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序章
吉乃という少女 2話
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「お待たせいたしました、仕出しに参りました……!」
(…あれ?)
仕出し先の料亭に到着するも、何やら台所がいつもより慌ただしく、従業員の顔つきにも余裕がない。
「何かあったんですか?」
近くに来たお運びさんに訊いてみると、そっと耳打ちされる。
「私達には誰だか知らされていないけど、えらく有名な武将が来ていらしてるらしいのよね」
(有名な武将…?)
考えたところで、何人かの武将の名前しか頭に浮かばないし、名前が分かったとしても彼らの顔は知る由もない。武将たちの似顔絵を見る機会はあるものの、描く人によって別人のように違うため、本物の武将と遭遇したとしても気づく事は出来ないだろう。
「あら!いいところに来てくれたわ!」
女将に肩を叩かれる。
「はいっ?」
「今日は特別なお客様をもてなさないといけないのに人手が足りないの。お運び、手伝ってくれないかしら?」
(いつもお世話になってる料亭だしな……)
「わかりました!」
私はお手伝いを引き受ける事にした。
お膳運びをしていると、廊下で愛想のいい男性が声をかけてくる。
「それは、あの部屋の料理ですか?」
ちょうど奥座敷に料理を運ぼうとしていたところだったので、
「はい、そうです!」
元気よく答えると、男性はフッと微笑む。
「ちょうど良かった。これ、ひとつ食べてもらえますか?」
そういうと、男性は何を思ったか私が持っている膳から煮物をつまんで私の口元へ持ってくる。
(え?)
戸惑うことも、両手が塞がっている状態では抗うこともできない。
「はい、口開けて」
やむをえず、口を開こうと思ったその時だった。
横から突然ひょこっと男が現れたかと思うと、男は男性の腕を掴んで引き寄せ、煮物をパクりと食べてしまう。
「あ…」
「うっ!」
煮物を口に入れた途端、男はそう言って顔をしかめる。
「……秀吉さん?」
「うまい!」
すぐに顔をほころばせ煮物を呑み込んだ。
「あーなんだろう、懐かしい味っていうの?」
「家康さんも食べてみなよ!」
「……じゃ、大丈夫か」
(え!大丈夫って……)
男性は私の抱える御膳から一番上のものだけを取り、奥座敷へ向かっていく。
(もしかしてあの人、ニコニコしながら私に毒味させようとしてたんじゃ)
戸惑っていると、煮物を食べた男はたしなめるように言う。
「女の子なんだから毒味とかしちゃだめだよ!ほんっとに危ない時あるんだから」
(やっぱり私、毒味のために使われそうになってたんだ……)
私に代わり、煮物を食べた男は残りの膳を奥座敷に運んでくれた。
(…あれ?)
仕出し先の料亭に到着するも、何やら台所がいつもより慌ただしく、従業員の顔つきにも余裕がない。
「何かあったんですか?」
近くに来たお運びさんに訊いてみると、そっと耳打ちされる。
「私達には誰だか知らされていないけど、えらく有名な武将が来ていらしてるらしいのよね」
(有名な武将…?)
考えたところで、何人かの武将の名前しか頭に浮かばないし、名前が分かったとしても彼らの顔は知る由もない。武将たちの似顔絵を見る機会はあるものの、描く人によって別人のように違うため、本物の武将と遭遇したとしても気づく事は出来ないだろう。
「あら!いいところに来てくれたわ!」
女将に肩を叩かれる。
「はいっ?」
「今日は特別なお客様をもてなさないといけないのに人手が足りないの。お運び、手伝ってくれないかしら?」
(いつもお世話になってる料亭だしな……)
「わかりました!」
私はお手伝いを引き受ける事にした。
お膳運びをしていると、廊下で愛想のいい男性が声をかけてくる。
「それは、あの部屋の料理ですか?」
ちょうど奥座敷に料理を運ぼうとしていたところだったので、
「はい、そうです!」
元気よく答えると、男性はフッと微笑む。
「ちょうど良かった。これ、ひとつ食べてもらえますか?」
そういうと、男性は何を思ったか私が持っている膳から煮物をつまんで私の口元へ持ってくる。
(え?)
戸惑うことも、両手が塞がっている状態では抗うこともできない。
「はい、口開けて」
やむをえず、口を開こうと思ったその時だった。
横から突然ひょこっと男が現れたかと思うと、男は男性の腕を掴んで引き寄せ、煮物をパクりと食べてしまう。
「あ…」
「うっ!」
煮物を口に入れた途端、男はそう言って顔をしかめる。
「……秀吉さん?」
「うまい!」
すぐに顔をほころばせ煮物を呑み込んだ。
「あーなんだろう、懐かしい味っていうの?」
「家康さんも食べてみなよ!」
「……じゃ、大丈夫か」
(え!大丈夫って……)
男性は私の抱える御膳から一番上のものだけを取り、奥座敷へ向かっていく。
(もしかしてあの人、ニコニコしながら私に毒味させようとしてたんじゃ)
戸惑っていると、煮物を食べた男はたしなめるように言う。
「女の子なんだから毒味とかしちゃだめだよ!ほんっとに危ない時あるんだから」
(やっぱり私、毒味のために使われそうになってたんだ……)
私に代わり、煮物を食べた男は残りの膳を奥座敷に運んでくれた。
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