1 / 2
1章
1話
しおりを挟む
突然だが僕は人にあまり言えない秘密がある。魔法が使えるのだ。
もう少し詳しく説明するならば、いわゆる時間停止魔法ってやつだ。急に何を言い出したと思われるかもしれない。でも本当に使えるのだ。
「まもなく、1番線に―」
危ない、そう思った瞬間に僕の体は動き出していた。人混みでホームから押し出された一人の少女が線路に落ちていくところに向かって、止まれ、と心の中で叫ぶ。
空中浮遊している少女を地面に引きずり戻し、ホームの端でない適当なところに立たせる。
動け―
そう念じると、人の群れと電車は何事もなかったかのように動き出した。少女は少し困惑しているようだった。急がないと、と僕も来た電車に乗った。
僕が急いでいたのはほかでもない、信州カシオペアの撮影のためである。信州カシオペアというのは一言で言うと珍しい電車の一種だ。関東の大勢の撮り鉄が限られた駅あるいは沿線撮影地に集結するため、早めの時間に行っておかないとキャパが無くなるのだ。
「南浦和~、南浦和~。お出口は―」
着いた。
良かった、まだ5人ぐらいしかいない。
集団にこんちゃー、と挨拶をし、鞄から機材を取り出し空模様を見て軽く設定を組む。試しに2,3枚撮ってみてまぁこんなものか、と重い機材をレンズフードを下にして一旦地面に置く。
自分がいる側のホームの接近が鳴ったので黄線まで下がったが、1人ぎりぎりになっても下がらないガキがいたので、あまり早い時間から危ないことをしていると駅員が注意しにくるから下がっておけと軽く声をかけた。
到着した電車のドアが開き、階段のある方ではなく駅の先頭に向かってくる人が何人かいた。おそらく同業だろう。そのとき僕は思わず自分の目を疑った。
今朝の少女がその中に居たからだ。
ただでさえ撮り鉄をする女は珍しいというのに、それが今朝助けた少女だと言うのか。やはり女の鉄は珍しいからか、おい見ろよ、あれ女子鉄じゃね?などと2,3人が言っているがそんなことは僕にはどうでも良かった。なんか、とにかくただただ衝撃だった。
「こんにちは」
少女は小さく礼をした。朝はよく見なかったが、端正な顔立ちだった。
真っ直ぐで艶やかな黒髪が風に揺れる。
合皮のショルダーバッグから機材が取り出された。
下手すれば僕のより重いんじゃなかろうかという機材を彼女は慣れた手つきで組み立てる。少女は僕のすぐ後ろに立ち、2,3枚試し撮りした後こんなもんか、と機材を地面に置いた。
「どこから来られたんですか?」
少女が口を開いた。僕は話しかけられると思っていなかったので少し動揺した。
「僕ですか?高尾ですけど」
「え、うそ、同じだ。えーすごいこんな偶然ってあるんだー」
いやまぁ知ってたけど。その喉元まで出かけた言葉を飲み込む。彼女は見た目からは少し想像のつかないハイテンションできゃっきゃと騒ぐ。こんな偶然ってあるんだー、ってそりゃこっちの台詞だよ。
「あのー一応公共の場だしもうちょい静かに、ね?」
「あっごめんなさい」
「いや気にしないで」
「でも高尾の方に住んでるんだったらわざわざこっちの方まで来なくてももうちょっと選択肢あったんじゃないですか?それは私もそうなんですけど」
「えでも鳥沢-猿橋とか絶対露出持たなくない?」
「あー確かに。えっじゃあ稲荷山行こうとかは?」
「いや僕は明日も学校なんで……あなたこそどうしてここに?」
「あー私?うち門限19時なんですよー……」
「あーそりゃ辛いわな。強く生きて……てか門限19時って何年生?中1とか?」
「中3です……来年から20時に延びます……お兄さんは何年生なんですか?」
「僕は高1だけど」
「じゃあ1個上かー。」
突然少女から手が伸びてきてむぎゅ、と頬をつままれた。
「あのー、何?痛いから離してくれる?」
「私お兄さんと絶対どっかで会ったことある気がするんですよ。思い出そうとしてるんです」
少女の感覚は確かに正しい。だが能力のことはなるべく人にはバレたくない。
「き、気のせいじゃないかなー?だって君みたいな特徴的な子が撮影地に居たら流石に忘れないと思うし……」
「いやそうじゃなくて……いややっぱり思い出せない、良いや、忘れてください」
「なんやねん……」
もう少し詳しく説明するならば、いわゆる時間停止魔法ってやつだ。急に何を言い出したと思われるかもしれない。でも本当に使えるのだ。
