音楽業界のボーイズラブ

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　やっとゆっくり眠れる安堵に、帰宅するとすすむはひと息つきシンの作詞したデータを確認し、その音源を持ち寄りイヤホンをしBGMにしてベッドに沈み込んだ。


“恋愛曲だな”


“片想いの”


アップテンポで歌うシンのラブソングには力強さがある。

ボーカルは…やっぱりリンネがいいな。少々荒い歌詞も、シンらしさが出ている。口の悪いリンネなんかギャップで好きなやつには堪らないだろう。
急いでそのことを連絡し、興奮のままアドレナリンが爆上がりするのを感じる。本当だったらこのまますぐにでもレコーディングしたい。しかし眠気が第一で、シンにOKとメッセージをし、リンネにも伝えるが既読を待っているところに意識を手放した。

＊＊＊　＊＊＊


「いいんだけどもうちょっとニュアンス的に柔らかくならないかな。あんまり過激な歌詞はCMには向かないから」

先方の企業にダメ出しを食らって、予想はついていたからリンネの暴言を吐く恋愛の歌はバンドの曲として出すとして、シンがもう一つ余分に作っていた歌詞を採用することになった。
クリエイターがボツになるものを作っておきそれを最初の案として提案し次に本命を出すのも作戦のうちだ。

電話をかけて相手の出方を伺いながらもう一つの曲のプレゼンをする。手応えを見せ、電話を切りすぐにデータを送る。

「こっちでやろう」

音源を確認してすぐに返事が来る。これも採用されなかったらシンは怒るだろう。元々のジャンルから外れていながらそんなイメージを覆す曲を出せというのだから。それにそのくらい自信があるというわけだ。

ほっとしてCMの方の曲が順調にいっていることを2人に連絡する。

「リンネ君って派手じゃない？」
「見た目はあれですけど、意外にストイックで真面目ですよ」
「結構買ってるんだ。」

シンの反応が返ってくるのを待っているうちに例の青井からメッセージが届き気が沈む。
シンの返事は待つのに他からのメッセージはあまり期待していない。
「彼にも会ってみたいな」
そんな軽口を叩く返事にすすむの内心は穏やかではない。セクハラ親父め。何と返事をしようか頭を悩ませるが、

「いいですよ、連絡してみますね」

結局NOとは言えず流されてしまう。

「…ってことなんだけど」
「はぁ～？！なんで俺がキモいオヤジ相手にしなきゃいけないわけ？」
「しょうがないだろ。接待なんだから」
「論外だわ！」
「そんなこと…」
「キモいきもい、断れ！忙しいって言っといて！」
「仕事だから、お願い」
「何それ、都合よく利用されてるだけじゃん」
「三人でいいから」
「当たり前！」

え、当たり前なのか。行きたくねー。

「…ってことなんだけど、お前も来い」
「…は？」
「大勢の方が向こうも嬉しいだろ」
「…それはどうかな」

リンネがだんだん断る方向に傾いて、仕方なく最後の砦であるシンにも相席を頼む。もうバンドのメンバー全員呼んでやろうかとヤケになり始めていた。

「いや、三人でいいだろ」
既読がついてから数十分待って来たシンからの返事は、彼も悩んだ末の結論なのが伺われる。
「そうかな」
「お前が能天気だからこんな事になったんだからな」

そうなのか。それは申し訳ない。

しょうがなく三人と青井での飲み会を開催することになった。