃねえか、どうしてだ?」
「ハンマー……?」

 マコトは何を尋ねられたのか分からなかった。
 オッドアイなのにどうして怖くないのか、と聞かれているのだろうか。
 そんなこと言われても、前の世界ではもっと派手な格好の人がいくらでもいた。その点彼は髪も黒髪だしピアスもしてないし露出の多い格好をしているわけでもないしデスメタルなメイクで顔を覆っているわけでもないし、瞳の色が珍しいだけだ。
 ヤンキーっぽくて怖いと言えば怖いけれど、よくよく見れば高校生くらいの年齢の少年に見える。そんなにビビることはない。

「ええとその、その目はカッコいいとは思いますけど別に怖くないですよ?」

 ラース先輩にアドバイスされた通り、いつもの笑顔を浮かべる。

「ふーん……?」

 カインは報酬の銀貨の山を革袋に詰め始めた。
 そして、最後の一枚まで納め終わるとこう呟いたのだった。

「……おもしれー奴」

 そうして彼は去っていった。

「ラース先輩、今の僕の手順、間違いとかはなかっ……先輩? どうしたんですか?」

 今の受付に問題がなかったか尋ねようとしたら、隣の先輩は難しい顔をしていた。一体どうしてしまったのだろう。

「……マコト。お前、凄いな」
「はい??」
「いやその、マコトの仕事ぶりは思った以上だったっていうことだ!」
「ええ、やったー!」

 ラース先輩に褒めてもらえた、嬉しい。
 ご機嫌になったマコトはその日受付の仕事を無事に終えることができたのだった。
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