神殺しの英雄譚

でおりぼ

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第4話 出会い

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修行といっても、俺には何をすればいいのかさっぱりわからなかった。
そこでまず、街を出ることにした。
襲撃者の正体もわかったし、もうここにとどまる理由もない。

次の行き先は、最も過酷とされるアビシア大陸に決めた。そこは魔物のレベルも高いと聞いている。

危険だが、何か得られるものがあるかもしれないと思った。

道中について特に語ることはない。大したことは起きていないし、ここでは省こう。

……ん?どうやって金もないのに海を渡ったかって?
まあ、そこは……知らなくていいよ。
世の中には知らないほうがいいこともある。

さて、アビシア大陸についたときの話だ。

まず驚いたのは空が雲に覆われ、どこを見ても灰色一色だった。

どうやらこの大陸では晴れることはなく、永遠に曇りが続いているらしい。

昔、ここで五界覇神同士の戦争が起きたそうで、その魔力の衝突でアビシア大陸の魔力質が変わり、こうなってしまったとか。

だが、景色と同様に不気味だったのは、この場所に漂う独特の空気感だ。

うーん。うまく形容し難い。
まあ、気になったら実際に行ってみればいいよ。俺の言いたい事がわかるだろう。

さて、ここで俺が何をして鍛えたかというと——

正直なところ、特に何もしていない。

というのも、本当に何をすればいいのか分からなかったんだ。
とりあえず過酷な大陸に行けば、何か成長できるんじゃないかと、勢いでアビシア大陸に来てみただけだからな。

それでも、せっかく来たんだ。
何もしないのもどうかと思って、ただひたすら歩き続けることにした。

歩き続けていると、幾度か魔物が襲ってきた。狼のようだったり、ゴブリンに近かったり、様々な魔物がいた。

聞いていた通り、他の大陸の魔物とは違い、かなり強いし、数も多い。目の前に現れた魔物は三、四メートルほどの巨体で、動きも速い。

だが、どうやら俺の敵ではないらしい。
全て、軽く殺した。

此処でも生きていけそうだ、と少しほっとしたと同時に、焦りも感じた。

「最も過酷」と聞かされていたこの大陸が、俺にとっては、あまり脅威では無かったのだ。

じゃあ、一体どうやって強くなればいいんだろうか?

俺はそこら冒険者よりずっと強かった。剣の才能もあった。だから俺を鍛えてくれる大人もいない。

そしてアビシア大陸には「国」と呼べるほどの大きな街もなく、代わりに小さな町がぽつぽつと点在しているだけだ。ヘラクレスの情報収集をするにしても不向きだ。

俺は一ヶ月近くアビシア大陸を彷徨った。

ただひたすら歩き続けた。

歩いて、

歩き疲れたら休んで、

また歩いて、

腹が減ったら魔物を食べて、

また歩いて、

そんな毎日の繰り返しだ。

風呂もろくに入らず、衣服は泥と血で汚れ、髪はボサボサ。幸いにも病気にかかることはなかったが、今思えばただ運が良かっただけだろう。

変化も何もない無駄な毎日を過ごしていた。

実際、こんな生活を続けていたらヘラクレスになんか到底追いつけなかっただろう。

だが、ある日突然、転機が訪れた。



----------------


数週間が経過した。

成長を感じられない毎日に焦りと苛立ちが募り、俺は目につく魔物を片っ端から殺していた。ほとんど八つ当たりに近かった。

そんなある日、いつものように歩いていると、不意に耳に入る声があった。

「あ……ぅあ……」

声の先には、魔物に喰われかけている少女がいた。額には角があり、銀色の髪をしている。

魔族だ。
魔族にしては見た目が人族に近いが……

脚を怪我して動けない様子だ。
そばには、彼女と同じ角のある魔族と、人族らしき者の死体がそれぞれ一人ずつ転がっていた。おそらく、親だ。

俺は迷わず、魔物の首を一閃で切り落とした。魔物は重く倒れ、二度と動くことはなかった。

彼女の方に目を向けると、彼女は怯え、震えたまま、ただ絶望に満ちた目で動かなくなった魔物を見ていた。

その気持ちは、俺も理解できる。目の前で家族が殺され、次に自分も死ぬと悟った瞬間の恐怖ほど、救いのないものはない。

その場から立ち去ろうとした。

正直、このまま彼女を放置したら血の匂いに引き寄せられた魔物がやってきて殺されてしまうだろう。

だが、そんなの俺の知ったこっちゃない。
さっきは目の前で死なれては夢見が悪いと思ったから助けてやっただけだ。

ここからは助ける義理もない。
そう思っていたんだ。

すると彼女は怪我をした脚を引きずって追いかけてきた。

「まっ……て!」

彼女の震える声に立ち止まり、振り返ると、彼女は俺の手を握って、言った。

「たすっ……けてくれて……ひっ……ありがとう……!」

彼女は泣きながら言葉を絞り出した。

さっきは、肩まである髪の毛で顔があまり見えなかったが今度ははっきり見えた。

好き

そう思った。

俺の初恋は魔族の少女だった。


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