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第2章 眠れる聖女と復讐の連鎖
第20話 目覚めし聖女
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□アルムスフィア聖王国 セルフィムリア聖墓:《死霊魔術師》一ノ宮和樹
レイメイの丘での戦闘から数日後、俺はアルムスフィア聖王国とパンデモニウム魔王国のちょうど国境沿いに存在するセルフィムリア聖墓へやってきていた。ここへ来た理由は、セルフィムリア聖墓の最深部に存在するアルムスフィア聖王国で、聖女と呼ばれていた者の遺体を手に入れるためである。聖女を死霊魔術で蘇生させることで、その求心力を利用し復讐の材料にできるのだ。
俺は秀一達に聖墓に潜むゴブリンを駆逐してもらい、暗くて乾燥した聖墓の中を進んでいった。とはいえ聖墓自体は特に侵入者を想定した迷宮という訳でもなく、ほぼ一本道のため俺はおよそ10分程で聖墓の最深部へと辿り着いた。最深部にはいくつかの魔法の気配と大きな棺があるだけだった。
「聖女様の墓って割には味気ない墓だな」
俺は辺りを見回した後、思ったことをそのまま呟く。聖女の棺というのだから煌びやかなものだと想像していたからなのか、何となく幻想を打ち砕かれたような気がしてがっかりだ。俺は蓋を力一杯押してその大きな棺を開けた。棺の中で眠っていたのは思わず息を呑んでしまう程の美少女だった。白の薄いワンピースに身を包み、その腰まで届きそうな程の長い銀髪は僅かしか光の差し込まないこの聖墓の中でも輝いて見える。
「この部屋の魔法の気配はこれだな」
俺はこの部屋に存在する魔法がどういったものなのかを悟った。おそらくこれは遺体の状態を生前のままに保つといったような効果のある魔法なのだろう。そうでもなければ遥か昔に死んでいるはずのこの聖女の遺体がここまで完全な状態で残っているはずがないのだ。俺は聖女の遺体に手をかざす。
「死霊魔術!」
すると遺体として眠っていたはずの聖女が目を覚ました。そして起き上がるとその淡い青色の瞳をこちらへ向ける。
「よし。成功だな。さあ、お前の名前を教えろ」
俺は聖女に名前を答えるような命令した。死霊魔術で蘇生している以上、俺からの命令には絶対服従......の、はずだった。
「まずはそちらから名前を名乗るのが、礼儀だと思いますけど......」
「えっ!? あぁ。俺は一ノ宮和樹だ」
俺は呆気にとられて、気づけば自分から先に名乗ってしまっていた。
「私はシャルロッテ=セルフィムリアといいます。シャルと呼んでください。和樹さんよろしくお願いしますね」
「あぁ。よろしく......じゃなくて! 何でシャルは俺の命令を無視できるんだ?」
「何故と言われてもあなたの命令に従う理由もないですから。それとも和樹さんは女の子に命令して言うことを聞かせたいオラオラ系の人ですか?」
「違うからな! お前は俺の死霊魔術で蘇生したんだから、俺の命令には逆らえないはずなんだ」
それを聞いたシャルはすぐに理解したような顔で口を挟む。
「それは前提から間違っていますよ」
「ん? どういうことだ」
俺は訳が分からなくなり思わず首をかしげる。
「そもそも私、元から死んでいません。仮死状態で眠っていただけです」
「そういうことか! 死体でなければ死霊魔術は発動しない。だが、それならなぜシャルはこのタイミングで目が覚めたんだ?」
「それは単純に外部からの見知らぬ魔法の反応を感知しただけですが」
「そうか......」
どうやら計画は根底から崩れ去るらしい。聖女であるシャルを復讐の道具にするというのは、結局シャルが俺の命令を聞かないのであれば不可能だからだ。俺は自分をぶん殴りたい衝動を抑えてすぐに思考を切り替える。とりあえずシャルが役に立たないなら、ここに放置していくしかないだろう。俺には役立たずを食わせていく余裕はないのだ。
「俺の命令を聞かないならお前に用はない。後は勝手に好きにしろ」
「えっ! いや、待ってください! ここで放置されたら本当に死んでしまいます」
「知らん! 勝手に死ね!」
俺は聖墓から出ようとしたときシャルが後ろから抱き着いてきた。俺の背中に当たる2つの双丘に俺は動揺を隠せなくなる。
「うぉ! な、なん、何だ? 俺は連れていかないぞ」
「聞きます。和樹さんの言うこと聞きますから私も連れて行ってください」
シャルは今にも泣きそうな声で必死に俺に頼んできた。俺はため息をつくとシャルの方へ振り返る。
「いいかよく聞け! 俺はお前をこのくそったれの理不尽な世界への復讐の道具として利用する。そしてお前は俺のどんな命令にでも絶対順守だ。それがどんなに残虐だろうと、どんなにお前がやりたくないことでもだ! それが嫌なら俺についてくるな!」
ここまで言えば普通ついてこないだろう。俺は勝利を確信した。
だが、どうやらこのくそったれな世界はそんな簡単に俺に勝利を認めないらしい。
「それも覚悟の上です。この私を道具として好きに使ってもらっても構いません」
正直ここまで言われると、もう俺には成すすべがないのだ。