「まもなく、1番線に―」
危ない、そう思った瞬間に僕の体は動き出していた。人混みでホームから押し出された一人の少女が線路に落ちていくところに向かって、止まれ、と心の中で叫ぶ。
空中浮遊している少女を地面に引きずり戻し、ホームの端でない適当なところに立たせる。
動け―
そう念じると、人の群れと電車は何事もなかったかのように動き出した。少女は少し困惑しているようだった。急がないと、と僕も来た電車に乗った。
僕が急いでいたのはほかでもない、信州カシオペアの撮影のためである。信州カシオペアというのは一言で言うと珍しい電車の一種だ。関東の大勢の撮り鉄が限られた駅あるいは沿線撮影地に集結するため、早めの時間に行っておかないとキャパが無くなるのだ。
「南浦和~、南浦和~。お出口は―」
着いた。
良かった、まだ5人ぐらいしかいない。
集団にこんちゃー、と挨拶をし、鞄から機材を取り出し空模様を見て軽く設定を組む。試しに2,3枚撮ってみてまぁこんなものか、と重い機材をレンズフードを下にして一旦地面に置く。
自分がいる側のホームの接近が鳴ったので黄線まで下がったが、1人ぎりぎりになっても下がらないガキがいたので、あまり早い時間から危ないことをしていると駅員が注意しにくるから下がっておけと軽く声をかけた。
到着した電車のドアが開き、階段のある方ではなく駅の先頭に向かってくる人が何人かいた。おそらく同業だろう。そのとき僕は思わず自分の目を疑った。
今朝の少女がその中に居たからだ。
ただでさえ撮り鉄をする女は珍しいというのに、それが今朝助けた少女だと言うのか。やはり女の鉄は珍しいからか、おい見ろよ、あれ女子鉄じゃね?などと2,3人が言っているがそんなことは僕にはどうでも良かった。なんか、とにかくただただ衝撃だった。
「こんにちは」
少女は小さく礼をした。朝はよく見なかったが、端正な顔立ちだった。
真っ直ぐで艶やかな黒髪が風に揺れる。
合皮のショルダーバッグから機材が取り出された。
下手すれば僕のより重いんじゃなかろうかという機材を彼女は慣れた手つきで組み立てる。少女は僕のすぐ後ろに立ち、2,3枚試し撮りした後こんなもんか、と機材を地面に置いた。
「どこから来られたんですか?」
少女が口を開いた。僕は話しかけられると思っていなかったので少し動揺した。
「僕ですか?高尾ですけど」
「え、うそ、同じだ。えーすごいこんな偶然ってあるんだー」
いやまぁ知ってたけど。その喉元まで出かけた言葉を飲み込む。彼女は見た目からは少し想像のつかないハイテンションできゃっきゃと騒ぐ。こんな偶然ってあるんだー、ってそりゃこっちの台詞だよ。
「あのー一応公共の場だしもうちょい静かに、ね?」
「あっごめんなさい」
「いや気にしないで」
「でも高尾の方に住んでるんだったらわざわざこっちの方まで来なくてももうちょっと選択肢あったんじゃないですか?それは私もそうなんですけど」
「えでも鳥沢-猿橋とか絶対露出持たなくない?」
「あー確かに。えっじゃあ稲荷山行こうとかは?」
「いや僕は明日も学校なんで……あなたこそどうしてここに?」
「あー私?うち門限19時なんですよー……」
「あーそりゃ辛いわな。強く生きて……てか門限19時って何年生?中1とか?」
「中3です……来年から20時に延びます……お兄さんは何年生なんですか?」
「僕は高1だけど」
「じゃあ1個上かー。」
突然少女から手が伸びてきてむぎゅ、と頬をつままれた。
「あのー、何?痛いから離してくれる?」
「私お兄さんと絶対どっかで会ったことある気がするんですよ。思い出そうとしてるんです」
少女の感覚は確かに正しい。だが能力のことはなるべく人にはバレたくない。
「き、気のせいじゃないかなー?だって君みたいな特徴的な子が撮影地に居たら流石に忘れないと思うし……」
「いやそうじゃなくて……いややっぱり思い出せない、良いや、忘れてください」
「なんやねん……」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
止まった世界であなたと
遠藤まめ
ファンタジー
ある日、僕たち以外のすべての時が『止まった』
─もし世界の時間が止まったら何をしようか。銀行強盗、人殺し、“動いた”世界での禁止事項を犯しまくる?あるいは摩訶不思議な世界の解明のため旅に出る?
