ある夏の日に君と出会った

おとめ

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*** ***

 思い出した。
 安春が目を開けると、盆の残暑と共に鳴く蝉の声と、蒼護の声を思い出す。あれから十数年近くが経っていた。あの時は、残った宿題や、友達と遊ぶ事に夢中になってしまった。それが大学に入り、当時のように時間に余裕が出来た。だから。中学高校では部活に明け暮れていたのが無くなった。   蒼護の年齢や背格好、蒼護に囁かれた記憶などが夏の風や気温と共に蘇る。安春は自室のベッドから勢いよく起き上がり、目的の場所へと急いで向かう。昔から変わらないけれど、軋む音を立てるようになった今では小さく感じるシングルベッド。向かうのは、祖父の眠る御寺だ。

 「遅いよ」
 息を切らしながら辿り着いたそこで、見覚えのある人物が待っていた。
   「そ…うご…」
 「安春…君…」
栗色の優しい髪色。柔らかな雰囲気を纏う整えられた微笑み。
   「もう君付けされる年齢じゃねぇよ」
   安春は駆け寄ると、当時と同じ蒼護の姿に、顔を歪め、
 「あの時は…よくも…からかって…」
 「あの時?」
 蒼護が首を傾げる。近付いた蒼護の髪を鷲掴み、引き寄せると耳たぶを噛む。
 「乱暴になったなあ」
 頬を赤らめた蒼護を見て、安春の欲望がむくりと頭をもたげる。
 「照れ隠し?」
耳元に囁いた。

御寺の中を歩き、蒼護の墓を見つける。御寺の息子である蒼護は実父と残されたこの寺を案じ、ずっと守ってきていたのだ、守護霊として。そのことを告げると蒼護の父は驚き、そして、
 「じゃあ安春くんのおかげでもあるね」
 「え?」
 
 「きっとまた安春君に会えるのを楽しみにしていたに違いない。この寺を守りながら、君との約束も心待ちにしていたんだろう」
蒼護の父はそう言って安春に礼を言った。

帰る頃、後ろから蒼護がニコニコと笑顔のまま安春に続く。
 「おい。お寺の守護はもういいのかよ」
 「聞きたい?」
蒼護の意味ありげな返事に安春は振り向き、続きを待つ。
 「昇格して転生しました~!」
 「はっ?!」
 「なーんて、無理ありすぎるか」
    「じょ、冗談かよ、びっくりした…。」
悪気も無さそうに言うので、安春は腹が立つ。
 「危うく一緒の所に旅立つわ。そんなことばっかりやってると…」
安春は言いかけて、止めた。蒼護はもうこの世にはいない。それは事実なのだ。そして、どうしてか安春の目にはなぜか視える。ずっと、何年も、待たせた。安春を待っていた。
「何して遊ぶ?」
つい先日のように、時間を忘れるように、安春は何気無く聞いた。
「色々」
蒼護がその優しくゆったりとした余裕の笑みを含んで言うので、安春は今度こそ閉口した。



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