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第45話 水の中から金目のものを拾うお仕事

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 あたしは連日、朝食が終わると川原に来ています。
 そこでは、土地神様の大砲引き揚げ作業を見学できるからです。

「さんじゅーなーなー、さんじゅーはーちー」

 土地神様は毎日のように川に入っては泥だらけの大砲を引っ張り上げてきます。

 途中で、あまりにも数が多くなったので黒い石の建物の幾つかが一時的に大砲を入れておく場所になりました。鉄製なので雨ざらしにしておくと錆びちゃいますからね。

「さんじゅーきゅー」

 ずいずいと川の中に入って行き、少しするとずりずりと泥の塊を引っ張りあげます。
 泥に土地神様がしゅーっと蒸気を吹き付けると大砲が元の黒い鉄の姿を取り戻します。
 土地神様は、重そうな大砲をずるずると引っ張って、ごろりんと建物の中に転がします。

「土地神様って、ほんと力持ちですねえ」

「そうですね」

「・・・あたしも潜ったら金貨とか拾って来れないかなあ」

「リリア 水中 危ナイ」

「でしょうね。大砲がこれだけ残っているということは、船の残骸も水中にはだいぶ残っているはずです。装甲板に引っかかったり、水中に残った火薬や砲弾が爆発する可能性もありますよ」

「ひえっ」

 土地神様は黙々と、そして軽々と引き揚げ作業をこなしていますが、普通の人間には危険すぎる作業のようです。お手伝いは難しそう。

「驚異的なスピードですけど、全てを引き揚げるには相当に時間がかかりそうですね」

「そうですね。土地神様が毎日頑張っても、まだ四十門行かないですもからね。全部で800・・・でしたっけ?」

「830門ですか。それと下流に流されたものもあるでしょうから、ペースはだんだん落ちてくるでしょうね。ところで土地神様、艦の残骸から魔導蒸気推進機関を引き揚げることは可能でしょうか」

 聖女様が土地神様に質問をしています。
 魔導蒸気推進機関は王国艦の推進力を支える動力機関、いわば船の心臓部です。

「それもお金になるんですか?」

「どうでしょう?大砲よりは金貨に変えやすいとは思いますけど」

「可能 ダガ 解体 デ 損傷 ノ可能性 ハ 高イ。技術的 二 未熟 ナ 構造」

「土地神様から見たらそうかもしれませんね。それに魔導蒸気推進機関は配管の塊ですから。その上、軍艦の魔導蒸気推進機関ともなれば、魔導大砲よりも遙かに重量がありますし」

「どのくらいの重さなんですか?」

「そうですね・・・どこからどこまでを魔導蒸気推進機関と規定するかによって重さは違いますけれど、2から5万ポンドぐらいはあるのじゃないでしょうか?」

「2万ポンド・・・そんなの土地神様でも無理ですよ!」

「少しやり方を考えないと難しいでしょうね。でもね、リリア。惜しいじゃないですか。大砲は戦争にしか使えませんけど、魔導蒸気推進機関は何にでも使えます。船を動かすだけじゃなく、鉱山の水抜きや小麦粉を挽いたり、土地の干拓にも使えます。土地神様の大砲を引き揚げるお手伝いにも役立つかもしれません」

「それは・・・あたしもできればお手伝いはしたいですけど・・・」

 この辺りで見かける船は、ほとんどが無動力の帆船です。
 もしも船舶用の魔導蒸気推進機関が出物になったら奪い合いが起きるでしょう。

 土地神様と御柱様のおられる土地で暴力は通用しませんから、欲しい人はお金を積み上げるしかありません。

「・・・ひょっとして聖女様もお金が欲しいのですか?」

 聖女様は苦笑しつつ「いいえ」と否定し、言葉を続けられました。

「ただ、私は造られたものはその目的に従って生命を全うすべきだと思うのです。あの子達の軍艦としての使命は終わりました。ですから第二の生き方として、多くの人のために働く仕事を与えてあげたいのです」

 聖女様の仰ることは高尚すぎ、たまによくわからないことがあります。

「要するに、無駄遣いは嫌いなんです」

「あ、それはちょっとわかります」

 聖女様は土地神様が、また川の中に進まれのを見やりつつ口にされました。

「どこかに、お仕事を手伝ってくれそうな方達はいないものでしょうか・・・」

 ◇  ◇  ◇  ◇

「一族の連中に仕事を紹介して欲しいんだ!最近はあんたのところは、えらく景気がいいらしいじゃねえか!どうか頼む!」

「ううむ・・・」

 妻の弟の子共達、といっても多くは赤銅色の肌もたくましい屈強な男達に頭を下げられて、羊飼いのおじさんは当惑していました。

 羊飼いのおじさんは、最近、一族の中でも急激に財貨を稼ぐようになっていました。
 いわば一族の稼ぎ頭です。
 部族社会では、稼ぐ者は社会的立場を得る代わりに、目下の者達を養ってやらなければなりません。

「だがなあ・・・」

「頼む!この通りだ!そろそろ一族の男達にも嫁をもらってやりたい!」

 懸命に頭を下げられても、羊飼いのおじさんのやっていることは、ただ羊を飼っているだけです。
 放牧地が特別なせいか、やたら高品質な羊毛がとれるようになっていますが、そもそも大勢の人間を必要とするような仕事ではありません。

 そして、秘密は守らなければなりません。
 もしも秘密を漏らすと優良な放牧地を失い、さらには怖い侍女の銃弾が自分の頭を狙ってくるのです。
 命がかかっています。

「まあ・・・何とか相談してみよう」

「おお!!」

 部族での立場を失わないために、羊飼いのおじさんは渋々頷かざるを得なかったのでした。
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