いいんだよ

歌華

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心の友

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障がい者の会を終え解散し昌太郎と琉生で遅めの昼食を近くのラーメン屋で摂っていた。昌太郎も琉生もその店のことは知らなかったが紅葉のお父さんが紅葉と良く行くんだって話を聞いて何となくお腹が空いていたが決めてだが暖簾のれんに「おいで~」と言われている気がして寄ってしまった。
「美味かった!」
「うん!美味しかった!」
ラーメンを大盛りにして二人で完食した。味噌ラーメンで味噌のコクが良くてこってりがまた癖になると言うか。
「父さん」
「どうした?」
「俺、学校辞めて今は治療に専念しよう思う」
そういった時昌太郎は何も言わずに二人並んで歩いていたから琉生の前に来て。
「琉生が決めたんだ、人生は長いでも、人生と言う道は自分で切り開くものなんだ。今はそうしても良い勉強はいつでも出来るんだから!琉生の好きにしたら良いんだよ」
結構言い回しが回りくどかったが、退学することを了承して貰った。
「いいんだよ。琉生。琉生は琉生のままでそのまま生きてさえ居てくれればいいんだよ」
そう言って頭を撫でてくれた。久しく頭など撫でられたことの無かったが、久々の昌太郎のてのひらは大きく温かかった。
「俺さ焦ってたんだよ・・・・・・早く学校に戻らなきゃって」
「うん」
「みんなのために善くならないとって焦れば、焦るほどどんどん具合悪くなって行って・・・・・・紅葉さんや凛さんが教えてくれたんだ」

『今まで頑張ってきたんだから、少しくらいブレーキ踏んでも誰も何も言わない』

「その言葉聞いて安心した。紅葉さんや凛さんは俺よりも、もっと辛い思いしているのにその時一番欲しい言葉をくれたんだよ」
「実は俺も佐川さんに言われたんだ」

『子供にもちゃんと子供の意思がある自分の思い通りにならないからと言って、自分の考えや期待を背負わせてしまうのはその子供に取ったら呪いなんだ』

「自分も紅葉くんにたくさん傷つけるようなことを言ってしまったかららしい」
昌太郎が琉生に呪いを掛ける手前で諭され琉生の言葉を受け入れることが出来たのは佐川のこの助言があったからだ。
琉生は必ず善くなってくれる。そしてちゃんと仕事に就いて自立して恋人が出来て、結婚し家庭を持って孫が出来て。
自分のレールの上を琉生の事を見ずに勝手にレールのみ敷くところだった。琉生の意思を考えず。そしてそれが出来ない人間はダメとか、親不孝とかそんな考えがあって。琉生が病気になったのは琉生の精神的もろさだと思った。琉生の優しさに気付けずそれを伸ばそうともせず可能性と言うものをやみほうむるところだった。

琉生は優しい自慢の息子だ。

今はこのままで良い何年かかっても琉生はその優しさを捨てずにしっかり病気と向き合っていてさえくれれば何をしても縁を切るわけではないと思った。
勿論この事は娘の杏子にも当てはまる。杏子もしっかり自分の事も他の誰かの事も想える優しい子なんだ。

生まれてきてくれてありがとう

琉生を車の隣に乗せて帰りの道中そう思った。もう親バカとののしられてもそりゃ仕方ない自分の子供達が宝物なんだもの!そう胸を張れた。

***

夕ご飯になり家族が食卓を並べている。
「母さん、姉ちゃん聞いて欲しいことあるんだけど・・・・・・」
「なに?」
「?」
斜め向かえに座っていた咲愛が琉生に視線を合わせて、隣の杏子も琉生を見る。
「俺、学校辞めようと思う!今日父さんと話したけど。今は治療を専念することにした」
「琉生はそれで良いの?後悔はない?」
咲愛が琉生に問う。
「後悔は沢山ある。でも今ここでずるずる休学を延ばしても焦りが出てしまう。俺はそっちの方が良くないって思う。今日会った人生の先輩は意思さえあれば勉強はいつでもどこでも出来る!そう教えてくれただからなんだけど」
「そっか」
「分かって欲しい。俺はもうどうしたら良いか分からない、でも今の状態が良くないのは分かる。状況変えないと良くならないのも分かったんだ!」
「琉生の人生だもん琉生が決めれば良いんじゃない?」
杏子が隣でニコニコと喋る。
「そうね、琉生の体は琉生が一番分かっているからね」
「あ、ありがと」
反対されるかと思いそれが杞憂に終わったのは良いことだがまぁ助かったのはある。
「は、反対しないの?」
「なんで?琉生がそうしたいんでしょ?」
「そうよ?それにあなたは同意なんでしょ?」
「そうだよ。今日は琉生と貴重な話しもしてきたんだ色々な話を聞けて凄く為になった!」
「いいなぁ~」
「どんな話し?教えて」
「あのなぁ~・・・・・・」

あぁ・・・・・・俺はここに居てもいいんだ

「ご馳走さま。俺、佑樹に電話掛けてくる」
「はーい」

部屋に戻りスマートフォンを持つ手が憂鬱だったが親友くらいには言っとかないとな。とグッと目を閉じる色々今まで話したことが走馬灯の様に頭を巡る。それを思い出すと辛くはなったが、もう佑樹と自分の住む場所せかいは違うんだと一別するしかなかった。それは悲しかったが仕方ないとも思った。
いつかいつかきっともっと症状が緩和されて善くなったらきっと言おう。

親友なんだ

そう言おうと思った。多分辞めるとは思ってないだろうから、否定される。だがそう思った頃には電話で呼び出ししていた。

『もしもし!琉生っ、どうしたっ?』
「佑樹、その俺・・・・・・えっと、高校辞めようと思ってる」
語尾がモゾモゾと濁った気がしたが言葉に詰まっている佑樹が聴こえては居たことを実感させた。
『琉生が決めたんだよな?』
「そうだよ」
『なら良いじゃないか?』
反対されたり否定されたりすると思っていたから思いの外すんなり受け入れてくれて言葉が出てこなくなった。
『ん?どうした?』
「いや、なんでもない。反対されると思ったから

『う~ん。本当なら辞めて欲しくないし。一緒に卒業したかったけど、ここのところ電話無いから俺思ったんだよな・・・・・・電話寄越す余裕もないほど俺が悩ませてしまっているんじゃないかな?って』
「そんなこと・・・・・・」
図星だ。学校の話されるのも嫌だったし。周りに気を配る余裕がなかったのも事実だ。
でも今周りの事と自分を確立させようと思ったから。言い出せたんだ。大丈夫。否定されてもこの考えは揺るがない。
『琉生!』
「なんだ?」
『琉生は琉生のペースでここまで来ればいいよ、追い付かないでも良い。琉生はしっかりやっていることは俺は分かっているから』
そう言われ目の奥が熱くなった。佑樹は病気の知識無いけどしっかり自分の事を一番側で見ていたから。自分の考えていることが伝わった。
「ありがと」
その声は震えていて。頬を熱いものが伝っていた。
『琉生。ここ何ヵ月かで少し変わったか?なんかちゃんと決断できたみたいだし』
「実は今日な・・・・・・」

話をしていて楽しかった。そして今度また会おうって約束して通話が終わった。
「ありがとな」
そうおとが聴こえなくなったスマートフォンにお礼を言った。
その後歯を磨き薬を飲んで久々にゆるりと寝た。
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