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第1章 復讐の始まり

第3話 アルフレッド3世

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□アルムスフィア聖王国 ウォーデン城:一ノ宮和樹


 どこまでも続いていそうな広く長い廊下を俺達はラウムの案内に従って歩いていた。そして歩きながら俺達は薫子ちゃんにこのふざけた状況の説明をしていた。


「とにかく状況はわかったのですよ。元の世界へ帰れるように先生もみんなと一緒に努力するのですよ」


 どうやら薫子ちゃんは状況を理解してくれたらしい。これで理解されなかったら薫子ちゃんの性格を考えると、この後王様のところで元の世界へ帰せとか言って暴挙に出そうだなと思っていたので俺は安心して胸を撫で下ろす。


「なあ秀一。どうだ勇者になった気分は?」
「勘弁してくれよ。これがとても充実しているように見えるか?」
「いやまったく」


 俺が後ろからにやにやと笑いながら小声で秀一をからかうと、秀一は困ったように肩を竦める。そうしているうちに俺達は他の扉よりも一際大きな扉の前にたどり着いた。


「この先が玉座の間となっております。くれぐれも粗相のないようにお願いしますぞ」


 ラウムが先程までより少し緊張感のある声で言った。それを聞いて人をからかう程度には余裕を保っていたはずの俺まで緊張のせいで心に余裕がなくなってしまった。緊張のあまり握りしめた拳から手汗が滴りそうな程出ていることや、表情が少し強張っていることも自分でわかってしまう程である。


 しかし、そんな俺の気持ちなんかは完全に無視されたままその大きな扉は開かれた。俺達は再びラウムの後ろを追って玉座の間へと足を踏み入れていく。


 玉座の間に入った俺はあまりのきらびやかな内装に思わず部屋を見回しながら息を呑む。高そうな絵や芸術品が数多く置かれている。


 チラリと他のみんなを見遣るとみんなもこの豪華な内装に圧倒されているようだ。翔吾についてはポカンと口が開いている。玉座の間の壁際には大臣と思われる人達や近衛兵が待機している。


 そして玉座の間の奥にある2つの玉座には茶色の髪の上に王冠を頭に乗せ、金の刺繍の入った赤いマントを羽織った大男が1人。その隣の玉座には金色の髪にティアラをつけており、紫色で綺麗な刺繍の入った豪華なドレスを身に纏った美しい女性が1人それぞれ座っている。


 あれがこの国の国王と女王なのだろう。俺がそう考えていたとき、翔吾と昴が小声で話しているのが聞こえてくる。


「なあ昴。あの女王様すごいでかい胸してるよな!」
「翔吾君はいきなり何を言ってるんですか! 誰かに聞かれたら処刑ものですよ!」


 誰かに聞かれたらではなくもう聞こえてるけどな、と俺は内心呆れながら真っ直ぐに玉座へと目を向ける。ラウムが動きを止めて跪いたので俺は慌てて跪く。翔吾はポカンとした表情で棒立ちになっていたところを秀一達に無理矢理跪かされる。


「陛下。彼らが私共が異世界より召喚致しました勇者の方々にございます」
「ガハハ! 貴様らが異世界から来た勇者達か! 歓迎しよう。私はこの国の国王アルフレッド=ディム=アルムスフィアだ。ラウム卿から話は聞いていると思うがぜひとも我が国に力を貸してほしい」


 玉座で豪快に笑いながらアルフレッド3世は真っ直ぐに俺達を見据えて言った。


「「はい!」」


 秀一が返事をした後につられて俺達も返事をするが少し遅れての返事だったため、なんというか格好がつかなかった。


「フフフ」


 その様子をアルフレッド3世の隣の玉座で座っていたリリアスファム王妃がおかしそうに上品に笑う。


「貴様らも今日は疲れたであろう。ラウム、この勇者達に部屋を用意してやってくれ」
「承知いたしました。それでは皆さまご案内いたします」


 ラウムはアルフレッド3世に礼をして玉座の間から出て行く。あのアルフレッド3世って王様は結構いい人そうだなと思いながら俺もラウムの礼を真似て礼をして出て行く。他のみんなも順番に礼をしてこちらに合流してきた。


 玉座の間を出た俺達はまたラウムの後ろをついて行く。玉座の間を出た瞬間、張りつめていた緊張の糸が切れて思わず俺は全身の力が抜けてしまう。他のみんなの表情からも疲労の色が窺えることから、俺と同じように玉座の間から出た途端に一気に疲れてしまったようだ。


 しばらく広い廊下を歩いているとラウムはとある部屋の前まで来て立ち止まる。


「こちらが皆さまにお過ごししていただく部屋となっておりますゆえお好きなようにお使いください。1人1部屋の個室となっておりますので部屋の割り振りもご自由に。それでは私は仕事があるので失礼しますぞ」


 そう言うとラウムは廊下の奥へと歩いて消えていった。


「とりあえず今日はみんな疲れてるし休もうか」


 秀一の言葉に全員が頷く。そして各々適当な部屋に入っていく。俺も疲れてしまい、早く休みたかったため残った部屋に入る。部屋の中は玉座の間程とまではいかないが、それでも暖炉やシャンデリアなど一般人だった俺には縁遠かったものがこの部屋には多く存在しており俺は改めて異世界に来たんだなと再認識する。


「すげぇ! とんでもないくらい豪華だぜ! あの絵とかいくらくらいするんだろうな?」


 隣から翔吾が1人でハイテンションになって喋っているのが聞こえてきた。あいつめっちゃ疲れてただろうにあれだけのテンションを維持できる体力がどこに残ってたんだか、ある意味尊敬するわと俺は内心で皮肉を言う。他の部屋からも何か声が聞こえた気がするが、俺はあまりに疲れていたためそのままベッドに飛び込んで寝てしまった。
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