主人公らしい選択も悪党らしい欲望もいらない。
恋人と共にいられる世界で僕たちは“何もしない”を選択する─
デートの終盤、帰る直前に東京の人々は動物の動きがなくなる。時が止まってしまったのだ。しかしなぜかそれに巻き込まれなかった冬馬とすずはデートの延長をするが…
俺の思っていた魔界と違う
霜月りの
ファンタジー
──これは、魔界に迷い込んだ少年と、そこに生きる者たちの物語──
勇者が魔王倒した後の、平和な世界で暮らす少年・アスターは、ひょんなことから魔界にトリップしてしまう。
実は勇者の弟ではあるものの、至って普通の人間である彼は、戦いには慣れておらず、魔物と遭遇しても逃げる一方。ヘトヘトになりながら身を寄せた城で、少女と出会う。
少女の名はクロエ。アスターの兄に倒された魔王の、孫にあたるという。魔族にとって人間は恰好の獲物。ところが彼女は襲いかかることはせず、身の拠り所のないアスターに提案をする。
かつて勇者と魔王の決戦の場だったこの城で、俺も暮らす……だと……?
勇者の弟と魔王の孫。2人を中心に繰り広げられる魔界コメディ!
##############################
小さい子供がいる家庭なので、
更新は週1~2回を目標にしています。
ご了承くださいm(_ _)m
##############################
千年ぶりに目覚めたら子孫達がやらかしてました
End
ファンタジー
かつてこの世界に君臨していた俺が目覚めると三百年たってました。
話を訊くと、俺の子供が色々やらかしていました。
ぶち殺そうと思いましたが...力を失っていました。
どうしたものかと町にいけば、どう考えても別世界でした。
ステータス? スキル? 適正?
何それ?
え? 実は三百年じゃなく千年たってるんですか?
俺の子孫達が覇権を競っているんですか?
取り敢えず冒険者になって金稼ごうと思えば...
そうですか俺のステータスだと無理ですか。
仕事の経験ですか?
あえて言えば暴虐の王ですかね。
勿論過去の話しですよ。
生きていく方法がわからねぇー
◆◆◆
初めての小説です。
色々試行錯誤しながら書いているため文節、表現方法等が落ち着いていません。
そんな文ですが、お気に入りにに登録してくれた方の為にも、最低でも話の内容だけは、破綻しないよう書きたいと思います。
【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話
白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。
世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。
その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。
裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。
だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。
そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!!
感想大歓迎です!
※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)
幻田恋人
恋愛
夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。
でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。
親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。
童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。
許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…
僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…
「学校でトイレは1日2回まで」という校則がある女子校の話
赤髪命
大衆娯楽
とある地方の私立女子校、御清水学園には、ある変わった校則があった。
「校内のトイレを使うには、毎朝各個人に2枚ずつ配られるコインを使用しなければならない」
そんな校則の中で生活する少女たちの、おしがまと助け合いの物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる