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しおりを挟む全ての授業を終えた後、毎日行われる校内清掃のゴミ捨てを馨が引き受けた時、事件は起きた。
正面玄関からは反対の隣校舎の隅にゴミ捨ての場所があり、そこへゴミを捨て帰ろうとすると、先輩とすれ違う。学ランの下のズボンは腰より低い位置にあり裾が地面に付いていて、ぎざぎざに破れていた。それよりも一目で目につくのは、派手に明るく染められた赤髪だった。馨が真っ先に気にかかったところだ。馨は年上の赤髪の先輩を前に気づくか気づかないか分からないくらいの小さなお辞儀をして、小さくなり通り過ぎる。不良の先輩を前にした時の馨なりの最敬礼だった。
中学校に入学すると入学式があり始業式があったが、どちらも見覚えのない人だった。馨自身は、不良の生徒とは真逆の部類だ。
教室へ戻り、帰りのHR の合間に小学校からの友人だった伊藤勇二へとその出来事を話すと、勇二は声を潜めて、
「その先輩、聞いたことあるけどヤンキーの兄ちゃんがいるらしいよ。ボクシングも習っててその先輩もめっちゃつえーって」
まだ子どもらしい仕草が抜けない勇二は、馨の耳と勇二の唇が触れそうになるほどの近さで耳打ちし、わざとらしく眉を寄せ難しい顔を作る。
「ふーん」
“そんな怖い先輩のようには見えなかったけどなあ。”
馨の考えていることに感づいたのか勇二がむっとする。
「ほんとだって!間違いなければ2年生のはずだからゴミ捨て場の裏にある校舎と体育館の間にたまり場つくっているんだって。見てきなよ」
ちなみにたまり場は学年ごとに違う。各自自分達のテリトリーを守っているという訳だ。その時ちょうど教室に担任の教師が入ってきて、HR を始めた。
「ちょっ…っ何で勇二まで!」
放課後、馨のためと言いながら例のたまり場に歩を向ける勇二に無理矢理連れられ、校舎裏まで来ていた。勇二は完全な冷やかし、そして何者でもなくこの上ない、おせっかいである。ゴミ捨て場の前で野次馬二頭が言い合いをしていると、様子を見にきた先輩が歩いてくるのか、ざりっざりっとゆっくりと後ろから足音がした。2 人は顔を同時に見つめ青ざめる。
「何だぁ、お前ら」
眉毛が薄く、肩まで伸びた髪の間から切れ長の双眸のその先輩が顔を出す。
「駿先輩がいるって聞いて…!」
そのガラの悪そうな先輩が前にやってきた途端、反射的に口を開く勇二に馨は感心した。さすがというか、出るべきところを出る度胸が備わっている。
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