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1章 悪しき化け物は花火と化して咲いて散る

15話 不死鳥 VS 羅刹鳥

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 「!」
 
 僕は羅刹鳥にやられて意識を失っていた。
 
 慌てて起き上がると……。
 あれ?……傷が治っている。

 かなり深いところまで切り込まれた感覚があったのだけど……。
 そうか、これが鳳凰の回復力。
 不死鳥と呼ばれる訳か。

 
 ――ドン ドーン!――。

 
 屋上から激しい音が聞こえる。僕が倒れていたせいで先輩が応戦中なんだ。
 急がないと。

 
 ――――――

 
 屋上では羅刹鳥と先輩の激しい攻防が行われていた。

 「先輩!」
 
 「火鳥くん。よかった、回復したのですね」
 
 「コイツの相手代わります」
 
 「しかし……」
 
 「次は失敗しませんから」

 もう無様な戦い方はしない。
 気を失っていた時、さとりが教えてくれたことを思い出すんだ。

 「何か、ありましたか?ずいぶんと雰囲気が変わりましたね」
 
 「そうですか、相棒が戦い方を教えてくれたからでしょうか」
 
 「相棒?」
 
 ①まず、瞳力を100%発揮させたいなら右目を閉じて、さとりの眼だけで相手を見ること。
 2つの眼で相手を見ると、通常の眼でも相手を見ることになるので情報伝達が鈍くなるようだ。
 
 ②そして妖力を左目に集中して、さとりの眼を開眼させること。
 さとりの眼に妖力を流すことで、初めて本来の能力が発動する。通常の読心の術から、先読みの術が追加される。また幻術などの耐性が付与されるようだ。
 
 羅刹鳥が翼から無数の羽を僕に向けて発射した。

 向かってくる羽の軌道が前もって映像で見える。
 そして眼に写るものの動きがゆっくりとして見える。
 僕はすべての羽を躱し、いくつかは鳳凰の手で焼滅させた。

 「火鳥くん!」

 先輩は驚いている。
 でも一番驚いているのは僕だ。さとりの眼を開眼させるとこんなことになるのか。
 すごい。

 ③戦闘中は心を読むことを意識するのではなく、相手を見るに集中すること。
 戦闘には先読みの術を中心に使用し、動きを前もって把握しなければならない。これができれば相手の攻撃へ対処が早くなり未然に躱したり封じたりすることが可能なのだ。
 
 さとりはこの3番目が一番大事だと言っていた。

 今の僕は何秒か先の羅刹鳥の動きが見える。
 先読みの術、これは便利だ。

 「何があったかわかりませんが覚醒ってやつでしょうか?好都合です。少し作戦を立てましょう」
 
 「先輩、アイツは僕1人で」
 
 「火鳥くん、この屋上という条件は確実に相手に有利です。この状況を打破できる手段をあなたはまだ持っていないと思います」
 
 「火の玉ぶつけてやります……」
 
 「わかっています。トドメは火鳥くんにお任せします。ですからそこまでは手伝わさせてください」

 先輩は僕に小声で作戦を伝えてきた。
 羅刹鳥の動きを封じることを最優先とする作戦だ。今からしばらく僕1人で羅刹鳥と戦い、できるだけ気を引いて欲しいと言われた。

 問題ない。作戦は無視して今のうちに僕が1人で倒してやる!


 ――――――


 2階では妖狐と馬頭の氷結術がぶつかり合っていた。

 術同士のぶつかり合いで起きる衝撃が両者にダメージを与えている。
 
 「互いにお家芸同士では拉致があかんよな、衝撃波によるダメージも耐性の勝る我に分があるようだ」
 
 「へぇ、そうかい」
 
 「ふん。妖狐は元々火属性の化け物、異端のお前は氷属性の術が使えても完全な氷耐性では無いようだ。勝負あったな」
 
 「雑魚はよく話す」

 馬頭は大口を開けて、凍てつく息吹を吐き出した。
 妖狐は蒼い狐火を傘状に広げそれを防ぐ。
 防ぎ切った狐火は傘を裏返しにした様な形状となり、馬頭へ襲いかかり直撃した。

