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第一章

第8話 いそーろーおにーしゃん!

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「いーち、にぃー、さーんっ… 」

   今日はかくれんぼする事になった。もちろん魔王城の中で。
   笑いながら、どこかへ隠れに行くヨツバを聞くと幸せになると、同時にすぐに見つけてあげたくなる。

「よーん、ごぉー、ろーーく、しぃーち、はぁーち、きゅー、じゅう!」
「もういーかい?」
「まだ!」

   ヨツバが元気な声で答える。あと10秒ぐらい数えてみる。

「じゅーいち、じゅーに、じゅーさん、じゅーし、じゅーご、じゅーろく、じゅーしち、じゅーはち、じゅーく!にじゅぅ!」
「もうい~い?」
「い~いよ!」
「速攻見つけちゃうね~!」

   ヨツバが隠れられるそうな場所を見て回る。
   ベッドの下、カーテン、戸棚の裏、クローゼットの中、机の下、階段の裏などなど、探したものの、ヨツバは、隠れるのが上手いのか、俺が馬鹿なのか、見つからない。たぶん後者。

   トントン

「はーい。」

   誰かが扉を叩く音が聞こえ、招き入れてあげた。

「妖精…どうたしたの?ボロボロだけど… 」

   外には、身長150cmあるかないかぐらい小さい体に似つかない大きくてボロボロの白衣を着たエメラルドのような緑髪を持つ妖精の男の子が立っている。
   宝石のように綺麗って言いたいけど、骨が見えるほど痩せた体型がそれを邪魔している。

「こ、ここに来れば、助かると思って来たんです!」

   男の子からは、以外な言葉が飛んで来た。

「助かるって……何かあったの?俺に相談して… 」
「はい。」

   男の子とホール近くのソファーに座り、真剣に話を聞く事にした。

「ボクの名前はジシパリ。少し遠くにある妖精の村から来ました。」
「ボクの村では、11歳の誕生日になると、妖精として空を飛べるようになる儀式をするんです。その儀式にボクは最近、参加しました。けれど、ボクは羽があるのに何回やっても飛べなかったんです!みんな飛べるのに、ボクだけ… 」
「そんなのアイデンティティとして認めたら?」

   俺は、ジシパリの言葉を聞きながら、明るく軽く、返すも、かなり強い口調で返された。

「認められる訳ないじゃないですか?!村人はボクが空を飛べるようになるまで、ボクを高い所から突き落としてきます。練習と称して、そんなの練習でもないただのイジメなのに… 」
「でも、何でここに助けを求めに来たの?他にもあるんじゃない?」
「ここしかないんです!ボクの村の人たち魔王の事嫌いなので、絶対に近づこうとしないからです!」

   嫌い、理由にはなるけど、きっぱり言われると傷つく。

「まおーしゃ、どーしたの?」
「あ、ヨツバ!」

   ヨツバが、階段から1弾づつ降りて来て、きょとんと首を傾げている。

「その子は、使い魔ですか?」
「使い魔?この子は、俺の子供、お兄ちゃん的な 」

   使い魔とは、魔法使いや魔王が連れている一番の相棒のような存在。動物の姿になれる。
   動物の姿になれる部分は、ヨツバも当てはまってるけど、使い魔と言われると違いすぎる。れっきとした可愛い子供みたいな感じ。

「ね?ヨツバ!」
「うん!まおーしゃあそぼ!」

   俺に抱き上げられ、無邪気な笑顔なヨツバをどこか、怪しむ表情をするジシパリ。

「魔王様、ほんとに子供何ですか?誘拐?じゃないですよね?」
「えっと…血は繋がってないけど、子供だよ 」
「そうですか…もし誘拐なら、ボク助けを求める人間違えた気がして…親身になって聞いてくれたのも罠なのかなって… 」

   かなり警戒されているのか、ジシパリが1歩づつ後ずさりしていく。
   それを引き留めようと考えても、来たのは、向こうから、俺がいてほしい訳ではない。なのに何で、ジシパリの方に足を1歩づつ動かしているんだろう。

