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第1章
織田家の毒味役 二話
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「あなたのお仕事についてご説明いたします。御賄から食事が届き、それを御膳奉行の立会いのもと口にして頂くというものです。」
「は、はい」
「あなたが食して問題ないと判断されれば、その料理は信長様のもとへ運ばれます。」
光秀様はいたって事務的な態度で私に接しつつ、時折射るような視線を投げかけてくる。
(きっと、信長様の家臣の中でも位の高い人なんだろうな)
そう思わせるだけの静かな迫力を、光秀様は放っていた。
光秀様の案内で、侍屋敷に到着。
「あなたの同居人も先日仕官したばかりです。少々気性が荒いですが、素直そうな漢でしたよ」
そう言われて初めて、はたと気づく。
(住むところまで気が回っていなかった…私、見知らぬ男と相部屋ってこと!?)
「さ、着きました」
光秀様が長屋の中の一つの戸をスッと開けた途端、広くないその部屋の中にいた男が慌ててひれ伏せる。
「今日からこの男と相部屋となる。よろしく頼むぞ」
「はい、承知しました」
そういって、同居人が緊張した面持ちで顔をあげた瞬間、
(えっ!?)
私はびっくりして息をのんだ。
なんと、相部屋になる相手は、先日、戦へ送り出した犬千代だったのだ。
「吉乃..っ」
「ん? 今、なんと言った?」
「…い、いえ。なんでもありません。」
光秀様は一瞬怪訝そうに眉をしかめる。
「では伊吹、また夕刻、城で」
そう言って、長屋を後にする。
(絶対怪しまれてた!大丈夫かなぁ……)
光秀様が去ったのを見計らい、私たちはヒソヒソと話し始める。
「どうしてここに犬千代が?」
「なんでお前がこんなところにいるんだ」
厳めしく詰め寄る犬千代を前に、私の心は不思議と癒されていく。
犬千代に会えたことで、不安と緊張から一気に解放されたのかもしれない。
「おい、何ぽかんとしてんだよ。説明しろ」
「わかった。説明するよ」
京の町で起きた出来事、ここへ伊吹として来るに至った事情をすべて話終えると、犬千代が眉をしかめる。
「伊吹の代わりに……毒見役になっただと?」
「だってそんな仕事、伊吹にさせられないもん」
「だからって男装して信長様に仕えるなんて無謀すぎるだろ」
犬千代は物凄い剣幕で叱りつけてきた。
「でも……」
「でも?」
「ここに犬千代がいてくれて正直すごくほっとしてる」
「……」
伊吹の身代わりとなるべく尾張へやってきたものの、城へ入る時の私の足は小刻みに震えていた。
弱気になりかけていたところで犬千代と会えて、勇気を取り返すことができた気がした。
(絶対、生きて帰るんだ……!)
「は、はい」
「あなたが食して問題ないと判断されれば、その料理は信長様のもとへ運ばれます。」
光秀様はいたって事務的な態度で私に接しつつ、時折射るような視線を投げかけてくる。
(きっと、信長様の家臣の中でも位の高い人なんだろうな)
そう思わせるだけの静かな迫力を、光秀様は放っていた。
光秀様の案内で、侍屋敷に到着。
「あなたの同居人も先日仕官したばかりです。少々気性が荒いですが、素直そうな漢でしたよ」
そう言われて初めて、はたと気づく。
(住むところまで気が回っていなかった…私、見知らぬ男と相部屋ってこと!?)
「さ、着きました」
光秀様が長屋の中の一つの戸をスッと開けた途端、広くないその部屋の中にいた男が慌ててひれ伏せる。
「今日からこの男と相部屋となる。よろしく頼むぞ」
「はい、承知しました」
そういって、同居人が緊張した面持ちで顔をあげた瞬間、
(えっ!?)
私はびっくりして息をのんだ。
なんと、相部屋になる相手は、先日、戦へ送り出した犬千代だったのだ。
「吉乃..っ」
「ん? 今、なんと言った?」
「…い、いえ。なんでもありません。」
光秀様は一瞬怪訝そうに眉をしかめる。
「では伊吹、また夕刻、城で」
そう言って、長屋を後にする。
(絶対怪しまれてた!大丈夫かなぁ……)
光秀様が去ったのを見計らい、私たちはヒソヒソと話し始める。
「どうしてここに犬千代が?」
「なんでお前がこんなところにいるんだ」
厳めしく詰め寄る犬千代を前に、私の心は不思議と癒されていく。
犬千代に会えたことで、不安と緊張から一気に解放されたのかもしれない。
「おい、何ぽかんとしてんだよ。説明しろ」
「わかった。説明するよ」
京の町で起きた出来事、ここへ伊吹として来るに至った事情をすべて話終えると、犬千代が眉をしかめる。
「伊吹の代わりに……毒見役になっただと?」
「だってそんな仕事、伊吹にさせられないもん」
「だからって男装して信長様に仕えるなんて無謀すぎるだろ」
犬千代は物凄い剣幕で叱りつけてきた。
「でも……」
「でも?」
「ここに犬千代がいてくれて正直すごくほっとしてる」
「……」
伊吹の身代わりとなるべく尾張へやってきたものの、城へ入る時の私の足は小刻みに震えていた。
弱気になりかけていたところで犬千代と会えて、勇気を取り返すことができた気がした。
(絶対、生きて帰るんだ……!)
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