年下公爵様は初恋を拗らせる

石原 ぴと

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11話

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「ステファンの所の葡萄好き。今年の出来はどうかしら?」
「最近の中じゃいい出来らしい」

    エリーゼは1つ摘んで食べた。

「ん~おいしい!    ダレンも食べる?」
「いや、大丈夫だ」

    ダレンはなぜ、イライラするのか分からなかった。

「ダレン、もう大丈夫ですので」
「遅い時間に男性と二人きりなんて言語道断です。彼が帰るまで一緒にいます」

 ステファンは、エリーゼの部屋のドアを開けた。

「何をしている!」
「台本の読みに付き合って貰うんです。邪魔するなら帰って下さい。彼は幼馴染です。特に変なことも起こらないですし、起こったとしても公爵様には関係ありませんよね。今日はありがとうございました」

 帰ってほしいと遠巻き言ったつもりだが、ダレンはその場で不機嫌そうな顔をして、留まった。エリーゼはこんなに冷たく言うつもりはなかったが、彼の不機嫌そうな顔を見るとつい、きつく言ってしまっていた。

「わかった、帰る。差し出がましい事をして悪かった。何か手が必要であれば、遠慮なくいってほしい」
「お気遣いありがとうございます。では、さようなら」

 ダレンは帰って行った。

「エリーゼ、よかったの?」
「うん。それより台本《ほん》読み手伝ってくれるんでしょ!?」
「ああ」

 二人は台詞を読み始めた。

「ああああーーまたかんだ。すまん」
「でも助かってる。下手だけど……休憩しよっか?」

 エリーゼは紅茶を給仕し、ステファンの向かいに腰掛けた。

「仕事どう?」

 ステファンは、3年前から上京し、騎士として働いている。

「めっちゃ先輩に扱かれてる。でも有難いよ。早く師団長を倒せるくらい強くなりてぇ~。エリーゼは!?」
「一度だけ舞台に立ったけど、はぁ~、まだまだだよ。次のオーディションでは主役を……」

 エリーゼはオーナーである侯爵の姪を思い出し、表情が翳った。
 縁故ではなく、実力でやりたいと思った。でも、それじゃあ無理かもしれない。

「難しくてもまだ諦めない。まだ頑張れる」

    二人で下の宿兼酒場でご飯を食べて別れた。




    今日はオーディションの役を発表する日だ。ダレンは朝から落ち着かなかった。劇場前に役を張り出されるのは、正午。何度も時計をダレンは確認する。時刻は11時半、痺れを切らしたダレンは立ち上がった。

ーーガタッ

「出かける」

    馬車に乗ったダレンが劇場に着いた。10分前だが既にはりだされていた。1番上の主役に名前はなかったが、上から五番の役に名前があった。ダレンは嬉しかったが、表情には出なかった。花屋に行って花束を買った。宝飾店に行こうと思ったが、また嫌がられたらと思うと入る気にならなず、代わりに焼き菓子を買って劇場前の広場に戻った。噴水の端に座り、エリーゼが来るのをただ待っていた。




    家庭教師の仕事が終わってから、夕暮れの中、走って劇場を目指した。気持ちがはやり、歩いてなんか行けなかった。
    劇場前の張り紙を息を整えながら、自身の名前を探した。1番上の主役は、劇場主の侯爵の姪であるマリアンジェラだった。わかっていたが、少し失望した。それでもヒロイン役のライバル役に選ばれ、エリーゼは顔を綻ばせた。

「おめでとう」

    エリーゼが振り向くと、ダレンが黄昏の中に立っていた。

「ありがとう」

    そう言ったが、なぜこんな所にいるのかとエリーゼは疑問に思った。ダレンは、エリーゼに花束と菓子を渡した。貰った花束は何故か萎れている。

「何故ここにいるんですか?」
「お祝いを言いたくて、僕は君が……」

    ダレンの脳裏にステファンの顔が浮かんで、胸が痛み、好きとは言えなかった。

「私が?」
「応援したいんだ。君の夢を」
「ありがとうございます。女優として花束貰ったの初めてです」

    エリーゼははにかんだ。ダレンは心の中で身悶えた。二人の間に沈黙が流れる。ダレンは指先だけでも触れたくて、家に連れ帰りたい衝動に駆られるが、嫌われたくなくて我慢した。

「しょ、食事でも行かないか?」
「台本読みたいので」
「送っていくよ」
「ありがとう」

    少しでも長く一緒に居たくて、馬車がもっとゆっくり走ればいいのにと思った。エリーゼとの別れは、大切なものを無くしたような喪失感に堪えた。エリーゼを自宅まで見送って、馬車に戻るとエリーゼの残り香が切なかった。

    公爵邸に戻ったダレンは、エリーゼをナチュラルに待ち伏せした報いを受け徹夜で執務をする羽目になった。
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