「何ですか?魔王様…怖いんですが… 」

   俺の行動に少し怯えるジシパリに抱っこされていたヨツバが手を掴んだ。

「おにーしゃ大丈夫?」
「こわいなら、おにーしゃもいっしょにあそぼ?」

   ヨツバ、やっぱり可愛くて、優しいな。
   カメラがあったら、この状況を何度も撮影しているよ。

「えっと…うん…なにするの?」

   困惑しつつ、ヨツバの手を取るジシパリにグイグイ行っているのも、ニヤけてちゃう。

「かくれんぼしよ!ね?!」
「かくれんぼ、今はそんな気分じゃ… 」

   ジシパリは、詰めるヨツバにも警戒して、扉に手をかけようとしている。

「まぁ…そうだろうな。警戒してるし。」
「けーかい?こわいってこと?」
「うん!そういうこと!あってる!」

   ヨツバも頭を撫でる。
   その様子をどこか、寂しげに見つめるジシパリが横目で見えた。

「何か幸せそうですね。ヨツバくん?ですか?笑顔キラキラして見えます。」
「あの、ヨツバくんですよね?一緒にかくれんぼしても… 」
「えっ… 」

   ジシパリもヨツバの笑顔に負けちゃうみたい。さすがヨツバ、無敵だね。

「ほんと!!まおーしゃ!おにして!」
「もちろん!数えるよ!」

   俺は、柱に顔を突っ伏して、数えて始める。

「いーちっ!にー!さーん!… 」
「おにーしゃかくれよ!」
「あ、はい!」

   横目で見ると、ヨツバがジシパリの手を引いて走る最強すぎる状況が見れた。

「よーんっ!ごー!ろーく!しーち!はーちっ!きゅう!じゅー!」
「もーいーかい!」
「もーいーよ!」

   ヨツバの弾けた声が聞こえ、探し始める。
   今回は、ジシパリも一緒に隠れていると想定して、大きめの場所を見回っていく。

「あれ?いないなー? 」
「ここもいない… 」

   大広間のテーブルの下、カーテンの裏、箱の中、ベッドの下、あちこち見て行くがいない。
   いじわるでもしちゃおうかな。

「ヨツバ!おいしいケーキ、いっしょに作られない?」
「けーき!!」

   キッチンの方から、ヨツバの明るい声が聞こえらすぐに向かった。

「ヨツバ!やっぱり可愛いなぁ…フフ… 」

   キッチンに到着、そこに少し、棚が空いている。

「みつけたヨツバ!、ジシパリ!」
「まおーしゃ!けーきつくろ!つくろ?!」

   ヨツバが棚の中から、俺が押し倒されそうな勢いで飛び出して来た。
 
「今日はもうクッキーいっぱい食べたでしょ?!」
「まおーしゃ…うそだったの?」
「嘘じゃない。嘘じゃないよ。もっと食べたいんだね。」

   ヨツバをがっかりさせないように、優しく微笑む。それに、フェンリルの姿で飛び出すみたいは事なんて、起こしたくない。

「やったー!!けーき!けーき!わくわく!」

   かくれんぼを忘れてるのかなってぐらい、ぴょんぴょん跳ねたり、くるっと回ったり、癒される。
   ジシパリが水を差さなければ、良かったのに。

「えっと…かくれんぼは?魔王様。終わり?良いですけど、」
「まぁ…終わったのかもね。ジシパリもケーキ作る?」
「うん!おにーしゃも!う、うわぁ?!!」

   俺とジシパリの元にボウルやチョコレートなどの器具を運んで来たヨツバだけど、重くて転んでしまった。
   見てなかった俺も悪い。

「ヨツバ!」
「ヨツバくん!!」
「まおーしゃ!おにーしゃ!いっしょいったぁ!なかよし!」

   痛がってないちゃうと思ったけど、明るく笑った、俺とジシパリが仲良く見えたみたい。会って初日なのに。

「魔王様、楽しいかもしれないですけど!笑ってる暇ないです!ヨツバくんが転んだなら、助けますよ!」
「そうだね、ごめんごめん. 」

   笑顔を零しつつ、さっきとは別人に見えるほど、テキパキとヨツバの転んでしまったケガとバラけてしまった重い道具たちを片付けて行く。
   ジシパリって、ヨツバのお兄ちゃんみたいになってる。俺も負けないから。

「ジシパリ、俺がやるからいいよ、」
「いや!ここはボクがやります!だって、ここに居候するつもりなので。何でもさせてください!」
「え……?」
「いそーろー?」

   俺もヨツバもきょとんとしてしまった。
   ジシパリ、ちょっと警戒してる時もあったのに。

「いそーろーってなに?」
「ジシパリがヨツバのおにーちゃんになるって事だよ、」
「え?!あそべるの!うれしー!」
「おにーしゃ!おへやつれてくね!」

   ヨツバと俺でジシパリを部屋に案内すると、ヨツバは、無邪気にベッドに飛び乗り、布団にもぐり、顔を出した。

「おにーしゃ!まおーしゃ!いっしょにねよ!」
「はい!ボクも一緒にねます!居候ですから!」

   ジシパリも笑顔でヨツバのベッドに潜り込む。

「まおーしゃも!いっしょに!」

   ベッドに入って来てくれて、嬉しいみたい。
   みんなで寝たいみたいだけど、かなりベッドが狭くなるんじゃないか、何て不安になる。

「ぎゅーぎゅーになってもいいの?ヨツバ 」
「いいの!みんないっしょに!」

   少し気が引いて、しまったけど、結局みんなで寝ちゃった。3人でベッドに入るなんて、初めての事だし。

「そうだね!」
「はい!」

   また、家族増えちゃったけど、楽しければ、良いよね。
   モニウには、首を指されるだろうけど。

「え?!まおーさま!家族増やすんですか?!」




   
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