 「ふふふっ、やはり勝負がつかんな、狐よ」
 
 「そうね」
 
 「我はこの槍にてお前を撃つことにする、お前と違い我には体術、槍術があるものでな」
 
 「わたしが完全に不利ってことね」
 
 「哀れよな」
 
 「でもわたしにはこれしか無いから」

 妖狐は狐火を両手に灯した。先ほどより猛々しい狐火に見えた。

 「これで最後になるだろうから最大妖力の術を見せてあげる」
 
 「愚か者め、何をしようが無駄なことよ。せめてもの情け、命をかけたその一撃を正面から受けて進ぜよう」
 
 「自信家だねぇ」
 
 「ただし、受け切った後は我が槍でお前の首をはねる。良いな」

 妖狐はサッカーのスローインを投げる様なポーズをとった。両手に大きな蒼い狐火が球体化していた。
 
 「わたしの最後の一撃、受けてくれてありがとう」
 
 妖狐は狐火を馬頭に向かって投げた。

 「敵ながら勇敢であった。せめて苦しまず一振りで首を切り落としてやろう」

 氷花の狐火は馬頭に直撃した。

 「ギィヤヤヤヤヤァァァァ!イヤヤヤヤァァァァー!!」

 馬頭は断末魔の叫びをあげている。
 床に倒れ込み、蒼い炎に包まれながらノタウチ回り叫び続けた。
 
 「アアア、アツイィィィー!」

 妖狐は馬頭の落とした槍を拾い上げて近づいた。

 「誰が氷結術しか使えないって言ったの?バカじゃない。あれが火炎術って気付きもしないでまともに喰らってさ」
 
 「苦しそうだから介錯してやるよ」

 そう言うと、妖狐は手にした槍で馬頭の首をひと突きして殺した。
 
 「君の最後は傑作だったよ」
 
 妖狐は意地の悪い笑みを見せた。
 
 「さて屋上に移動したか……わたしも向かうとするかね」


 ――――――

 
 羅刹鳥が叫びながら夜空を羽ばたく。
 
 僕は炎を羅刹鳥に投げ飛ばしているが、先読みの能力で面白いくらい当たっている。
 このまま勝負を決められるのではないか?

 「痛えなぁ!クソボケがよぉ!」
 
 羅刹鳥は翼を倍ほどの大きさに広げ、力強く羽ばたいた。
 炎が掻き消されてしまう。
 もっと集中して強力の炎を……。
 ナイフのような無数の羽にも注意が必要なため、溜めの時間が作れない。
 
