上 下
71 / 72
三章 龍の花嫁

99 戻る日々

しおりを挟む
 小さな黒龍を連れて国に帰ると、全員から抱きつかれました。嬉しいですが、魔力戻ってなかったら死んでません?

 色々とすることはありますが、まずはみんなの怪我の具合を確認しましょう。

 かなり頑張って戦ってくれていたので、かなりボロボロです。

「ナオキは?」
「主の魔法で傷は塞がってる。今はアラエルと一緒に寝てるはずだ、ほら」

 フェンの指し示すほうを向くと、ナオキに覆い被さるようにしてアラエルが寝ています。

「ナオキが死ぬ、ナオキが死ぬって大変だったんだぞ……変身も解かぬまま暴れるから城が傾きそうな勢いだった」
「心配だったんでしょうね。アラエル、ナオキのことを気に入ってますから」

 ナオキは大丈夫そうです。

 アダムはどこに行きました? あ、ここにいましたか。ほら、胸に飛び込んできていいんですよ。

「……お母さん、泥まみれ」
「えっ」

 中々こないので、こっちから抱きしめに行こうとしたら拒否されました。……たしかに戦った影響で泥まみれです。

 このままだと抱きしめたアダムの顔が泥まみれになってしまいます。感動の再会も何もありませんね。

 いや、こんなもの魔法でなんとでもなります。ほら、指を鳴らせばすぐに綺麗になったでしょう?

 アダムを抱きしめます。暖かいですね……。本当に良かったです、無事で。

 アダムを抱き抱えたまま、後ろにいるフェンに身体を預けます。ふわふわですね……。

「久しぶりのもふもふです……癒されます……」
「いや、主。寝てる場合じゃないだろう」
「ちょっとだけ。ちょっとだけですから……」

 あー。急に眠気が……。

「……あのよ、俺らのこと忘れてんだろ?」
「あ、勇者」
「『あ、勇者』じゃないんだよ! 一応俺ら敵なんだから忘れてんじゃねぇ!」

 ご尤もですね。

「……まだ敵ですか?」
「っ……。知るかよ。あのデブにでも聞いとけ」

 この様子だと悪さはしなさそうですね。一応何かあっては困るので、悪魔たちに監視をお願いします。

「おい聖女」
「金髪じゃないですか……なんですか?」

 やばいです。眠気が限界に来てます。金髪がなにやら国を守っただのなんだと言っていますが、あんまり聞き取れません。

 あぁ、起きてください。私……。

「……まさか寝たのか? 嘘だろ?! 俺話してるんだろうが!」
「無駄だ金髪」
「くっそ……色々大変だったんだぞ、まじで」

 金髪ことブッチャーは、マーガレットたちがいない間、彼なりに国を守ろうと必死に動いていた。途中、他国からの偵察やら、厄介な魔物の侵入やらで大変だったのだが、それは眠るマーガレットの耳には届かない。

「……まぁ、我は聞いてやろう」
「僕も聞くよ」
「フェン……アダム……ありがとよ」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 おはようございます、マーガレットです。

 どうやら国に帰ってきてすぐに眠気にやられてしまったようです。色々やることはあったんですが、やってしまいましたね。

 まずは結界ですか。国を守るようにしっかり貼っておきましょう。あ、結界を守ってくれた天使達にもお礼を言わなきゃ行けませんね。

 んー、それにしても清々しい朝です。

「あ、おはようお母さん。起きたんだね」
「おはようございます、アダム。すっかり寝てしまいました」

 朝食をゆっくり食べたいところですが、やることがあるので軽く準備をして家を出ます。

「おはようございます、マーガレット様」
「おはようございます、シルフィ、ルールー」

 この2人は昨日のことがあっても朝からバリバリ働いているみたいです。体力がすごいですね……。

「不在期間の国の状況を調べましたが、金髪主導の元、いくつかのトラブルはあったものの、目立った被害はないそうです」

 やりますね金髪。昨日いろいろ言っていたのはこの事でしたか。

「あとは、龍の里の状況ですが……その」
「その?」
「壊滅してます」

 えぇ?! なんでですか?! 守ったじゃないですか!

「言いづらいんですが……その、マーガレット様と敵の激戦の余波といいますか」
「……」

 龍の里の方へ静かに頭を下げます。本っ当にごめんなさい。

「ということは今、龍の里にいた人達は?」
「この国に来てもらっています。マーガレット様が連れてきた小さな黒龍ですが、龍人曰く、生まれ変わりだそうです」

 ……なるほど。いや、あんまりなるほどって納得した訳じゃないんですけど、害はなさそうです。

「アナスタシアさんに懐いていると」
「生まれ変わっても花嫁は忘れないということですかね」

 ヨセフの言葉からして、ヨセフの体になった黒龍は、伝説の龍と同じとみて間違いないでしょう。

 そうなると、花嫁候補のアナスタシアさんに懐くというのも変な話ではありません。というか、今までの花嫁ってどうなってたんでしょうか?