「仕方ない。勝手について来い」
「はい!」
こうして俺の復讐の旅に新たにシャルロッテ=セルフィムリアが加わった。
レイメイの丘での戦闘から数日後、俺はアルムスフィア聖王国とパンデモニウム魔王国のちょうど国境沿いに存在するセルフィムリア聖墓へやってきていた。ここへ来た理由は、セルフィムリア聖墓の最深部に存在するアルムスフィア聖王国で、聖女と呼ばれていた者の遺体を手に入れるためである。聖女を死霊魔術で蘇生させることで、その求心力を利用し復讐の材料にできるのだ。
俺は秀一達に聖墓に潜むゴブリンを駆逐してもらい、暗くて乾燥した聖墓の中を進んでいった。とはいえ聖墓自体は特に侵入者を想定した迷宮という訳でもなく、ほぼ一本道のため俺はおよそ10分程で聖墓の最深部へと辿り着いた。最深部にはいくつかの魔法の気配と大きな棺があるだけだった。
「聖女様の墓って割には味気ない墓だな」
俺は辺りを見回した後、思ったことをそのまま呟く。聖女の棺というのだから煌びやかなものだと想像していたからなのか、何となく幻想を打ち砕かれたような気がしてがっかりだ。俺は蓋を力一杯押してその大きな棺を開けた。棺の中で眠っていたのは思わず息を呑んでしまう程の美少女だった。白の薄いワンピースに身を包み、その腰まで届きそうな程の長い銀髪は僅かしか光の差し込まないこの聖墓の中でも輝いて見える。
「この部屋の魔法の気配はこれだな」
俺はこの部屋に存在する魔法がどういったものなのかを悟った。おそらくこれは遺体の状態を生前のままに保つといったような効果のある魔法なのだろう。そうでもなければ遥か昔に死んでいるはずのこの聖女の遺体がここまで完全な状態で残っているはずがないのだ。俺は聖女の遺体に手をかざす。
「死霊魔術!」
すると遺体として眠っていたはずの聖女が目を覚ました。そして起き上がるとその淡い青色の瞳をこちらへ向ける。
「よし。成功だな。さあ、お前の名前を教えろ」
俺は聖女に名前を答えるような命令した。死霊魔術で蘇生している以上、俺からの命令には絶対服従......の、はずだった。
「まずはそちらから名前を名乗るのが、礼儀だと思いますけど......」
「えっ!? あぁ。俺は一ノ宮和樹だ」
俺は呆気にとられて、気づけば自分から先に名乗ってしまっていた。
「私はシャルロッテ=セルフィムリアといいます。シャルと呼んでください。和樹さんよろしくお願いしますね」
「あぁ。よろしく......じゃなくて! 何でシャルは俺の命令を無視できるんだ?」
「何故と言われてもあなたの命令に従う理由もないですから。それとも和樹さんは女の子に命令して言うことを聞かせたいオラオラ系の人ですか?」
「違うからな! お前は俺の死霊魔術で蘇生したんだから、俺の命令には逆らえないはずなんだ」
それを聞いたシャルはすぐに理解したような顔で口を挟む。
「それは前提から間違っていますよ」
「ん? どういうことだ」
俺は訳が分からなくなり思わず首をかしげる。
「そもそも私、元から死んでいません。仮死状態で眠っていただけです」
「そういうことか! 死体でなければ死霊魔術は発動しない。だが、それならなぜシャルはこのタイミングで目が覚めたんだ?」
「それは単純に外部からの見知らぬ魔法の反応を感知しただけですが」
「そうか......」
どうやら計画は根底から崩れ去るらしい。聖女であるシャルを復讐の道具にするというのは、結局シャルが俺の命令を聞かないのであれば不可能だからだ。俺は自分をぶん殴りたい衝動を抑えてすぐに思考を切り替える。とりあえずシャルが役に立たないなら、ここに放置していくしかないだろう。俺には役立たずを食わせていく余裕はないのだ。
「俺の命令を聞かないならお前に用はない。後は勝手に好きにしろ」
「えっ! いや、待ってください! ここで放置されたら本当に死んでしまいます」
「知らん! 勝手に死ね!」
俺は聖墓から出ようとしたときシャルが後ろから抱き着いてきた。俺の背中に当たる2つの双丘に俺は動揺を隠せなくなる。
「うぉ! な、なん、何だ? 俺は連れていかないぞ」
「聞きます。和樹さんの言うこと聞きますから私も連れて行ってください」
シャルは今にも泣きそうな声で必死に俺に頼んできた。俺はため息をつくとシャルの方へ振り返る。
「いいかよく聞け! 俺はお前をこのくそったれの理不尽な世界への復讐の道具として利用する。そしてお前は俺のどんな命令にでも絶対順守だ。それがどんなに残虐だろうと、どんなにお前がやりたくないことでもだ! それが嫌なら俺についてくるな!」
ここまで言えば普通ついてこないだろう。俺は勝利を確信した。
だが、どうやらこのくそったれな世界はそんな簡単に俺に勝利を認めないらしい。
「それも覚悟の上です。この私を道具として好きに使ってもらっても構いません」
正直ここまで言われると、もう俺には成すすべがないのだ。
「仕方ない。勝手について来い」
「はい!」
こうして俺の復讐の旅に新たにシャルロッテ=セルフィムリアが加わった。
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