 四方八方に素早く飛び回り遠距離攻撃を仕掛けてくる羅刹鳥は、攻撃に溜めが必要な僕には相性が悪い。
 戦闘経験の差か……。

 先読みの術を使い、相手の攻撃を躱しながら攻撃に転じる戦い方。
 妖力量の問題はまったく無いが、僕のスタミナが続かない。

 息も吐かせぬ連続の攻撃に膝が笑う。

 「しまった!」
 
 足を取られ跪いてしまった。
 
 「調子に乗り過ぎだ!カスが!」
 
 放たれた無数の羽が僕の全身に刺さった。

 「くっ……くそ」
 
 「勝負あったなぁ」

 身体を起こせ!とにかく立ち上がらないと……。
 羅刹鳥は僕のそばに着地し、あざ笑った。

 「さとりの眼、いただくとするぞ。もう一個の目玉は俺が喰ってやるからよ」
 
 羅刹鳥の嘴が僕の眼に近づけた。
 その時。
 
 「あ、あれっ、う……動けねぇ?」

 「影留めの術」
 
 「はぁ?」
 
 「火鳥くん、よく頑張りましたね」

 羅刹鳥の影に、錫杖が刺さっている。
 先輩がいなければ殺されていたかもしれない。
 やはり僕1人では勝てなかっただろう。
 
 先輩から3秒ほどの時間、羅刹鳥を1箇所に止まらせるように言われていた。それができれば、影留の術で完全に行動を封じることができると。
 
 1人では勝てなかったけど作戦は遂行できたようだ。
 僕は身体に刺さっている羽を焼失させて起き上がった。

 先輩は羅刹鳥の影を踏み、錫杖を抜いて翼の影を錫杖の先端で切り裂いた。

 「グワアァァァー!痛てぇぇぇー!」
 
 「影写しの術です」
 
 影写しの術。
 相手の影を攻撃することで、そのまま相手のその部分にダメージを写すことができる。

 「火鳥くん。本意では無いでしょうが、彼の動きは完全に封じました。万が一影留を解いても、翼がもう使い物にはなりません」
 
 翼に大きな切口ができ出血している。

 「仇をどうぞ」

 僕は右手に渾身の炎を宿した。
 イメージは全てを焼き尽くす炎。
 逆巻く炎を手に僕は羅刹鳥にゆっくり近づいた。
 
 「まっ待てい、俺を殺せば組織が動くぞ。人間界との大戦争が始まるぞ、いいのか?」
 
 「……」
 
 「お前らのせいで大量の人間や仲間の化け物が死ぬのだぞ!」
 
 「…………」
 
 「百目が動くぞ!百目が動けばお前らなんぞ……」

 僕は嘴をしゃべれないように握りしめた。

 「人殺しといて助かりたいってさ。人間舐めすぎだ」

 瞬間発火するように羅刹鳥は爆炎に飲まれた。
 叫ぶことも許さず、焼き続けた。

 
 今、仇を果たせた。


 ――――――


 「目的は達成といったところでしょうか」
 
 「はい。先輩、本当にありがとうございました」
 
 「いえ、お手伝いができてわたしとしても良かったです」

 先輩としばらく燃え続ける羅刹鳥を眺めた。

 「氷花のもとへ向かいましょう。彼女もこちらへ向かっています」
 
 「はい」

 僕たちが背を向けて、妖狐のもとへ向かおうとした時。

 「不愉快千万だ……どいつもこいつも」

 燃え続ける羅刹鳥の額の目から、飛び出すように百目が現れた。
 
 「百目?どうしてここに!」
 
 「こいつが百目。すでにダメージ受けてませんか?」

 百目は羅刹鳥を見ている。
 
 「牛頭馬頭もやられた?どうなっている。地獄の門番ですよ……」
 
 「喧嘩を売った相手が悪かったですね。それにあなた、土蜘蛛と接触しましたね?」
 
 「!」
 
 「なんとか逃げ切ったという感じですか」
 
 「黙れ!とんだ誤算だ。お前らごときに、私がぁあ!」
 
 百目は殺意全開だ。憤怒、憎悪を僕たちに向けて放っている。
 わかる。
 こいつは強い。
 羅刹鳥とはレベルが違う強さを持っている。危険な強さだ。

 全身の目から噴き出している威圧感。
 傷を負っている状態でもこの圧力だ。

 「火鳥くん避けて!」

 気を抜いていた。妖力を抑え、さとりの眼を閉眼していたから反応に遅れがあった。
 百目の手から発せられた稲妻が僕を襲った。

 「火鳥くん!」
 
 先輩が叫んと同時に、完全に稲妻が直撃した。
 
 
 「やれやれ、油断大敵だよ。バックには百目がいるって知ってたんだからさ」

 狐火が壁のように広がり僕を守っていた。
 
 「女狐か!」

 ゆっくりと歩きながら妖狐が僕たちの元へやってきた。
 
 「氷花さん」
 
 「鳥の方は無事片付いたんだろう?」
 
 「はい」
 
 「それじゃ、こいつも片付けて早く帰ろうじゃないか」

 妖狐は僕の横へ立ち背中に手を置いた。

 「さぁ、行くよ」
 
 「はい」

 3人が揃い、今から最後の戦いが始まる。
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