「今度聞いておきますね」
「ありがとうございます。他に報告することはありますか?」
「もちろんです」

 その後もしばらくの間、シルフィとルールーから報告を受けました。

 細かいことが多かったですが、大きいことをまとめると、龍の里の人たちは一時的にこの国に住むということ。

 あとは、ヨセフの存在は色々な国の伝承を調べるという方向で決まりました。謎が多すぎますからね。

 ……フェンとシラユキも、家族団欒を過ごしているみたいですね。子供が生まれたばかりなのに、戦いに駆り出してしまったこと、反省しなくてはなりません。

「一件落着、とは言いませんが……まぁほどほどに上手く行きましたか?」
「マーガレット様、その、王国から使者が来ています」

 アナスタシアさんはあの王の娘ですもんね。

 アナスタシアさんには怖い思いをさせてしまいましたし、形だけ見れば各国の意思で決められた龍の花嫁という仕組みを壊してしまいましたから、咎めるような連絡があってもおかしくはありません。

 ただ、内容はシンプルなもので、保護への感謝とアナスタシアさんの返還要求でした。

「ということですが、どうします? アナスタシアさん」
「え、嫌なのじゃ」

 え、断られてしまいました。アナスタシアさんは黒龍に餌を上げています。かわいいですね、私もあげていいですか?

 あ、もぐもぐ食べてくれました。かわいいです。

「あ、もしかして迷惑なのじゃ?」
「いえ別に。向こうからの要求は本人が望むなら、という事でしたし……アナスタシアさんがいいなら、ここにいてくれていいですよ」

 黒龍のこともありますし、この御伽の国であれば何かあっても対処しやすいという理由もありますが……ここを気に入ってくれたみたいですから、ぜひ住んでくれると私も嬉しいです。

「それに、バニラも安心するのじゃ」
「バニラさん?」
「小さい頃から、迷惑ばかりかけたのじゃ。ここなら、安心して暮らしてもらえると思うのじゃ」

 ……いい子ですね、アナスタシアさん。

「お母様と同じような目をするのはやめるのじゃ! なんなのじゃ?! バニラもたまにその顔をするのじゃ!」
「なんででしょうね」

 みんな、アナスタシアさんを大切に思っているんですよ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 あれから数日。

 龍の里の方々のための家を作ったり、アナスタシアさんとバニラさんのための家を作ったりと、なんだかんだで忙しかったです。

 書類も沢山ですし……女王というのも大変です。

「ですが、今日は久しぶりのお休みです!」

 午前中は仕事をしましたが、夜はおやすみを貰えました!

 うーん、何をしましょうかね。おやすみと言っても、もう日は沈みかけています。

 家の庭作り? いえ、アダムと遊ぶ? 色々思いつきますが……悩む時間もあまりありません。

 とりあえず、歩きましょう。

 夕暮れ時、みんな仕事が終わって自分の時間を過ごし始めるころです。

 子供達は種族の差を気にせずに遊んでいますし、大人たちも十分な食事と、娯楽に勤しんで笑っています。

「我ながら、いい国を作れている気がします」
「あ、マーガレット様だ! こんばんは!」
「こんばんは」

 子供が話しかけてきました。この子はエルフの子供ですね。見たことあります。

 あら、お花の冠ですか。ありがとうございます。着けますね。

「かわいい! マーガレット様!」
「ふふ、ありがとうございます。ではお返しに」

 魔法で同じくらい素敵なお花の冠を作って、その子の頭に乗せてあげます。

「わあ! すごいすごい!」

 喜んでくれたようです。……やっぱり、今日はアダムと遊びましょうか。あの子は精神が大人に近いので、子供のように感じませんがまだ生まれたばかりです。

 そうと決まれば、アダムを探します。

 えーと、アダムの魔力は……見つけました。転移しましょう。

「アダム」
「お母さん?」
「マーガレット?」
 
 バレンタインと一緒だったようです。魔法の練習でもしていたんですかね?

「丁度よかったマーガレット。私たちじゃわからなかったんだ」
「教えてお母さん!」

 何をですか? あぁ、建築魔法ですか。いいですよ、教えてあげましょう。

 あ、他にも教えて欲しい人がいる? いいですよ。読んできてください。

 ……え、なんかすごい人が集まってるんですけど、これ全員が魔法の練習希望者ですか? あ、全員学びたいと。目的は国の発展ですか。素晴らしい国民ですね。

 カブさんもいますけど……あなた巣穴じゃないんですか?

 まぁいいでしょう。じゃあ行きますよ。あ、城の建て方は知りませんよ。あれはやろうと思ってやったわけじゃありませんから。

しおりを挟む
感想 65

あなたにおすすめの小説

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。