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序章
吉乃という少女 5話
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「うるさい…」
倒れ込むチンピラは痛がっているが、血は流していない。
(峰打ち…?)
(常連さんって一体…?)
店内が水を打ったように静まり返る中、眼帯の常連さんは残る1人のチンピラに向き直る。
「・・・」
チンピラは震える手で刀を抜くも、相手は無言の追力に負けたのか、闘う前にその場を逃げ出した。
そして逃げる途中、廊下で倒れていた私に刀を振り上げてくる。
「どけぇ!」
その時、入口から入ってきた男が私の後ろから手をのばすとチンピラの手を掴む。
「いててて…!」
手首を強く握られ、チンピラは刀を床に落とした。
突然現れた男の顔を見上げるが、その男はどうやらやっつけたチンピラになど興味はない様子。ただ、まっすぐに眼帯の常連さんの方を見つめているのだ。
「騒がしいと思えば、独眼竜が騒いでいたか」
(独眼竜…?)
男は眼帯の常連さんを見つけ、なぜか目を輝かせている。
「おい、独眼竜って奥州の伊達政宗の事じゃないか?」
「・・・真田が何の用だ?」
(お友だち…なのかな?)
と、次の瞬間、男はチンピラを軽々と常連さんに向けて投げつける。
「いざ勝負!」
飛んできたチンピラを、常連さんは峰打ちで打ち落とす。
(え…?)
どうやら2人は『お友だち』ではなかったようだ。彼らの間で転がるチンピラを気にも留めず、2人はじっと睨み合う。
(決闘が始まるの!?)
「得物は」
「いらん」
そういって、男は手のひらをこぶしで打つ。武器を使わずとも闘えると言われたのが癪に障ったのか、眼帯の常連さんはムッとしたように刀を返す。
(まずい…このままじゃお店が壊されちゃう!)
「お止めください!」
私は咄嗟に男の腕にしがみついた。
「!?な、何をする…」
「この店を守るのは私の使命なんです!」
「・・・っ」
男は思いのほか動揺し、頬を染める。気付くと、眼帯の常連さんの姿はもうそこにはなかった。
私は掴んでいた手を離し、小さく一礼をする。
「失礼をして申し訳ありません。私の身を助けてくださったというのに」
「いや、こちらこそすまん…勝手に店に入っ…たりして…」
男は視線を泳がせぶっきらぼうに謝る。
そうしてようやく店内が普通に戻った。
「お騒がせしてすみませんでした」
お客さんに謝りながら荒れた店の片付けを始めると、馴染客が手伝ってくれる。
私はバラバラに壊れてしまったかんざしに目をやる。
「・・・」
たまらない思い出、一つ、また一つとかんざしの欠片を拾い集めていくも、飾りの部分の一部がどうも見つからない。懸命に探していると、先ほどの男が声をかけてくる。
「もしかして…これか?」
そいって差し出したのは、まさに探していた部分だった。
「ありがとうございます…」
両手で受け取りお礼を言うと、照れくさそうに目をそらす。
「壊れちまった…みたいだな」
ぶっきらぼうにそう言うと、男は早足に去っていった。
私は手のひらの上で壊れたかんざしを元の形どうりに並べてみた。すべての欠片が揃ったものの、見るの無残なその姿に胸がしめつけられる。
「おまえさん、それおやじが祭りで買ってくれたやつなんだろう?」
馴染客に言われ、思わず涙がこみあげてくる。
「・・・すみません」
涙を見せまいと、私は廊下を駆け出した。
「姉ちゃん…!」
「待ちな、伊吹」
家族の思いを背に感じながら、私は店を飛び出したのだった。
倒れ込むチンピラは痛がっているが、血は流していない。
(峰打ち…?)
(常連さんって一体…?)
店内が水を打ったように静まり返る中、眼帯の常連さんは残る1人のチンピラに向き直る。
「・・・」
チンピラは震える手で刀を抜くも、相手は無言の追力に負けたのか、闘う前にその場を逃げ出した。
そして逃げる途中、廊下で倒れていた私に刀を振り上げてくる。
「どけぇ!」
その時、入口から入ってきた男が私の後ろから手をのばすとチンピラの手を掴む。
「いててて…!」
手首を強く握られ、チンピラは刀を床に落とした。
突然現れた男の顔を見上げるが、その男はどうやらやっつけたチンピラになど興味はない様子。ただ、まっすぐに眼帯の常連さんの方を見つめているのだ。
「騒がしいと思えば、独眼竜が騒いでいたか」
(独眼竜…?)
男は眼帯の常連さんを見つけ、なぜか目を輝かせている。
「おい、独眼竜って奥州の伊達政宗の事じゃないか?」
「・・・真田が何の用だ?」
(お友だち…なのかな?)
と、次の瞬間、男はチンピラを軽々と常連さんに向けて投げつける。
「いざ勝負!」
飛んできたチンピラを、常連さんは峰打ちで打ち落とす。
(え…?)
どうやら2人は『お友だち』ではなかったようだ。彼らの間で転がるチンピラを気にも留めず、2人はじっと睨み合う。
(決闘が始まるの!?)
「得物は」
「いらん」
そういって、男は手のひらをこぶしで打つ。武器を使わずとも闘えると言われたのが癪に障ったのか、眼帯の常連さんはムッとしたように刀を返す。
(まずい…このままじゃお店が壊されちゃう!)
「お止めください!」
私は咄嗟に男の腕にしがみついた。
「!?な、何をする…」
「この店を守るのは私の使命なんです!」
「・・・っ」
男は思いのほか動揺し、頬を染める。気付くと、眼帯の常連さんの姿はもうそこにはなかった。
私は掴んでいた手を離し、小さく一礼をする。
「失礼をして申し訳ありません。私の身を助けてくださったというのに」
「いや、こちらこそすまん…勝手に店に入っ…たりして…」
男は視線を泳がせぶっきらぼうに謝る。
そうしてようやく店内が普通に戻った。
「お騒がせしてすみませんでした」
お客さんに謝りながら荒れた店の片付けを始めると、馴染客が手伝ってくれる。
私はバラバラに壊れてしまったかんざしに目をやる。
「・・・」
たまらない思い出、一つ、また一つとかんざしの欠片を拾い集めていくも、飾りの部分の一部がどうも見つからない。懸命に探していると、先ほどの男が声をかけてくる。
「もしかして…これか?」
そいって差し出したのは、まさに探していた部分だった。
「ありがとうございます…」
両手で受け取りお礼を言うと、照れくさそうに目をそらす。
「壊れちまった…みたいだな」
ぶっきらぼうにそう言うと、男は早足に去っていった。
私は手のひらの上で壊れたかんざしを元の形どうりに並べてみた。すべての欠片が揃ったものの、見るの無残なその姿に胸がしめつけられる。
「おまえさん、それおやじが祭りで買ってくれたやつなんだろう?」
馴染客に言われ、思わず涙がこみあげてくる。
「・・・すみません」
涙を見せまいと、私は廊下を駆け出した。
「姉ちゃん…!」
「待ちな、伊吹」
家族の思いを背に感じながら、私は店を飛び出したのだった。
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