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第1章 復讐の始まり

第2話 方針

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□???:一ノ宮和樹


 床が崩壊して落ちて行ったはずの俺達は気づけば何故かとても広く開けた部屋にいた。落ちたときの痛みもまったく感じてはいないし、そもそもここは俺の知っている桜蘭高校とは到底思えない。


 おそらく誰かに救助されて運ばれたという幸運な場合か、もしくは誰かに拉致されたという最悪の場合が考えられるが、おそらく後者は違うだろう。俺達を拉致するメリットが無いからだ。ではここはどこだろう? と考えていたところで他のみんなも目を覚ます。


「こ、ここは?」
「ここはどこなの?」


 秀一と陽菜が辺りを見回してながら不安そうな顔で疑問を口にする。


「学校にこんなところあったのかよ? すげぇな!」
「翔吾君は何をアホなことを言ってるんですか! あるわけないですよ」


 俺もお前何バカなこと言ってんの? と呆れながらも全力でツッコミたくなる。しかし、それは代わりに昴がやってくれたので俺は寸でのところで言葉を飲み込む。


「はわわ! ここはどこなのですか!? みなさん無事なのですか? とりあえず保護者の方々に連絡しなければいけないのですがあわわ!」


 薫子ちゃん、あんたが1番慌ててどうする? 多分これはこの場にいる全員の認識だろうなと俺は思う。


「おや? ようやくお目覚めですかな?」


 この広く開けた部屋の奥から1人の人物が歩いてくる。俺達は警戒しながら歩いてくるその人物を見る。


「そんなに警戒しないでください。私はあなた方の味方ですよ」


 そう言って歩いてきた人物は、刺繍がたくさん入った中世の貴族を彷彿とさせる緑色の服を身に纏った男性だった。すらりと細身の体型で顔も整っている。その男は俺達を一目見るとニヤリと笑う。


「まずここはどこか説明してもらえますか? そしてあなたは誰ですか?」


 秀一が引き締まった表情で一歩前に進み出て男に質問する。


「1つずつ話しますから落ち着いてください。まずここはアルムスフィア聖王国にあるウォーデン城です」
「そんな国は聞いたことがありませんよ!」


 昴は男に怒気を含んだ声で反論する。俺の成績は中の上くらいのため国について詳しくない。だからアルムスフィア聖王国なんて名前の国が存在するかは知らないが、昴が知らないと言うのだからおそらく存在しないのだろうと判断する。


「それはそうでしょうねぇ。なぜならここはあなた方のいた世界とは別の世界、なのですから。そして私はこのアルムスフィア聖王国の宰相をしており、あなた方の召喚主でもあるラウム=ドゥーリッヒです。どうぞよろしく」


 その男、ラウムはそう言うと優雅な立ち振る舞いでお辞儀する。男の言葉を聞いて、俺は大体自分の置かれている状況を理解した。それは拉致なんて生温いものではなく、たまに読むライトノベルでよく見る『異世界転移』で俺達が異世界に召喚されているというらしい。つまり、最悪を通り越して超最悪な状況である。


「異世界だって? ふざけるな! 俺達を元の世界に帰してくれ!」
「そうだそうだ! 早く俺達を家に帰せ!」


 秀一と翔吾が男を睨み付けて言いながら明らかな敵意を向ける。これでは重要な話も碌に聞けなくなりそうだと思い、俺は秀一と翔吾の肩を叩いて振り向かせてから小声で話す。


「2人共、一旦落ち着け。どう考えてもあのラウムとかいう奴がわざわざ召喚したのに何もしないまま俺達を帰すわけないだろ。とりあえず奴の話を聞いてから考えよう」
「そうだな。取り乱してすまなかった」
「悪かったな。後、サンキューな」


 秀一と翔吾はラウムに敵意を向けながらもラウムの話を聞くことにしたようだ。


「なぜあなた様方を召喚したのかをお話しすると、このアルムスフィア聖王国は領土も大きく資源も豊かな国なのです。しかし、近年パンデモニウム魔王国という我が国と敵対する邪悪な魔族の国との争いが活発になってきています。ですのであなた方に強くなってもらって来たるべき時に、パンデモニウム魔王国を倒してほしいのです」


 話を聞き終えると俺達はしばらく黙り込む。いきなり異世界転移で元の世界に帰れなくなり、如何にも邪悪で強そうな名前の国を倒せとか言われても俺達はただの高校生だ。何故俺達なのか聞いてみるか。


「1つ聞きたいことがある」
「何でしょうか?」
「何故俺達がその魔王国とやらに勝てると見込まれているんだ? 悪いが俺達はただの一般人だぞ」


 俺の当たり前の言葉に他のみんなはその通りだといった感じに頷いている。


「今回私達が召喚する際に指定した条件として勇者とその仲間になり得る者として召喚を実行したところあなた様方が召喚されたからでございます。」


 俺は話を聞き終えると他のみんなに向かい合う。少なくとも今は丁重に扱われている以上ラウムに従っておくのが1番良さそうだと俺は思ったため真剣な顔でそれをみんなに伝える。


「ここはラウムに従っておいた方がいいと思う。少なくともあいつは俺達に危害を加えるつもりはないようだし、安全を確保してから元の世界へ帰る方法を探すってことじゃダメか?」
「わかった。確かに和樹の言う通りだ。しばらくはその方針でいこう」
「うっしゃ! それじゃあそれでいくか!」
「そうね。和樹君の案に私も賛成!」
「わかりました。それでいきましょう」
「でもその場合保護者の方々へ連絡しないといけないのですよ」


 後で薫子ちゃんには1からしっかり状況を説明しないといけなさそうだな、と思いながら俺は苦笑いを浮かべる。


「皆さまがよろしければすぐにこの国の国王アルフレッド3世陛下とリリアスファム王妃殿下にご謁見いただきたいのですがよろしいですかな?」
「わかった。案内してくれ」
「それでは私についてきてください」


 秀一の言葉に従いラウムが歩き始めた。俺達はラウムの後を追ってこの広く開けた部屋から出た。
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